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Think outside the box

Unus pro omnibus, omnes pro uno

スウェーデンの高生産性のトリック

出生率が日本<北欧であることを根拠に、「日本は北欧より遅れている→北欧を真似るべき」という論者が多くいます。下の記事は、低出生率の「原因」である日本の「後進性」は、生産性の低さ(非効率な経済活動)としても表れていると主張しています。

blogos.com

労働生産性ではスウェーデンは逆に日本の30%近く高い。女性の社会進出が進んだスウェーデンでは働き方の効率性を追い求め、労働時間をできるだけ短縮しようとしている。そちらの方が長時間働くより労働意欲が湧いてくる。*1

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しかしながら、北欧の統計に「トリック」があることを、ドイツの経済研究所CESifoのSinn総裁が指摘しています。

According to the rules of national income accounting, in the absence of market prices, the contribution of the government sector to GDP is measured by the wage incomes paid out by the government, regardless of how productive or useful the government jobs are, […]

市場価格ではなく費用から推計される政府サービスには、GDPを「水膨れ」させる効果があるためです。政府部門で働く人の割合は、日本と北欧が対極にあります。

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政府部門の雇用の多さは、女を"to look after each other’s children"などのために雇っていることの反映です。これもGDPを水膨れさせます。

Furthermore, they encourage women to look after each other’s children, thereby putting them in a position to enter child rearing as a contribution to GDP.

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おまけですが、閉店時間が早いことも、生産性を高めている要因ではないかと考えられます。大都市の一部の大型店を除くと、小売店は18~19時には閉店し、土日も短縮営業か定休が一般的です。なので、共働きの勤め人は、終業後の限られた時間に買い物を済ませる必要があります。これを小売店の側から見ると、単位時間当たりの売り上げが増える→生産性アップです。

www.huffingtonpost.jp

夕方6時。――それは、多くの日本の勤め人にとってそろそろ帰りの電車の込み具合が気になる頃、あるいは「今日も残業か……」とため息をつく時刻――であろうか。

その6時に、ものすごい勢いでパソコンの電源を切り、たどたどしく「オツカレサマ」をいいながら走り去る人々を私は見たことがある。それは社内の7割を占めるフィンランド人、もしくは欧米人であった。

business.nikkeibp.co.jp

日本とは経済社会システムが大きく異なる北欧との比較には注意が必要です。

おまけ①

2013年のスウェーデンの出生の26%は母親が外国生まれ(うち非ヨーロッパが17%)でした*2。「スウェーデンに学べ」と言うのであれば、この重要情報も伝えるべきでしょう。*3

おまけ②

リベラル日本人が礼讃する理想郷のイメージとは異なるスウェーデンの現実。

www.thelocal.se

www.sankei.com

 

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*1:このロジックは「勉強時間を短くすると勉強意欲が増す」とした「ゆとり教育」と同じです。非婚化・少子化ゆとり教育の失敗の類似性については別記事で。

*2:合計出生率への寄与は約+0.1

*3:ノルウェーも出生の1/4は外国生まれの母親によるもの。