太地町公民館大会議室で19日、鯨食と健康影響に関する太地町研究報告会が開催され、同町が平成21年から研究を依頼している環境省国立水俣病総合研究センター(以下国水研と略記)から調査結果の報告が行われた。報告会には国水研の望月靖所長、日本鯨類研究所の藤瀬良弘理事長などの来賓のほか、漁業関係者や町民約170人が参加し、報告に注目が集まった。2人の登壇者からは歯クジラの体内に水銀の毒性を防御する「セレン(Se)」という元素があること、基準値を超える水銀値を持つ太地町民に健康影響は見られなかったという報告が行われ、鯨食の「安全性」が示される結果となった。
歯クジラ(バンドウイルカ、ハナゴンドウ、スジイルカ、コビレゴンドウが対象)の筋肉における水銀の化学形態の調査結果を報告した国水研国際・総合研究部/環境・疫学研究部の坂本峰至部長は、水銀との親和性が非常に高い「セレン」に注目しクジラの体内での水銀の蓄積状況を示した。化学分析の結果、歯クジラの筋肉内でメチル水銀はセレンと結合し無機化されることが判明。また、電子プローブマイクロアナリシスという分析装置を用いたバンドウイルカ筋肉内の構造解析では、筋肉内で無機化された水銀はセレンと結合し、不活性なセレン化水銀(HgSe)として筋肉細胞内に蓄積されることが示された。坂本部長は、「鯨の場合は高濃度の水銀の無機化能力が非常に高い」とし、鯨食による健康影響を抑制しているとの見方を示した。
国水研臨床部総合臨床室の中村政明室長は、平成25年1月から太地町民153人を対象に、メチル水銀曝露の健康影響に関する研究結果を発表。血液検査の結果、クジラを多食する人の毛髪水銀濃度が高いという事実が明らかになった。その中でWHOの基準値の上限(日本人平均は男性2.5ppm、女性1.6ppm)である50ppmを超えている10人を調査。しかし水銀中毒が引き起こす視神経、嗅覚などの神経障害の症状は見られず、毛髪水銀濃度と神経障害の相関性は見られなかったという。このことから、クジラに多く含まれるセレンが水銀のメチル毒性防御の一因となっていると推論。それを裏付ける実験結果をもとに、セレンのメチル水銀解毒機構の推定モデルも提示した。
三軒一高町長は講演後、「これまで鯨食の安全性はわれわれの体で証明してきた。今回の研究結果によって科学的な証明がされたと思っている」との認識を語った。
■今後の調査課題も
今回の調査結果は成人を対象にしたものであり、メチル水銀の曝露に最も影響を受ける胎児への影響は現在準備段階でまだ明らかにされていない。また、鯨食の盛んなデンマークのフェロー諸島で過去に行われた小児発達への影響調査(89~90年)では、毛髪水銀のレベルと軽度の言語障害などとの相関性が指摘されており、国水研では今後はそれらのデータとの整合性を模索していく考えを示した。今後は太地町と近隣の那智勝浦町の小学生を対象に研究を進めていく計画が持たれており、クジラだけでなくマグロの水銀の影響も視野に調査が行われる予定だ。 |
|
![]()
開会のあいさつをする三軒一高町長 |
|
|