そんなおり、面白い記事を見つけた。ARDの特派員が、上海での4年間の任期を終えるにあたって書いたものだそうだが、内容は、「西側諸国がイスラムテロとの戦いに敗退している最中、中国は静かに世界の頂点に近づいていく。北京の影響が膨張していくところでは、自由が死ぬ」というものだ。
香港の民主主義が壊されていく様子、また、アフリカなどの独裁者が、中国の資金で、中国と共にさらに独裁を強めていく様子などが赤裸々に描かれている。
もちろん、日本人にとってはどれもさして目新しい内容ではないが、私が驚いた理由はとりもなおさず、このように習政権を堂々と批判する記事が掲載されたことである。この特派員も、上海にいた間は書けなかったのかもしれないが、今までの特派員は、任期の後でも書けなかったのだ。潮流は変わってきている。
そういえばドイツでは、香港で反中国政府の書店の幹部が行方不明になっていることも報道された。1997年、香港がイギリスより返還された時、香港の自治は50年間継続するということが英中間で取り決められたが、中国は14年、それを一方的に無効とした。確かに中国の言論統制システムは、その経済圏が広がるにつれて、国境を越えて世界のあちこちに浸透し始めているのかもしれない。
言論統制といえば、ドイツは現在、11月に成立したポーランド政府が民主主義を抑圧し、言論の自由を奪おうとしているとして、声高に非難している。それに怒ったポーランド政府が、1月10日、ワルシャワにいるドイツ大使を呼び出して、行き過ぎた反ポーランド報道にクレームをつけるという一幕があった。
今、ドイツ政府は一生懸命、関係修復に励んでいるものの、国内には依然としてポーランド政府を非難する声も高く、言論の自由をめぐって独ポ関係は少しギクシャクしている。
しかし、考えてみれば、あれだけ中国に入れあげていたドイツが、ポーランドを反民主主義だと攻撃するのは矛盾している。ポーランドの政府は、国民が選挙で選んだ政府だ。やや右傾した政権ではあるが、中国のように選挙もなく年に1度10日間だけ国会が召集される国よりは、ずっと民主的に違いない。
ついでに言わせて貰えば、ドイツでは反日報道も甚だしく多い。中国報道が矯正されるのと同時に、ぜひ日本報道ももう少しまともなものにしてもらいたいと切に願う。
著者: 川口マーン惠美
『ヨーロッパから民主主義が消える』
(PHP新書、税込み864円)
押し寄せる難民、繰り返されるテロ、そして甦る国境……。日本人がいま絶対に知らなければならないことは何か? ドイツ在住30年のベストセラー作家による現地レポート!
川口マーン惠美
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