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第114話 七つの色を統べる者
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ツグナがかつて生を受けた地へと帰郷を果たしたのと同じ時期、レバンティリア神聖国の首都・レバノイアに白の枢機卿の姿があった。この都市の中心には王宮がそびえ立ち、そこから都市を南北に分ける「中央通り」とも呼ばれる大きな道が走っている。
「……」
その大きな道を、固い表情を浮かべたヴァイスが羽織る白いコートを翻しながら歩いていく。黙したまま歩く男の背には、コートに刺繍された上下逆の十字架が風に揺れていた。
中央通りの両脇には数多くの店が立ち並び、通りを歩く客を呼び込んでいる様子が多く見受けられる。豪奢な馬車を引く馬の蹄の音が響き、見渡す限りの人で埋めつくされたその光景は、まさに大都市と呼ぶに相応しいものだ。その中央通りから少し離れた場所には、広大な土地に建設された白亜の建物がその威厳を見せつけている。
大聖堂と呼ばれるその白亜の建物は、彼が属する組織の中枢だ。中に入るとシスターや司祭が揃って頭を下げる。訪れたヴァイスは彼らをちらりとも見ず、赤い絨毯の上をただ歩いていった。
その地下、一般の者は立ち入ることができない場所へと続く階段をヴァイスは静かに下っていく。靴音が周囲に反響し、耳に届く中を険しい表情を崩さずに歩く。やがて階段を下り終えた彼の目の前に、巨大な鉄扉が姿を現す。その扉の前で一瞬立ち止まった後、ヴァイスは静かに重い扉を開けた。
重厚な扉を隔てたその先には、既に十余名ほどの人間が集まっている。世代も性別もバラバラではあるが、唯一「人族」という種族が共通していた。
「……ったく情けないなぁ~。ヴァイスがついていながら殺せなかったんでしょ、あの異端者。折角あの双子の魔書持ちまで投入したのに、暴走させた挙句助けられるし……踏んだり蹴ったりだよまったくさぁ~。いっそのこと、私が燃やしてやろうか? 跡形も無くさ」
幾人もの人間が集う中、彼の姿を目にした途端にそう口火を切ったのは、真っ赤なローブを身に付けた幼い女の子だった。串の刺された大きな飴を手に、少女の声が響く。アイボリーの長い髪にアクアマリンの瞳がより愛らしさを引き立てる。けれども、そんな可愛らしい容姿とは裏腹に、告げる内容は物騒この上ない。周囲から漏れる「黙っていれば可愛いのに」という評価に意を介さず、失態を演じた本人を目の前に堂々と言い辛いことを少女は告げた。その肝の太さは生来の性格ゆえか、はたまた絶対の自信があるからかはヴァイスには分からない。ただ黙ってその言葉を受け入れるのみである。そんな呆れの混ぜた声に、緑色のローブを纏った茶髪の若い男の声が続いた。
「まぁそう言うなよ、赤き火。ヴァイス殿はもともと戦闘には不向きなんだから」
表情を若干引き攣らせながら場を取りなすように呟いたその言葉も大した効果はく、直後に「だってホントのことじゃん」と一刀両断されてしまう。二の句を継げない青年に対し、彼の脇に立っていた老人が口を開く。
「取り繕う必要はないぞ、緑の風。確かに赤き火の言う通りじゃて。あの小僧……ワシの腕を喰らいおった。魔書持ちをもってしても倒し切れなかったのはワシらの落ち度じゃて」
口元を歪め、苦り切った表情で呟くのは、黄色のローブに身を包んだ黄の雷と呼ばれる年老いた男だ。その時のことを思い起こしたのか、今は無きその右腕を左手で優しくさする。
「おやおや、そんな面白い事があったとはねぇ……是非ともそのツラを拝んでみたいもんだよ」
「何だと!? その口に雷をブチ込んでやろうか、藍の補助!」
口惜しげに呟くゲルプの言葉にしゃがれた老婆の声が重なる。反射的に吠えた老人の視線の先には、藍色のローブを纏った小柄な老婆がいた。「おぉ……怖い怖い」と呟きつつも、薄気味悪い忍び笑いの声が余計に黄の雷の癪に障る。そんな険悪な雰囲気の中、呆れを混ぜた女性の声が響く。
「この二人の応酬はいつものことだが……そろそろ本題に入らないか? 私の方も色々と予定が詰まっているからな。そうだろう? 青き水に橙の大地」
おもむろに紫色の前髪を掻き上げた彼女は、同様に近くで年老いた二人が言い争う様子を眺めていた男女にそう呼びかけた。
「どうでも。というより……起きてなきゃダメ? 面倒だし眠いんだけど」
「あはは……。まぁオランジュはいつものこととして、僕も紫の錬金の言葉は一理あるかと思いますよ? ……こうして僕達≪色持ち≫全員が一同に会するなんて滅多にないですし。それだけに、この場で話されることは重要だと位置付けられるということでもありますからね」
青き水と呼ばれた金髪碧眼の青年が言う通り、彼らのいるこの広間には≪色持ち≫と称される面々が勢揃いしている。
可愛い容姿と仕草からはおよそ想像がつかない苛烈さを併せ持つ少女――赤き火。背は低くともアイボリーの髪にアクアマリンの瞳を有する彼女は、人形の如き愛らしさをその身に纏っている。だが、そうした魅力的な容姿とは対照的に、内には凶悪な力が秘められている。彼女の火系統魔法によって壊滅された街や村は両手で数えることができないほどで、ある話では「彼女の通った道には、燃え尽きた灰のみが残る」などとまことしやかに囁かれている。
壁際で気だるそうに突っ立っている女性――橙の大地。普段はやる気のなさそうに見える彼女は、極端な二面性を有している。戦闘時にはカチリと人格そのものが入れ替わったかの如く、目の前に立ち塞がる敵に凄絶な魔法をブチ込む戦闘凶な一面が顔を出す。繰り出される魔法は、一見地味な地系統魔法だ。しかしながら、その一撃一撃には普段の彼女からは想像出来ない精密な魔力制御が施されており、≪色持ち≫随一の継戦能力を持っている。
ツグナによって右腕を喰われた老人――黄の雷。今は無きその右腕は義手へと変貌した彼だが、その瞳は戦意を失ってはいない。むしろその瞳には今まで以上の「妄執」が宿っている。この老人の特徴は速度にあり、身体移動だけではなく魔法の射出速度それ自体も他の色持ちに抜きん出たものを持っている。外見はごく普通の老人だが、相対した瞬間に命を狩り取られるなどとは誰も想像ができないだろう。
茶髪の短い髪にモスグリーンの瞳を持つ青年――緑の風。穏やかな雰囲気を纏い、いつも優しげな笑みを浮かべるこの人物は、一見すれば街のどこにでもいるごくごく普通の青年のようにも思える。幼い妹を世話する心優しい兄とも印象を受けるこの青年だが、一度戦闘に入るとその印象はがらりと変わる。彼の持つ風系統魔法は、その攻撃力の高さもさることながら一番の長所として挙げられるのは「制音性」である。気配を断ち、ただ黙々と相手の命を切り裂く彼の様は普段の温厚さとはかけ離れた「非情なる処刑人」といった印象を受ける。
金髪碧眼の穏やかな雰囲気を醸し出している青年――青き水。その澄んだ瞳に落とされる女性は多く、すらりとしたしなやかな身体つきも相俟って受ける印象は好青年という表現が言葉通りに当て嵌まる。彼の持つ水系統魔法は固体・液体・気体と状態変化させることが可能で、局面によって最適な運用ができ汎用性が高い。攻防を兼ね備えたその魔法は、まさに「奇術」と称されるに相応しい技巧である。
薄気味悪い笑い声を上げ、黄の雷と常に言い争いを始める老婆――藍の補助。「犬猿の仲」である黄の雷とは長年付き合いがあり、《色持ち》の中では最古参の一人である。この老婆の持つ補助系統魔法の特徴はそのバリエーションの幅の広さだ。回復・支援・阻害の魔法を使用でき、支援魔法一つとっても能力値上昇、耐性付与、装備の能力を一時的に引き上げる……などがある。補助と言っても、場面によって陰に陽に活躍できる彼女の魔法は誰であれ喉から手が出るほどに欲しいものであろう。
さらりと流れる紫色の髪を揺らすのは紫の錬金だ。彼女はどちらかと言えば戦闘職というよりも生産職に近い存在で、自身の持つ錬金系統魔法で高品質な武器を製作したり、回復薬や解毒薬などといった道具を調合したりするのが主な仕事である。だが、彼女は生来の「研究者」として命そのものを主題に日々研究を行っている。合成獣の作製はその代表格で、他の命を自身の研究のために平気で弄べるその狂気は一部の者からは恐れられている。まさに狂気なる探究者と呼ぶに相応しい人物である。
そんな彼らとは所属が異なる者が二名ほどいた。
「確かにブラウ様の言う通り、この場に召集されることが既に異常事態……我らの主は何をお考えなのでしょうか?」
ブラウの意見に賛同しつつも声を上げたのは、濃紺のスーツに深紅のネクタイ姿の女性だった。ボブカットの栗色の髪に灰色の目。女性特有の高い声が広間に響き渡る。
「影の調和の長よ、分からんか? ついに我ら全員にてあの異端者とそれに連なる一味を叩き潰せと仰せになられるのだろうよ。かの教皇様はな」
高揚感を隠しきれぬ声で意見を述べたのは鉄の甲冑に身を包んだ一人の男だった。顔も含めた全身を銀の鎧に守られているためにその表情を読み取ることは叶わないが、耳に届く声から察するに戦闘を望んでいるのだということが伝わってくる。ハルモニイと呼ばれた女性は、不可解そうに眉根を寄せると鎧の男にすげなく告げた。
「そうは言うがな、鉄血部隊の長よ。魔書持ちでさえも倒せなかった相手に、数だけで挑んでもヴァイス殿達の二の舞になるだけだと思うがな。色持ち殿らと貴殿らはいいとしても、我らハルモニイは暗殺専門部隊だ。正面きっての戦闘にはいささか不利だと思うがな」
「ふん。臆したのか? あの異端者の存在は確かに脅威ではあるが、何も正面きっての戦闘だけが勝負ではない。あの異端者の周辺、奴に与する連中を削ぎ弱体化を図ることも立派な戦略ではあると思うがな」
「しかし……」
「――おやめなさい」
ハルモニイが苦言を呈すその寸前に、よく通る少女の声が広間に響く。その声を耳にした一同は、一斉に口をつぐみ跪く。
突如として現れた一人の少女。脇から悠然とした足取りで現れた彼女は、純白のドレスに身を包み、長い銀髪を伸ばしている。煌びやかに輝くその頭に金色のティアラを冠した彼女が広間に備えられた雛壇――その頂上にある肘掛椅子に腰を下ろした。
「「「「「お待ちしておりました、虹彩の教皇様」」」」」
床に跪き頭を垂れた一同は、彼女の姿を見るや否や揃って挨拶をする。
彼らの主であり、この七煌教会を統べる「教皇」と呼ばれる存在に対して――
ってなワケで、とうとう≪色持ち≫全員の登場です。
簡単にまとめると以下の通り。
赤の火…幼い女の子。ただし、性格はキツめ
橙の大地……やる気無し&戦闘凶な二面性を持つ女性
黄の雷……右腕を失った老人
緑の風……優しげな好青年。ただし、暗殺特化型
青き水……執事っぽい青年。何考えてるかよく分からない。腹芸得意
藍の救い……ゲルプと対立する老婆
紫の錬金……マッドサイエンティストな女性
……うーん。ロクなのがいない(´-ω-`;)
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