[書評] ぼくは科学の力で世界を変えることに決めた (ジャック・アンドレイカ, マシュー・リシアック)
15歳の少年が独自に、初期段階の検査が難しいとされてきた膵臓癌の画期的な検査法を発明したという話題は、ネットで見かけてから気になっていた。ジャック・アンドレイカ君の話である。
まず、本当かなということが関心だった。なので、そのことが書かれいた本書を読んでみた。なんと言っていいのか、奇妙な本だった。「本当かな」という部分については、本当だったという点で、天才少年と天才的な発明の物語のドキュメント性はある。それだけでも面白い。そして当然だが、物語はその成功譚と苦難の物語になるのだが、そこがちょっと思っていたことと違っていた。というかかなり違っていた。
まず、ジャック・アンドレイカ君がどれほどすごいかというのは、TEDにある彼自身の話がわかりやすいかと思う。
天才というのはこういうものだなというのがよくわかるスピーチだが、見ていると、強調されているGoogleとWikipediaのほかに、さりげなくPLOS Oneが出くる。批判もあるが、この威力はすごいなと思う。
英語だが内容がわかりやすいので、もう一つわかりやすいドキュメンタリー風のものも紹介しておこう。
さて、ジャック・アンドレイカ君の主要な話はTEDに尽きているとも言えるし、邦題も副題とこのTEDから付けられたように思える。その意味で、この物語のメインロードははっきりしている。書籍のほうを見ると、さり気なくだが、彼の天才性はぎしぎし伝わってくる。
で、そう、で? 実は物語としてこの本を読むともう一つのテーマがある。LGBTの青年の物語なのである。うかつではあったが、ジャック・アンドレイカ君は、天才的な発明の連鎖ではあるだろうが、その面でもある種、ヒーローというか著名な唱導者にもなっている。
その意味では、本書は、天才少年の物語や、米国という国がどのようにイノヴェーションに開かれているかということに加え、普通に、と言ってよいと思うが、LGBTの青年の物語であり、さらに広義には、いじめられる青年の物語である。その部分は、読みやすく書かれてもいる。
翻訳書としての少し残念に思うのは、解説がないことだ。訳者の中里京子さんが一文書いてもよかったのではないだろうか。
原書はKindleにもあった。冒頭を読んでみると、現代米語らしい雰囲気だが平易な英語でもある。高校英語の副教材にも使えるのではないか。
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