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【大学ナビ】私大連「人文社会系」改廃に反論 文科省・経済界に異例の提言

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私大連「人文社会系」改廃に反論 文科省・経済界に異例の提言

 「これからの私立大学のあり方に関する提言」。日本私立大学連盟(会長=清家篤・慶応義塾長)がこんな文書をまとめた。人文社会科学系の学部・大学院の改廃、「役立つ人材」のための職業教育の偏りなど、改革論議の背景にあるものに懸念を示し、私大連としての考え方を打ち出した。高等教育における私立大の貢献を強調する一方、各大学が、それぞれの独自性を積極的に情報発信する必要性を訴えた。

 提言は昨年12月中旬、文部科学省と経団連など経済4団体に示された。「似た文書はこれまでもあるが、それらは加盟校を念頭にしており、社会に向けての発信を意識したのは初めて」(山下隆一・私大連企画政策担当課長)。背景に、高大接続のあり方、大学定員枠の厳格化、職業教育での要請など、私立大を取り巻く環境が大きく変化している現状がある。

 提言は5項目。まず私立大は「それぞれ建学の理念で教育を進め、多くの学生を受け入れ、国や社会からの要請にも取り組んできたが、次第に画一化への道を歩んできた」とし、この状況を放置すれば「各大学の価値と多様性は失われ、私立大全体が時代のダイナミックな変動に対応できない」と警鐘を鳴らした。

 そのうえで各大学が、独自ビジョンと中長期計画を策定する必要性を訴え、学内での学修成果を明確に把握できるようにするとともに、アドミッション(入学者受け入れ)、カリキュラム(教育課程編成・実施)、ディプロマ(学位授与)の3ポリシーの再検証を大学全体で進めるよう求めた。

 私立大が果たす使命では「『その時代の』社会に実在する業種に直ちに役立つ実際的な技能を訓練することに限られない」とし、変化の激しい現代社会では、学生たちに論理性、主体性と広い視野を身につけさせ、「適切かつ主体的に判断していく能力」を育成することが第一義的な役割で、「それを職業教育にどのように結びつけるかは大学独自の判断にゆだねるべき」とした。

 さらにグローバル社会では「国際通用性のある」リベラルアーツ教育が欠かせないとし、人文社会科学系の組織改廃を求める文科相通知に反対を表明。経団連の調査報告「国立大学改革に関する考え方」でも「産業界の求める人物像はその(通知の)対極」とされたことに言及し、各界が「人文社会科学を含む幅広い教育の重要性」の認識を保持するよう求めた。

 最後に経営基盤の安定化で「私立大は高等教育の8割を担うにもかかわらず、国の財政支出では国立大との格差が著しい。社会に貢献する活動を維持するためにも改善が急務」と訴えている。

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 ■「私立大のあり方」提言骨子

 ▽私立大の使命は、学生が論理性、主体性と広い視野を身につけ、時代の変化にも対応できるよう教育すること。職業教育をどう結びつけるかは、各大学が独自に判断すべきものである

 ▽グローバル社会で重要なリベラルアーツ教育は主に、人文社会科学、文理融合分野でなされる。人文社会科学系組織の廃止や転換を求めた文科省の通知は、産業界の見解にも反する

 ▽大学教育は、初等中等教育の上に、独自なものとして再構築されるべきだ。独自性、創造性、多様性に配慮した自由な学問・研究こそが大学教育の基盤である

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【用語解説】日本私立大学連盟

 「4年制以上または大学院のみを置く私立大」で組織する一般社団法人で、現在121大学が加盟。会員数では日本の私立大全体の約20%だが、比較的規模の大きな有力大学が多く、学生数と財政規模では全私立大の約50%を占める。

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