2010年1月に女の子を出産した漫画家の伊藤理佐さんと、ご主人の吉田戦車さん。出産当時、伊藤さんは40歳、吉田さんは47歳でした。自由で不規則な生活が長かったお二人ですが、子育てをしていることで肉体的にも精神的にも変わった面があるそうです。
ネタの取り合いにネタ作り旅行!?子どもを介した夫婦の日常
吉田:子どもが2,3歳の頃までは、生き物として最高に面白かったから、漫画のネタの宝庫だったなぁ。
伊藤:うちは、何か面白いことが起こると、先に描いたもん勝ち。念のため、ラフの段階で見せ合ってはいるけど。
吉田:生活がぜんぶ仕事になるから、因果な商売だよね。
伊藤:イヤな仕事ですよ。ネタが切れてくると、「よし、どっか行こう!」って、こないだは奥多摩まで初のキャンプにも行ったし。
吉田:ピンポイントで雨に降られたけど、あれはあれで楽しかった。
伊藤:子どもが成長してくると、父親と母親の教育観のズレが出てくる場合もあるみたいだけど、そのへんはうちはあんまりないかな。
吉田:子どもに対して俺が怒鳴ったり、言葉が荒っぽくなると、「それはやめてくれ」って細かいダメ出しは普通にあるけどね。
伊藤:「バカ」って言うと、子どもも真似して「バカ」って言っちゃうから、それはやめようねとか。
吉田:「バカちんが!」って、言い方ちょっと和らげてくれとか。
伊藤:それが「パカ」になって「アルパカ」になって、最近「パカめ」から「パカラ」になって…。それでも、一応、子どもの前では、父親が一番えらいことにして、そういうプレイをしてます。「ほら、お父さんが帰ってきたよ!」、「お父さんがこう言ってたよ」って大げさなくらいに言って。
吉田:「理不尽に怒ることもあるんだよ、お父さんは」とかね。
伊藤:お互い結構、子どもの前でも生身の姿をさらけ出してるほうだと思う。お父さんだから、お母さんだから、いい人間とは限らない。不機嫌だから怒ることもあるんだって感じで、あんまり反省はしないかも。
暴力的にまともな生活をさせられる!親になって変わったこと
吉田:ただ、子どもが生まれて確実に変わったのは、お互い健康になったこと。夜11時に寝る生活なんて、それまでの伊藤さんにはありえなかったし。
伊藤:子ども中心の生活してると健康になりますよ。子どもの前だと朝ご飯ちゃんと食べなきゃいけないし、野菜も食べるし。ほとんど暴力的にまともな生活させられてる。その反動で、幼稚園のお泊まり保育があって、夜娘がいなかったときの私たちの荒れ方すごかったもんね。
吉田:4軒ぐらいはしごしたんだっけ?
伊藤:まず歌舞伎を観に行って、新橋で1杯ひっかけて、高円寺で飲んで。その後、たばこ吸わないくせに、なぜかシガーバーに行ったりして、家に帰ってからも、さらに飲んでた。
吉田:そんなに飲んだっけ?
伊藤:手がプルプル震えてるのに、「なんでこんなに飲んでるんだろう? なにはっちゃけてるんだ?」と思いつつ。翌朝、結婚してはじめてゴミ出しを放棄して。よくわかんないけど、楽しかったことにしておこうと。
吉田:子どもが外泊することあったら、これからも絶対、外に出るね。家でおとなしくメシ食うなんてことは、絶対ないな。
伊藤:あと親になって変わったのは、我慢する、待つことを覚えたことかな。仕事柄、人を待たせることが多かったけど、子どもが産まれてから待たされることが増えた。子どもが遊んでいる間も、おっぱい飲み終わる間も、常に待たされて…。歴代の担当編集者さんたちに仕返しをされてる?呪われてる?と疑うほどですよ。この年で、そんなことができるようになったのが、ステップアップなのかダウンなのかわからないけど、やっと普通の社会人になれたかな?と。
吉田:家族で動物園に行ったときも、「代わりばんこでウォーキングしようよ」って言うと、「見てるから行ってきていいよ」って、遊具コーナーで遊んでいる娘をずーっと待ってたよね。その間にこっちは動物園を3周ぐらいして。
伊藤:ああいうところにいる他のお母さん、普通に待ってるんだもん。
吉田:辛抱強くなったよね。遅くに産んだ子というのもあって、「いま一緒にいなきゃ損だ。目を離したらあっという間にでかくなっちゃう」って言っていたこともあったしね。
伊藤:私ももう40代半ばだし、吉田さんも52だし、娘が成人する頃は老人だねぇ。
吉田:できるだけ娘に介護されないように長生きしなきゃ、っていうのはやっぱり強く思う。同世代で死んでいく人も結構いるから、減塩を心がけたりはしています。あと20年、できれば30年は元気でいたいね、お互い。
伊藤理佐
漫画家。1969年生まれ、長野県出身。2010年、第一子出産。87年、『月刊ASUKA』に掲載された「お父さんの休日」でデビュー。2005年、『おいピータン!!』で 第29回講談社漫画賞少女部門受賞。06年、『女いっぴき猫ふたり』『おんなの窓』など一連の作品で第10回手塚治虫文化賞短編賞受賞。代表作に、『やっちまったよ一戸建』『なまけものダイエット』『おかあさんの扉』など。
吉田戦車
漫画家。1963年生まれ。岩手県出身。1985年、雑誌のイラスト等でデビュー。1991年、『伝染るんです。』で第37回文藝春秋漫画賞を受賞。代表作に『ぷりぷり県』『火星田マチ子』『まんが親』『おかゆネコ』、エッセイ集『吉田自転車』『逃避めし』などがある。2015年、一連の作品で第19回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。
※プロフィールは記事掲載時点の情報です。
編集/山上景子 文/樺山美夏