なぜ「よい人」が採用できないのか?

(写真:アフロ)

ちょっと前のことになりますが、人事系のビジネスパーソンが集まる、ある会合で、下記のような質問を受けました。

「最近、いい学生が採用できなくて困っています。わたしどもの業界には人手がまったく足りていないのです。どんなに採用活動に投資しても、いい人がとれません。先生の目からみて、最近の大学生は、どのように変化しているのでしょうか? 最近の特徴はありますか?」

この類の質問は、よくいただくことがあるのですが、真摯に考えようとしますと、なかなか答えることが難しい問いのひとつです。

そもそも「最近」といっても、何を比較対象として「最近」を照射するのか。また「大学生」といっても、どういう大学にいる、どういう大学生をさして、答えればよいのか、必ずしも自明ではないからです。

しかし、さすがに時間が差し迫っていることもあり、これらの焦点を絞る一連の問いかけを行うわけにもいかず、一方、「わかりません」とシャットダウンとすることもできず、一寸、考えたうえで、僕は、下記のような趣旨のことを述べました。

「これからお話しすることがどの程度一般性のあることかはわかりません。あくまで、わたしの周囲の学生だと思って聞いてください

わたしの認識に関する限り、間違いのないことは、ここ数年の大学生ーとりわけ皆さんが採用したいと思っているハイポテンシャル人材の特徴は、すでに"覚醒していること"と、大人の事情、組織の事情は、おおむね"バレている"ということではないかと思います。それらを前提にして、今後の人事施策は考えていく必要があるのではないでしょうか?」

つまり、どういうことかと申しますと、下記の通りです。

第一に"覚醒していること"とは、現在の大学生は、中高大の物心ついたときから、キャリア教育等等の施策によって「自分の仕事人生は自分で切り開くんだよ」と言われている世代であり、程度の差こそはあれ、そのような意識をもっている=覚醒しているということです。

マスで統計をとれば、そのことに面倒を感じる学生も多々おりますので、「自分の仕事人生を組織に丸抱えして欲しい」という回答も増えるでしょうが、「覚醒の程度」は、少しずつ増しているような気がします。おそらくは、皆さんが欲しいと思うようなハイポテンシャル人材であればあるほどそうでしょう。

そのような彼らに、「いつか報われるかもしれないし、報われないかもしれないけど、組織に忠誠を誓え的な人材施策」は、マッチングは難しく思います。

皆さんの会社の人事施策は「いつか報われるだろうから、忠誠を誓え」になっていませんか?

第二に「バレている」とは、どんなに組織が、自社の社員の働き方の暗部や、組織として隠したいことを隠そうとしても、インターネットの発達によって、少し智慧をしぼれば、それらはすでに「白日のもと」に晒されており、バレているということです。

情報化社会とは「隠したいと思う情報ほど、バレていく社会」であり「アピールしたいと願う情報ほど、流通しない社会」です。組織が隠したい情報は、多かれ少なかれ、すでにばれています。

先だっても、非常にかつては誰もが憧れる就職先で、最近、採用応募者が激減しているある業界の方が、研究室を訪れ、「なぜ減っているんでしょうかね」と申しますから、

「そりゃ、今、現在のみなさんの働き方と、その働き方の先に広がる未来が、今の学生に、バレているからですよ。」

と申し上げました。学生から聞いている話をそのままお話しただけですが、かなりのショックであったようで、申し訳なく思っています。学生は徹底的に、その会社のことをググッて熟知しておりました。

ソーシャルメディアの発達は、同期間ネットワークや、大学卒業生のネットワークの維持も容易にしました。すると、組織に入ったあとに自分の身におこっている「不条理な出来事」が、「一般性のあること」なのか、それとも「特殊なこと」なのかも、ある程度は、検知することができるようになりました。

ワンワードで述べますと、

組織が「上」と個人が「下」という「非対称の関係」は、少しずつ綻びかけている

のだと思います。

ある意味で、組織が「上」と個人が「下」という「非対称な関係」を「前提」とするような人事施策、社会化戦略というのは、非常に「楽」で「わかりやすい」ものです。

しかし、わたしたちは、「組織と個人が非対称の関係をなす時代」をしだいに抜け出てきています。ならば、人事施策、社会化戦略も、少しずつ変化させることが必要になると思われます。おそらく、皆さんの欲するようなハイポテンシャル人材になればなるほど、その傾向が強まるのではないかと思います。

今日は、最後はやや抽象的な話になりましたが、「最近の大学生の特徴?」という話から、これからの人事施策を考えていくうえで、必要な要点を述べました。今日の話がどれだけ一般性をもっているか、僕にはわかりません。

でも、わたしたちは、これから10年ー20年、さらに組織が「上」と個人が「下」という「非対称な関係」を「前提」にしない人事、人材開発のあり方を、少しずつ模索していく方向に進むと思われます。

そこで必要になるのは、「組織のことを強制的に好きにさせる」とか「組織の知られたくないことを意図的に隠して、労働力調達する」とかいう方向「ではない」ものだと思われます。

むしろ必要になってくるノは「組織への共感」「ポジもネガも明らかにした採用力の向上」等でしょうか。

僕はそんな未来を「妄想」しています。

みなさんはいかが思われるでしょうか。

そして人生は続く

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に2015年3月20日に掲載された記事の加筆・修正版です)