ある嵐の夜に出会ったオオカミのガブとヤギのメイが、暗闇の中でお互いの正体を知らずに友達になる。翌日に会う約束をして顔を合わせてみれば食う者と食われる者の関係。それでも2匹は、互いの種族にとって許されぬ友情をひそかに育む▼旭川市在住の絵本作家、あべ弘士さんが作画を担当した絵本「あらしのよるに」(木村裕一作)が教えてくれる大切なことの一つは、どんなに敵対的にみえる集団に属していても、固定観念を捨て個として付き合えば友好関係を築き得るということだろう▼例えば中国を敵視する人も、中国人と虚心に付き合ってみれば、絵本のように「きが あうな~って」思うことだってあるかもしれない▼過激派組織「イスラム国」と、その壊滅を図る有志国連合のメンバー同士でさえ、互いにそうと知らず話してみれば「こんど てんきの いいひに おしょくじでも」となるかもしれぬ▼ガブとメイの関係はやがてオオカミとヤギそれぞれの集団に知られ、2匹は一緒に逃げることになってしまう。だが、もしも二つの集団の間に2匹のような関係がたくさん生まれれば、集団の関係自体が変わることもあるのではないか▼そのためにはまず、つまらぬ先入観や偏見や憎しみを夜の闇に溶かしてしまうこと。そんなに難しくはないはずだ。ヘイトスピーチをするような人たちと逆の態度を心掛ければよいのだから。2016・1・16