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必見! ベルトルッチ『暗殺の森』(上)

症例としてのファシスト

藤崎康

ファシズムの病理

 イタリアのファシズムをモチーフにした『暗殺の森』を、昨年(2015年)11月、久しぶりに東京・新宿武蔵野館のスクリーンで再見し、あらためてその強烈な魅力に酔わされた(DVDあり)。

 1941年生まれのイタリアの名匠、ベルナルド・ベルトルッチ初期の傑作(1970)だが、ファシズムという病を大上段に批判するのではなく、あくまで、一人の男がファシストと化していく過程を、彼の少年期の性的トラウマとの関わりで――つまりケース・スタディ/症例分析として――炙(あぶ)り出す点に、この映画の突出したユニークさ、恐ろしさがある。

『暗殺の森』拡大『暗殺の森』
 つまり、もっぱら主人公の言動をとおしてファシズムの病理に迫るところが、『暗殺の森』の恐怖と魅力の核心なのだ。

――メインとなる舞台は、第2次大戦前夜(1938)のファシスト党支配時代、すなわちムッソリーニ統帥による独裁体制下のイタリア。

 大学の若い哲学教師マルチェッロ(ジャン=ルイ・トランティニアン)は、前述のように少年期の性的トラウマにさいなまれている。 ・・・続きを読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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