中国の銀行から手紙が届いたのは2015年4月15日。住宅設備機器メーカーのLIXILグループがドイツの同業大手、グローエを買収したわずか2週間後のことだった。
ジョウユウというグローエの中国子会社が融資を返済していない、と手紙は説明していた。LIXILグループ経営陣の最初の反応は、驚きだった。同社はジョウユウの中国人創業者からグローエの保有株を買い取るのに2億500万ユーロを支払ったばかりではなかったか?
だが、この融資は氷山の一角だったことが判明、LIXILグループはその後間もなく、ジョウユウの破産を申請するとともに660億円(5億6000万ドル)の損失が生じると株主に警告することを余儀なくされた。
ジョウユウは、複数の貸し手から資金を調達する際、担保として中国国内の工場を何回も差し入れていたことが明らかになっている。同社はさらに、その資金の一部をシャドーバンキング(影の銀行)に貸し出していた。この借り入れと貸し付けからなるピラミッドが崩壊したことが、LIXILグループに大きな穴をあける結果となった。LIXILグループがグローエを買収した時、その子会社であるジョウユウは成長の鈍化にあえいでいた。シャドーバンキングにまた貸ししている企業家に対し、銀行が融資の回収を進めたことで、債務不履行が急拡大したわけだ。
「多国籍企業はシャドーバンキングに伴うリスクを甘く見ている」と北京大学光華管理学院のポール・ギリス氏は言う。
1979年 | 蔡建設氏が後にジョウユウとなる事業を創業 |
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2004年 | TPGとクレディ・スイスが15億ポンドでグローエを買収 |
2010年 | ジョウユウがフランクフルトに上場。グローエが株式の7.1%を保有 |
2011年 | 浴室・建材会社5社の経営統合でLIXILが誕生 |
2013年 | 蔡氏一族がジョウユウとジョウユウ・グローエ・ホールディングの持ち株を、グローエ株12.5%と交換。グローエがジョウユウの株式の72.3%を保有 |
2014年 | LIXILと日本政策投資銀行がグローエの株式の87.5%を取得。ジョウユウの香港部門がみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行から3億ドルの借り入れを実施。HSBC、野村、スタンダードバンクに対し、未払いだった融資残高を返済 |
2015年4月 | 蔡氏一族のドイツ持ち株会社が、まだ保有していたグローエ株12.5%をLIXILに売却 |
2015年5月 | ジョウユウが破産申請 |
2015年6月 | LIXILが投資家に、ジョウユウ破産に伴って生じる3年間で660億円(5億6000万ドル)の損失について警告 |
さらに言えば、今回の事態は中国のような新興市場を含む海外での大型買収のリスクを浮き彫りにした。2015年12月、LIXILグループは最高経営責任者(CEO)の藤森義明氏が16年6月に辞任すると発表した。藤森氏は、「辞任はジョウユウと無関係だ」と主張したが、このスキャンダルは同氏の在任最後の1年と、急激に国際展開を進める戦略を台無しにした。
LIXILグループが資金を回収しようと努力する一方、ジョウユウの創業者たちは中国の銀行からの返済請求とたたかっている。資金の一部がシャドーバンキング市場に流れ込んだことは、損失の一部を取り返そうとする株主と金融機関の努力をいっそう複雑にしている。海外に上場している中国企業の外国人債権者が係争中の資産の清算や取得に成功することは、めったにない。
この物語の発端は1979年にさかのぼる。ちょうど中国政府が市場型の経済改革に乗り出したタイミングで、蔡建設氏が中国南東部の福建省に水栓の生産工場を操業したときのことだ。それから30年後、同氏と息子の蔡吉林氏は地元・南安の街の大物になっていた。
ジョウユウは中国で業界大手の一角を占めるまでになり、2010年にはフランクフルト証券取引所に株式を上場、IPO(新規株式公開)で1億500万ユーロを調達した。
ドイツ上場の2年前、グローエと戦略提携する1年前に、ジョウユウは主力事業の浴室設備で200%の増収を計上していた。
他の海外上場中国企業での似たような売り上げ急増は、空売り筋が不正会計の可能性を探るきっかけになった。だがLIXILグループは、中国の銀行の手紙が届くまで問題があると思わなかった。後に行った調査の概要によると、同社は2008年にまでさかのぼるジョウユウの「不正会計」を発見、そこには「極めて金利の高い」簿外の融資が含まれていたという。蔡氏親子は取材依頼にこたえなかったが、LIXILグループは電子メールによる質問に回答している。
LIXILグループは、「グローエの経営陣はジョウユウに対して、いくつかの一般的な懸念事項を有していた」ものの、同社とグローエの経営陣が不正会計を「知っていた証拠は見られない」と結論付けている。
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