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”ファック・ザ・ポリス!”『ストレイト・アウタ・コンプトン』

映画 音楽


12/19(土)公開『ストレイト・アウタ・コンプトン 』予告編

 N.W.Aの伝記映画!

 1986年アメリカ、コンプトンの街。若き麻薬の売人だったEは、親友のドレーに出資話を持ちかけられる。ギャングが飽く事なき構想を繰り広げるこの街の現状をラップにして歌うので、資金を出さないかというのだ。学生であるアイス・キューブも加え、アルバムを完成させた彼ら。後に空前の大ヒットとなるギャングスタラップはこうして幕を開けた……。

 ギャングスタラップの先駆けとなったグループの結成秘話! 監督はF・ゲイリー・グレイ。『ミニミニ大作戦』とか『交渉人』とか、毒にも薬にもならん映画を撮ってる雇われ監督……という印象だが、元はミュージック・クリップの出身で、アイス・キューブのPVや彼の主演映画『フライデー』なんかも撮っている。言わば、これが本職なのだ!

 麻薬の売人だったイージーE、就職もせず親がかりだったDr.ドレー、学校に通う「バス男アイス・キューブの三人を主軸に、まずは彼らがブレイクするまで……。ギャングスタに実際に足を突っ込んでいたEがボーカル兼出資者で、ドレーが作曲、キューブが作詞。音楽やめて働きなさいとしょっちゅう言われながらも、ドレーには腹案があった。彼らアフリカ系がロス警察によって不当逮捕や嫌がらせの憂き目に遭うシーンが、似たシチュエーションで何回も入りやたらと強調されるのだが、その地元の現状をこそラップにしたらウケるんではないか? その発想から生まれたのが最初のアルバム「ストレイト・アウタ・コンプトン」。これがやっぱりバカあたりし、一気にスターダムへ! マネージャーを迎え入れてツアーも敢行で絶好調。

 音楽は全然素人だったイージーEがなぜかラップをやることになったのも、その地元のソウルを最も表現できるからなのだ……。そう言いつつ、真面目な学生だったアイス・キューブがのちにソロでラップして大人気になっちゃうのが実話の面白いところでもあるわけだが。

 そのアイス・キューブ役はオシェイ・ジャクソンJr.。他の役者は似てる人から似てない人まで様々だが、この人はアイス・キューブそっくり……って、実の息子だったよ! 似過ぎ……。当時のPVが流れるが、本人なのか息子なのか段々わからなくなってくる……。なんというDNA過多。母親の遺伝子はいったいどこへ……?
 アイス・キューブと言えば、映画に出たら三枚目のお笑い担当になってしまうんだが、いざ実話となると全然違うんだな。極道だったからか義理人情に篤いEと、生活力のないドレーと対照的に教育も受けていて文系キャラ。頭の切れる二枚目ポジションに。しかしそれゆえに、ポール・ジアマッティマネージャーによるピンハネに疑惑を持ち、メンバーを離れることに……。

 メンバーが徐々に分裂していく過程も描かれるのだが、ピンハネしているジアマッティマネージャーとて、完全な悪人ではないのだな。差別に立ち向かい警官にも堂々と反論するリベラルな価値観の持ち主でもあるし、メンバーには親身だ。唯一、金のことだけは別なのだが……。またメンバーそれぞれも全然完璧な人間ではなく、分裂してはdisりあい、また離れ離れになりを繰り返す。しかしdisりあいでも完全に勝っているアイス・キューブ、口も達者すぎる。またDr.ドレーも最初は音楽バカだが段々人間ができてきて、プロデュースなどにも本領を発揮するように。対してちょっと取り残され気味のイージーE、人情こそあるのだが、若干頭の悪い感じに描かれている。これはもちろん若くして病死を遂げ、今作の脚本に他の二人は噛んでいても彼は関わっていないからで、いささか皺寄せが来てしまうのもむべなるかな……。

 実話の面白さプラス楽曲の素晴らしさで引っ張ってくれる映画で、N.W.Aに詳しくなくても音楽業界の混沌ぶりなどがわかりやすく、面白い。当時の世相が描かれている、と言いつつ、警官による黒人へのヘイトクライムは今も繰り返されている。そのあたりも今作を生み出す推進力になったのであろう。

 また大変な実話力映画で良かったなあ。これにて2016年の映画初めとなりました。

ストレイト・アウタ・コンプトン

ストレイト・アウタ・コンプトン

アイス・キューブ・グレイテスト・ヒッツ

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ボーイズン・ザ・フッド [DVD]

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