海外の映画やドラマはお好きですか?
母国語でない作品を見るときに切っても切れないのが、字幕や吹き替えです。でも、あの字幕をどうつくるのかご存じでしょうか?
実は、人間が1秒間に読める文字数には限界があるため、字幕翻訳を作る際には、実際のセリフと秒数を考慮して訳語を考えなくてはいけないそうなのです。見ているだけでは、想像もつかないことですね。
そんな字幕の世界について、この道10年の字幕翻訳者、高橋純子さんにお話をお伺いしました。
■人間が認識できるのは1秒4文字!
まず、字幕の基本的なルールから。
字幕は、1秒4文字、1行16文字で2行まで。つまり1枚の字幕に収める字数は最大32文字です。
でも実際には、画面に32文字が並ぶことはほぼありません。ただし企業ビデオなどの場合は1秒5文字、1行20文字でOKだというケースも。
他にも「字幕間は2~3フレーム空ける」「もっとも短い字幕は15~20フレームまで」など、細かい決まりがあるのだとか。
このようなルールができた理由については、「人間が一瞬で認識できる文字列が1秒=4文字だからだと翻訳学校では説明された」と高橋さんは教えてくださいました。
そのため、たとえば「サンフランシスコ」や「ニューヨーク」など、瞬時で認識できるカタカナが入っている場合は、字数を多少オーバーしてもOKと思われているそうです。
■長い台詞をどうやって短くするのか
しかし気になるのが、字幕をどうやって決められた字数におさめているのかということです。
そもそも、俳優が実際に口にするセリフの方が断然長い(言葉数が多い)ので、そのまま全部訳したら絶対に字数がオーバーしてしまいます。
そのため字幕にする際は、原文のニュアンスをいい換えてくれるような適切な語句を探すのだそうです。
字幕では、日本語の流れのよさが求められます。そして、字幕だけで読んでも、話の流れがわかるような訳が理想的なのだそうです。
■取材時に13と30の聞き間違えも
ところで字幕づくりには、どのような苦労があるのでしょうか?
この点について高橋さんは、「自分の苦手な分野の字幕をつくるときがもっとも大変」だといいます。
中国ドラマから車のレストア番組まで、どんなお仕事が来るかわかりません。専門的な番組では、視聴者がその分野に詳しいことも少なくありません。そのため、短い納期の間に調べものを徹底的にしないといけないわけです。
私たちが何気なく見ている字幕も、裏側では相当の時間と労力をかけてつくられているのですね。
そして、こんなこともあったそうです。
海外の放送局が、日本の某農園を取材した番組でのこと。映像では年間生産量を「300トン」と言っているのですが、その農園のことを調べると年間生産量は「130トン」。
取材段階での「30」「13」の聞き間違いの可能性も捨てきれないので、悩んだ末「100トン以上」と訳したのだとか。
“サーティーン”と“サーティ”はたしかに似ていますよね。しかし、生産量を間違えたら視聴者が誤解してしまいます。
重要な部分はそのまま訳さずに、適切な表現を探さないといけないというところからも苦労が伺えますね。
そんな高橋さんから、字幕でテレビ番組や映画を見る人にアドバイスをいただきました。
「最近は映画、テレビ番組とも吹替え作品が多いですが、俳優の生声が聴ける字幕作品には吹替えにはない魅力がたくさんあります。お気に入りの字幕翻訳者を見つけてみるのも一興かもしれません」
*
英語が聞き取れる人なら、「セリフではあんなこといってないのに、なぜこの字幕?」と思ったことがあるのではないでしょうか?
実はこんなルールがあるから、そのまま訳すわけにはいかないのですね。短い時間で矢継ぎ早にセリフをいうシーンななどは、かなり字幕翻訳者泣かせなのかもしれません。
次に字幕作品を観るときは、ぜひこんな字幕翻訳者さんたちの作業にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
(文/松丸さとみ)
【取材協力】
※高橋純子・・・字幕翻訳者。代表作は、FOX『コップス~全米警察24時』やMTV『衝撃!世界のおバカ映像Ridiculousness』など。ナショナルジオグラフィック、ディスカバリーチャンネル、アニマルプラネットなどのドキュメンタリー番組も。
チーム翻訳に参加したAmazonオリジナルドラマ『Bosch』シーズン2が近日配信予定。2月11日~20日開催の恵比寿映画祭展示作品の字幕も手がけた。