2016-01-19
父親越えの神話 クリード チャンプを継ぐ男
映画 | |
新年の誓いもどこへやら。早速ブログ更新サボりがちになっています。この年末年始は「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の前日譚コミックスを買ったり、話題の埼玉県dis漫画魔夜峰央の「翔んで埼玉」を買ったりしつつ、相変わらず「キン肉マン」が最高!という漫画生活だったのですが、実は大きな節目もありました。それはついに「週刊少年マガジン」連載漫画の中で読んでいる作品が「はじめの一歩」だけになってしまったのです!週刊少年マガジン自体を読み始めたのが中学の頃で、その時「はじめの一歩」は幕之内一歩VS冴木卓馬だったでしょうか。実際に買っていた単行本は「特攻の拓」だったり「カメレオン」だったり「湘南純愛組!」だったりといった暴走族漫画が中心だったのですが(いずれも何らかの形で今もシリーズ続いているね)、現在も読んでいるのは「はじめの一歩」だけ。一時期はジャンプやサンデーと比べても一番連載作品を読んでいた雑誌なのですが。最も僕が個人的に新連載をあまり読まなくなってしまったというだけで、別に連載している他の作品がつまらない、とかではないです。いずれにしろ読んでいるのが1本だけで、しかも休載しがちなので「はじめの一歩」が掲載されていない週はそっと書店の棚に戻す感じでした(厳密に言うと「ライアー・ゲーム」の作者による新連載が始まってそれは読んでいるので現時点では掲載作品は2本読んでいることに)。
中学の時に「はじめの一歩」を読み始めてもう20年以上経っているわけですが、劇中での物語進行は2〜3年程度でしょうか、漫画の一歩に憧れてプロボクサーになった人間がきちんと実績を残して引退していてもおかしくない年月です。果たして一歩VS宮田は実現するのでしょうか?そして「はじめの一歩」の題材はご存知ボクシング。ボクシングといえばやはり金字塔といえるのが映画の「ロッキー」ですね。その「ロッキー」シリーズももう約40年になんなんとするわけですが、なんと新作が!というわけで「ロッキー」シリーズのニュージェネレーション、「クリード チャンプを継ぐ男」を鑑賞。昨年のベスト作品です。
物語
母親を亡くし荒れた少年時代を過ごすアドニス。収容された施設でも喧嘩に明け暮れる日々。独房に入れられたアドニスに面会に来たのは見知らぬ女性だった。彼女の名はメアリー・アン。彼女はアドニスの父、アドニスが生まれる前に亡くなったその男が彼女の夫でボクシング世界ヘビー級チャンピオンだったアポロ・クリードだと告げる。メアリー・アンは夫の愛人の子であるアドニスを受け入れ一緒に暮らすことにする。
それから十数年。アドニスは一流企業で働いていたが満たされず、週末にはメキシコで賭けボクシングの選手をしていた。会社を辞めたアドニスは父の所属したジムでも相手にされず、フィラデルフィアへ向かう。そこにはかつての父の最大のライバルで親友だったロッキーがいた…
今年は奇しくも「スターウォーズ」の新作と「ロッキー」の新作がほぼ同時期に公開されたわけだが、この2作は(物語の部分とは別に)かなり共通点が多いように思う。最初の「ロッキー」と「新たなる希望」はともにアメリカン・ニューシネマの影響を強く受けながら、この2作(スピルバーグの「ジョーズ」含める場合もある)がニューシネマの時代を終わらせ、80年代のハリウッドのビッグバジェット時代を築くきっかけとなったともいわれる。共に創造主であるシルベスター・スタローンとジョージ・ルーカスの個人的な思い入れが強い作品でも有り、力強い物語でありながら、プライベートフィルムの趣も漂わせる。スターウォーズの方が宇宙を舞台にしたSFファンタジーと言う体裁のためわかりやすいが物語は神話的である(スライの作品だと「ランボー」のほうがより神話的な趣は強い)。
新作に限れば更に共通点は多くなる。どちらも7作目であり、新世代の物語。新章でありながら過去のすべての物語を内包する。それは物語だけではなく製作も創造主の手を離れ、シリーズの強い影響を受けた若いクリエイターが手がけているという制作部分にも及んでいる。ただスターウォーズの方は基本的にルーカスの手を離れたのに対し、こちらはスライがきちんと関わっている点が大きな違いか(もちろんスライはシリーズの創造主、脚本家というだけでなく主演である点も大きい)。
この2作はもちろん物語的には現代を舞台にしたボクシング物と遠い昔、遥か彼方の銀河系を舞台にしたスペースオペラという時点でかなり違うのだが、それでも神話的な色彩をまとっているところも一緒だろう。そしてその点で新作に限って言えばより成功しているのは「クリード」の方だと僕は思う。
アポロ・クリードは「ロッキー」の1〜4作目に登場。1作目では主人公を引き上げるマーシャーだが、ロッキーは結局負けてしまう。2でロッキーに倒され3では親友に。そして4ではロッキーに成り代わり戦った結果リング上のしを迎える。初期「ロッキー」シリーズに常に主人公のロッキーの壁となって成長を促す役目であった。演じたカール・ウェザースのスラと対照的な社交的、派手好きな容姿も相まって強い印象を残す(運動神経抜群だったそうである)。余談だが僕は長らくこのアポロと「スターウォーズ」シリーズのランド・カルリシアン(ビリー・ディー・ウィリアムス)の区別がつかなかった時期があって、そんな部分でもこの2シリーズはダブって見えてしまう。
アポロの所属するジムの名前はデルフォイジム。アポロでデルフォイといえばギリシア神話のアポロンとその神託が得られるところで有名なデルフォイ(デルポイ)を思い出すだろう。アポロンは美男子でもありギリシア男子の理想形でもあった。アドニスは直接アポロンと関係有るわけではないが、こちらもギリシア神話由来の名前でやはり「美しい男子」の代名詞的存在。曰くのある生まれやペルセポネを養母に育てられたことなんかも、今回の話と共通するかも。アポロ/クリードのアポロが本名かリングネームかは分からないが(クリードは本当の姓のようだ)、アドニスの母親はかなり狙って息子にアドニスと命名ソたのではないだろうか。
デルフォイの神託を巡る物語で最も有名なのは「オイディプス」の神話だろうか。ソフォクレスの「オイディプス王」として有名ですね(2500年前の戯曲だが傑作なので是非読んで欲しい)。「父を殺し母と交わる」と神託を受けたオイディプス王が自らも知らぬ内にその信託を実現してしまい、そのために国に不幸が起こり原因を探ったら自分だった!という物語。心理学用語のエディプス・コンプレックスの元ともなっている。「父殺し(あるいは父を越える)」というのは神話の定形の一つであるが、「クリード」ではすでに父親は死んでおり、乗り越える壁としては崩れること亡くそびえ立っている。劇中You Tubeで往年の「ロッキーVSアポロ」の試合をアドニスが見るシーンがあるが、あるいはああいうのが現代のデルフォイの神託といえるかもしれない。
監督は「フルートベール駅で」のライアン・クーグラー。スライに直談判しロッキーサーガの新作として「クリード」を制作にこぎつけ、脚本も手がけている。「フルートベール駅で」でもハンディカメラの荒々しい映像があったが、それはこちらでも発揮されている。というか最初の「ロッキー」は低予算でハンディの映像も多かったため、むしろ映像技術的にはこちらが本家「ロッキー」の手法に舞い戻ったというべきか。「ロッキー」ではフィラデルフィア美術館の階段を駆け上がるシーンが印象的だが、こちらではランニングするアドニスと並走するバイク集団がアドニスのトレーニングに感極まったのか何故かウィリーするシーンが似た感動を与えてくれる。
ロッキーに成り代わりタイトル・ロール、アドニス・クリードを演じるのはマイケル・B・ジョーダン。「クロニクル」の優等生であり、「ファンタスティック・フォー」のヒューマントーチ、ジョニー・ストーム。今回は監督のライアン・クーグラーの前作「フルートベール駅で」から引き続き主演。正直ヘビー級のボクサーとしては細い身体つきだがそれでもこれまでの役柄から見るとかなり鍛えたと思われる。この人の特徴はなんといっても天性の人懐っこさだろう。実際のところは知らないがかなり育ちの良さが伺えて、優等生役はもちろん、今回のアドニス、「フルートベール駅で」の前科持ちの父親という役柄を演じていても粗野になりすぎず、荒みすぎず前向きな希望をもつ役をやらせたら素晴らしい。
「ロッキー」で言えばエイドリアンにあたる恋人役ビアンカにテッサ・トンプソン。難聴でいずれ耳が聞こえなくなる歌手という役柄。恋人同士が単に好きになるというだけでなくなんとなく自分に似たところに惹かれ合うのもロッキーとエイドリアンを思わせます。
タイトルロールから降り、裏方に回ってもこれは「ロッキー」サーガの1編である。ロッキーはもちろんシルベスター・スタローンが演じている。前作の「ロッキー・ザ・ファイナル」の時点ではまだ存命だったポーリーも亡くなって、息子はカナダで働いていてめったに合わなくなっている。ジムに足を運ぶことも無くなりもっぱらレストラン「エイドリアン」の経営の日々。そこに突然アポロの息子を名乗る男がコーチしてくれ、と押しかけるわけである。
ロッキー自身はトレーナーとしては一度挫折している。「ロッキー5」で自分に似た境遇の男を育てたが、その男トミーは「ロッキーのクローン」と呼ばれることに反発してロッキーの元を離れていく。映画の中では増長したトミーをロッキーがストリート・ファイトで懲らしめるという形になっていたが、そりゃどんなに頑張っても「ロッキーのクローン」「ロッキーの七光」としか言われなきゃ嫌になるだろう。
そんなロッキーのもとにやってきたのはアポロの息子なわけで、いわばアドニスは「アポロの息子」と「ロッキーの弟子」という二重の七光があることになる。だからロッキーは最初はかなりアドニスのトレーニングコーチになることを渋る。逆にアドニスに取っては最後の希望が父親の宿敵で親友だったロッキーなのだ。
スライは今でも「エクスペンダブルズ」シリーズはじめアクション映画で気を吐いているだけあって、今でも十分筋肉もりもりではあるのだが、この映画ではほとんどかつての凄さを感じさせるようなシーンはない。むしろ老いて肉体的にも衰えていく様をかなり繊細に演じている。特に中盤ガンであることが判明し病床生活を送る展開になってからはもちろんメイクのせいもあるのだろうが、本当にマッチョマンのスライとは思えぬ。それでも確実にロッキーとして年輪を刻んできた演技で、ラジー賞常連のスライだが、今回は絶賛されたというのも納得。
その他チャンピオンとして(つまりかつてのアポロの役割)アドニスの前に立ちはだかるチャンプ、リッキーに現役ボクサーのアンソニー・べリュー。こちらも試合前はかなり意地悪く挑発するものの試合が終わったら健闘を讃え「オレの次のチャンプはお前だ」というところはいいですね。
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ロッキーのテーマはここぞというところで使われます!
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監督の前作。
とにかく、「ロッキー」というシリーズの魅力をきちんと抽出してその上でなぞりながらも新たな物語となっている素晴らしい新章。次は是非、イワン・ドラゴの後継者と戦って欲しいですね。何ならイワンはまだ現役でもいけるんじゃないか、と。ドルフ・ラングレンはスライの横で頑張っているわけだし、あの人超絶いい人っぽいから頼まれたら断れないと思う。
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