小学生の頃、薬局の横にポツンと立っている自販機が気になっていた。
飲み物ではなく、タバコにしては種類が少ないし高い(1,000円)。
母に「あれ何?」と何度聞いても
毎回「何だろね?」と真相から遠ざけようとする。
思い切って薬局のオッちゃんに聞いてみた。
「オッちゃん!あの自販機は何?」
するとオッちゃんも「坊ちゃんにはまだ早え〜よ笑」と誤魔化す。
大人が隠せば隠すほど、あの自販機で売られている正体が気になってしまう。
あれはなんなんだ?
しかし、世の中の問題がふとしたことがキッカケで解決することもあるように、このモヤモヤもたった一つの出会いが解決してくれた。教えてくれたのは中学1年時にクラスメートだった関西出身のK君。
「ゴムや」
「なんの?」
「そりゃあー大人のアイテムや笑」
「え?」
「マリオがキノコ取るようなもんや!」
「ん〜良く分かんない・・・」
「ったく…耳貸せや」
(ゴニョゴニョゴニョ)
え?・・・そうなの?
「装備すれば未知の世界や」
「そうなんだ・・・」
でも腑に落ちない。
なんであんな値段?
中はどうなってるんだ?
「そんなん気になるなら買ってみいや」
そうか・・・買えばいい。
1ヶ月後、私は大人の階段を登ることにした。
日々の小遣いを貯めてゴム代を確保したあの日。
「ちょっと○○君家で勉強してくる!」とウソをついたあの夜。
夜8時を過ぎた商店街は多くの店舗のシャッターが降り、薬局周辺は静けさに包まれていた。数秒間自販機を見つめたあと、周りに誰もいないことを確認し、なけなしのお金を入れる。
ガチャン!!!
静かな商店街に響くゴム箱の音(ね)。
急いで取り出し口から箱を取り出し、その場からダッシュして離れる。
家に帰ると「行く日間違えた」と伝えて部屋へ。
そしていざ対面。
箱を開けると龍のイラストが書かれたパッケージが5連式になって出てきた。
いでよ神龍(シェンロン)ってか?
封を切ると中からゴムが出てくる。
少しキツめの匂いがしたが、これもオトナの世界と自分に言い聞かす。
ここでK君の言葉を思い出した。
(「ゴムをオニタケにハメれば完了や笑」)
多分その時装着するのが運命だったのだろう。
小学生ではなく中学生。
未熟な心とは裏腹に確実にオトナへなっていくカラダ。
タイミングよく二週間前からポルチーニ周辺には雑草が生えてきた。
きっと雑草はゴムを受け止めるクッションなんだ。
時は満ちた。
いざ!!
・
・ ・
・・・
ん?変わらない・・・
もしやナメック星のドラゴンボールのような暗号が必要なのか?
ポッポルンガプピリットパロ!!
・
・・
う〜ん・・・
少しいじってみたけど萎んだ水風船のようで、感じるのは悦びよりも怒り。
何かが違う…騙されたか?
翌日K君の意見を求めてみた。
「買ったけど何もないよ…」
「アホか!使うタイミングがあるんや!
「タイミングか」
「そーや!なんなら今度教えたるから家来いや!」
「おっ、、、おう」
K君は言葉数こそ少ないが、妙に発言に説得力を感じた。
生まれてから東京暮らしの私にとって、関西人=ちょっとしたブランドに見たのかもしれない。
ー後日K君宅ー
K君のお母さんが用意してくれたジュースやお菓子が後ろめたさを感じる。
「マサの為にホンマすんませんねー」
K君は私から勉強を教わるという話にしていた様子。
「はよ出てってやー!!」とお母さんを部屋から追い出す。
誰もいなくなった部屋でK君はおもむろに机の引き出しから、ビデオとイヤホンを取り出した。
「音大きいからコレつけてや」
イヤホンを二人で片耳ずつ付ける。
後ろから見れば確実にヤバいカップルだっただろう。
ちなみにK君が用意した作品は魚顔の女優が出ていた熟女モノ。
君は幾つだ?というのはさておき、とりあえず鑑賞開始。
今ならもう少し楽しめるかもしれないが、中学1年にとって熟女はキツイ。
しかし、K君にはヒット作品のようで、徐々に目が血走っていくのを感じる。
約5分後・・・
「今や!」
大きな掛け声と共に慣れた手つきでゴムの封を鮮やかに切り、ズボンの中でゴニョゴニョさせて取り付けた(?)
そのままジャージのズボンまで勢い良く下げ
「どや?」
正直ゴムを装着したK君の舞茸は見たくなかった。
なぜだ?が、生きるサンプルはK君しかいないので、見てみる。(見えてしまう)
ほほう。
マックス時に付けるのか…
これがプロの仕事ってやつか・・・
しかし、少しすると疑問が浮かぶ。
「そっからどうするの?」
「そりゃあ、お前…」
返答に困るK君のエノキはみるみる小さくなり、自身が装着した時同様に萎んだ水風船へと変わる。
【ホワンホワンホワンホワぁ〜〜ン】
クイズ番組で出演者が答えを間違えた時のように、K君のエリンギは終焉を迎えた。
[シュポ・・・]
黙りながらミニマムになったナメコからゴムを外したK君は伏し目がちに、その後様々な女性に発しただろう言葉「今日は調子悪りーわ笑」で誤魔化そうとしたが、私も馬鹿ではない。
(やっちまったなコイツ…)
二人の間に流れる少しの…いや、かなりの後悔。
こうしてゴム装着大作戦は中途半端な形で終わった。
帰り際「これ持ってきぃ」と渡してくれたポッキーがほろ苦く感じたのは、後にも先にもあの時だけ。
「ボッキーちゃうねん…」
家に帰ってからK君を真似て関西弁を発してみたが、いまいちピンとこなかった。
それから私とK君は別々のクラスになり、廊下ですれ違った際に挨拶する程度の仲となる。
ブナシメジを出したものと見てしまったもの。
両者が経験した黒歴史は誰にも話さず、十字架を背負ったまま僕らは学び舎を卒業した。
その後K君がどうなったのか知らない。
実家の近所にあった薬局は5年前に閉店し、あの自販機も消えた。
それでも私はK君を時折思い出す。
コンビニでゴムをカゴに入れる人を見た時、薬局の横にある自販機を見た時。
「今や!」
と叫ぶK君の顔が浮かぶ。
今でも思う。
K君はなぜあの時、躊躇なくアミタケをボロンと出したのだろう?
なぜ帰りにポッキーを渡して口封じにかかったのだろう?
そして危惧する。
今でも「今日は調子悪りーわ笑」と言ってないだろうか?
未だに「未知の世界や」とか言ってないだろうか?
シュポっと淋しげに外してないだろうか?
全て分からないが、一つ分かっていることは互いにとって黒歴史ということ。
薄暗い5畳の部屋で一体何をしていたのだろう?そんな淡い思い出でした。
- 作者: 玉木えみ,飯沢耕太郎
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