| 末路 第1話 |
2016年7月某日、私は予てよりネット上で言い合いをしていた相手から刑事告訴され、取調を受けることになった。
相手方は私に対し、数々の誹謗中傷だけでなく、サイトのスクリーンショットを貼り付けたことによる著作権侵害や、
関係のないトラブルのことを書いたプライバシーの侵害、実名を晒した名誉毀損などを訴状の中で取り上げていた。
―――軽い気持ちだった、
誹謗中傷と認められるはずがないと思っていた。
だが現実に、私は裁かれようとしている。
私のした事で。
***
10年前の同じ時期だった。
相手方に謝罪を何度も求められるようになる切っ掛けとなった出来事が起きた。
というか、私がしてしまったことだ。
相手方は、他の人が立ち上げたサイトにて誹謗中傷をされており、
数々の酷い誹謗中傷と名誉毀損などのバッシングを受けているような状態で、
藁にもすがる気持ちで書き込んだんだと思う。
「他人の掲示板の書き込みを元にサイトを作っている人がいます」と。
そのことで、ネットマナーのサイトの掲示板に書き込みをしていた。
それに、
掲示板の管理人さんの意見も、間違ったものと考えていたので。
「掲示板の書き込みは書いた人に著作権がある」なんていう考え、でたらめだと思った。
だから、
掲示板の管理人さんの書き込みをわざと無視して、
というか、間違ったでたらめな意見など気にもしないで、
その方の書き込みのスクリーンショットをブログに貼り付け、
「そんなことをしている方は何処にでもいると思う」とブログに書いた。
これが、誹謗中傷ブログを運営してると思われても仕方のないことだといまさらになって反省せざるを得ない状況に追い込まれる事となろうとは、当時の私は知る由もなかった。
犯罪に当たるなんて今まで誰にも言われたことがなかったから。
それが、
この亜美というHNの人に私のブログを見られてから、一気に変わってしまった。
何度も何度も注意をしてくるし、
挙句の果てに居はサイトに来るなと言われたり、ブログの運営会社に何度も何度もクレームを入れられるような始末。
おまけに、
SNSのつぶやきを引用しただけなのに、
実名を晒されているとエントリを削除される事もあれば、
私のHNを晒し上げ、
損害賠償請求を起こすとまで言われた。
本当に起こせるはずがないと思っていたのに突然警察から呼び出された。
「…自分と関係のないトラブルの事をブログに書いた、とありますがこれは本当にやったことですか?」
「やっていません」
亜美がプライバシーの侵害をしたと主張していることはただの言いがかりであるとこちらも主張した。
大体、その証拠を亜美が公表していないのだし、その事実を裏付ける証拠を公表しなければ、プライバシーの侵害にならない。
それに、亜美の相手方になっていた人物は、亜美との争いをブログに書いていたけれど、
もうそのブログの公開を停止しているし、
プライバシーの侵害をした、などと言われても誰も証明することができないのだから、告訴の案件になるはずがない。
こんな事で時間を割いて、お互い社会人なのだから長引くだけ不利になるし、法で許された事なのにここまでひどく追いつめられるなんて…。
亜美の事をブログに書いている人も言っている。
言論の自由であり、誹謗中傷は表現手法に過ぎないと。
だが亜美は、
刑事罰の対象行為であり、プライバシーを侵害した事を許すわけにはいかないと何度も何度も言っている。
誹謗中傷を受けたという被害意識を持つ上で、
警察が「個人を特定できる情報を晒しているから誹謗中傷として認められると言った」などと話し、判断基準にまで採用していた。
判断基準としてどうかと思う意見が出ているというのに、聞かないで、その意見をした者を延々と無視するような対応を亜美は続けていた。
おまけに、
亜美の撒いた種も含まれているというのに、
一方的に私や、私が亜美から誹謗中傷をされていると言われているのを見兼ねた方たちが、
「問題が無い」と亜美に対して言ってくれているというのに、
亜美はその人たちも、「社会的に私を抹消しようと企んでいる者だ」と決め付けており、
自分のしている事を棚に上げて、私たちを犯罪者のように罵っている。
全員、亜美から「ネットを使うのは危険な人物である」と一方的に思い込まれていたけれど、
発信者情報開示請求で居場所を特定され、刑事告訴の手続きに入ると亜美から書面が届いた時は、もうどうすることも出来ないと思った。
警察に相談していると今までブログで嘘をついていたけれど、本当に相談しなければならなくなった。
「…この人の事をブログに書くのを辞めようと思ったことは?」
「ありませんね、一度も。」
「誹謗中傷をしていると思われてもですか?」
「はい。」
「では謝ろうとしたことは?」
「何度も謝ったんですよ。それに、人権侵害をしているというのならその根拠を説明してください友言ったんです。そうしたら、ネット上での振る舞いや態度を改めろとか説教じみたエントリを何度も書くし、発信者情報開示請求をしているとまで…裁判まで起こされたんです」
「その時に何とも思わなかったのですか?」
「はい。以前、ある企業を訴えたと嘘をついていたので」
「それは…そういう風に言わないと相手が自分の思い通りにならないと考えたんじゃないかと」
「気持ちはわかりますが…。それに、私、相手方から色々と嘘吐き扱いされて本当に頭を悩ませたんです。
それに、私がネット上に公開した動画を晒し上げて、『こんな事をする奴は刑事告訴をされても仕方がない』と動画の下にコメントまで書き込まれたんです」
…事情を説明しながらも、私はただただ後悔の念だけが頭に過るだけだった。
正直、不道徳、非常識、法律に対して無知、犯罪者だと言われても仕方がない。私はそれだけ酷い人間なのだ。
刑務所に入れ、と言われても文句が言えないのだと悟った。