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第141回
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平成21年/2009年上半期
(平成21年/2009年7月15日決定発表/『オール讀物』平成21年/2009年9月号選評掲載)
選考委員  浅田次郎
男57歳
井上ひさし
男74歳
北方謙三
男61歳
平岩弓枝
女77歳
阿刀田高
男74歳
渡辺淳一
男75歳
宮部みゆき
女48歳
林真理子
女55歳
五木寛之
男76歳
宮城谷昌光
男64歳
選評総行数  101 201 100 98 116 29 174 99 100 97
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
北村薫 『鷺と雪』
340
男59歳
33 19 18 50 39 5 28 21 16 50
西川美和 『きのうの神さま』
283
女35歳
19 44 21 0 26 0 50 40 40 23
貫井徳郎 『乱反射』
916
男41歳
27 22 12 0 20 0 27 7 7 0
葉室麟 『秋月記』
530
男58歳
7 26 11 48 11 0 25 16 12 21
万城目学 『プリンセス・トヨトミ』
925
男33歳
15 55 18 0 13 0 16 9 16 0
道尾秀介 『鬼の跫音』
294
男34歳
7 35 15 0 7 0 28 6 9 0
                   
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成21年/2009年9月号
1行当たりの文字数:12字


選考委員
浅田次郎男57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
文学的良心の結晶 総行数101 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
33 「表現も分量もあらゆる点で過剰に思える今日の風潮の中にあっては、いかにも地味な印象を覚えるのだが、小説とは本来この程度に慎ましやかなものではあるまいか。」「いわば文学的良心の結晶ともいうべき(引用者中略)技術が発揮されており、なおかつ苦労の爪跡をいささかも作品に残さぬスマートさとも相俟って、受賞作にふさわしいと確信した。」
西川美和
女35歳
19 「少なからぬ衝撃を受けた。昨今の小説がおしなべて映像的であるのに、映画人の書いた小説がかくも文学的であるという皮肉である。」「文章表現の要諦をすでに心得ている。」
貫井徳郎
男41歳
27 「平凡な市民の日常が事故や犯罪に隣り合わせている、あるいは悪意なき必然の累積が偶然の悲劇を生む、という結構は冒頭から知れ切っており、こうした大手から攻め入る姿勢の小説には、えてして傑作が多い」「しかし、豈図らんやそれら平凡な庶民の日常が、どれもホームドラマのごとき定型となっていた。社会とは、非凡なる凡人たちの集合である。その非凡さを摘出しなければ、読者の納得する「平凡」を書いたことにはならない。」
葉室麟
男58歳
7 「(引用者注:「鬼の跫音」と共に」)別の文学賞においてすでに評させていただいた。」「進境著しいが、未だ推輓には至らなかった。」
万城目学
男33歳
15 「たいへん面白く読んだのだが、奇抜な発想に基く一種のナンセンス小説にあえて知的整合性を持たせようとする機制が働いてしまう。」「嘘をつくことのうしろめたさをかなぐり捨てるか、さもなくばここまでの嘘をつかずにすむ作風に転換するか、壁を突き破る方法は二つに一つである。」
道尾秀介
男34歳
7 「(引用者注:「秋月記」と共に」)別の文学賞においてすでに評させていただいた。」「進境著しいが、未だ推輓には至らなかった。」
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他の選考委員
井上ひさし
北方謙三
平岩弓枝
阿刀田高
渡辺淳一
宮部みゆき
林真理子
五木寛之
宮城谷昌光
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選考委員
井上ひさし男74歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
一つの達成 総行数201 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
19 「局番ちがいの間違い電話――こんな安易な手はほかにないが、『鷺と雪』(北村薫)では、この手が、二度と逢うことがないはずの反乱軍の青年将校と良家令嬢の、この世で一度の魂の通い道になる。」「見えないものを見えるようにするのが、詩や劇や絵や小説など芸術本来の働きであるとすれば、周到に書かれたこの場面こそは、まさにその芸術の達成そのものと言ってよいだろう。」
西川美和
女35歳
44 「主人公に名前のないこともあれば、過去と現在とが勝手に入り交じったりもして、たしかにつんのめり(原文傍点)ながら読まねばならないが、それが魅力にもなっているところは、作者に物語を語る才能があるからだろう。その才能を十分に買った上で言えば、せっかく医師を登場させながら、人間の生命や魂の奥底に「ねじ込む力」が少し弱い。そこがやはり惜しい。」
貫井徳郎
男41歳
22 「普通に生活する人間の「罪と罰」を鋭く摘出する作者の力量にはたしかなものがある。けれども、作品のどの部分も均質、同じ密度で書いてあって、小説的なふくらみに欠け、通読すると少しばかり、のっぺらぼうの感があった。」
葉室麟
男58歳
26 「藩政の黒幕となってからの彼(引用者注:主人公の一藩士)には、その黒幕度が不足、記述もいったいに早足になって失速、おもしろさにも乏しくなった。清濁併せ呑むのが行政官の定めであるとすれば、「清」だけで終わってしまった感があって、前半が傑作だっただけに、惜しいとしかいいようがない。」
万城目学
男33歳
55 「独立国家の中にもう一つ小国家があるという発想は魅力的だが、しかしこの壮大なホラを成立させるためには、あらゆる細部をいちいち、もっともらしいものに作り上げなければならない。本作ではその工夫が足りなかった。」「いっそ、あの阪神タイガースさえもじつは大阪国の国立野球チームだったとでも大ホラを吹いて、その大ホラを無数の、まことしやかでもっともらしい細部で支えるぐらいの気組みと手練が必要だ。」
道尾秀介
男34歳
35 「語りの工夫で巧みに時間を繋ぎ合わせる離れ業もみごとだが、しかし長所は短所と隣り合っていて、その語りによって明らかにされて行く物語の中身が、血糊一色で、いささか月並みである。」「「悪意の顔」は、疑いもなく一個の佳品だが、この一篇では語りが読者を騙ろうとしていない。それで愛の哀しさがよく出たのかもしれない」
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他の選考委員
浅田次郎
北方謙三
平岩弓枝
阿刀田高
渡辺淳一
宮部みゆき
林真理子
五木寛之
宮城谷昌光
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選考委員
北方謙三男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
継続する力 総行数100 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
18 「すべてがやわらかいのではなく、登場人物の視線がやわらかいのであり、その背後にある作者の眼は、むしろ冷徹と言ってもよく、上流階級の虚飾のあやうさが、時代相の緊迫と巧みに重ね合わされている、と感じた。練達の筆である。」「丸をつけて、選考に臨んだ。」
西川美和
女35歳
21 「僻地医療を題材としたものを、私は評価しなかった。人間の描き方に、小説的昇華が欠けていると感じながら、読み続けたのだ。思わず、二度、三度と読み返したのは『1983年のほたる』である。これは紛れもなく秀作である。」「ただ、この力量は普遍的なものなのか、継続力のある資質を見せたのか、という思いはつきまとった。」
貫井徳郎
男41歳
12 「登場人物が、みんな普通の小市民というのが、思い切りのよさも感じさせる。ただ、めりはりのなさが、全体的な流れの滞りを生み、迫力と切れ味に欠けたかと思う。」
葉室麟
男58歳
11 「どこかに既視感のようなものがつきまとう。今回は、史実が根底にあっただけに、小説的な飛躍に欠けた部分も、また気になった。」
万城目学
男33歳
18 「この発想の必然性が、私にはわからない。ここに暗喩があるのなら、独立国の普遍性が必要であったと思う。」「物語としては面白く読めるのに、読後に空漠とした印象が残るのは、作者の方が読者より面白がっているから、と思えなくもない。」
道尾秀介
男34歳
15 「この作家独得のひねりが、生きていたと思う。長篇では、私はどうしてもあざといと感じてきたが、短篇ではそれが切れ味となっていて、読んでいて快感さえ感じた。短篇の要諦をしっかり掴んでいて、同時に継続力のある資質も感じさせる。」「私は、丸をつけて選考に臨んだ。」
  「さまざまな傾向の、候補作が並んだ。小説が活発化しているのかどうかは、いまのところわからないが、私は好意的に対した。」
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他の選考委員
浅田次郎
井上ひさし
平岩弓枝
阿刀田高
渡辺淳一
宮部みゆき
林真理子
五木寛之
宮城谷昌光
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選考委員
平岩弓枝女77歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
作品と資料 総行数98 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
50 「軽快な語り口と話の進め方、登場人物の配置の巧みさは、北村さんならではの作品である。逆にいえば、テンポのよすぎるのが、作品を軽くみせるぎりぎりのところで自制されている点に好感を持った。」「今回の北村さんの作品は思いがけず幼女の頃の自分の姿へ束の間、私をひき戻し、すでに世にない、なつかしい人々の顔を瞼の中に甦らせてくれた。」
西川美和
女35歳
0  
貫井徳郎
男41歳
0  
葉室麟
男58歳
48 「作者が資料の中からよくこれだけをさばいて書かれたとその労苦のほどはお察しする。それでも正直に申せば、もっと思い切って資料をふり捨て、人物をデフォルメする気にならないと小説としては完成しないと思う。老婆心ながら一言。」
万城目学
男33歳
0  
道尾秀介
男34歳
0  
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他の選考委員
浅田次郎
井上ひさし
北方謙三
阿刀田高
渡辺淳一
宮部みゆき
林真理子
五木寛之
宮城谷昌光
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選考委員
阿刀田高男74歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
評価のむつかしさ 総行数116 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
39 「私にとって評価のむつかしい作品であった。」「遠い時代のハイソサイアティの女学生を中心とするストーリーは大人の読者をほどよく楽しませてくれるだろうか。ミステリーとしても弱いように思われてならない。」「この作者の文学に対する見識や業績を勘案すれば、評価のできないまま“よい作品のはず”という分別も浮かんでくるのだが、それはかえって礼を失することになるだろう。」「私としては、「多分、文学観のちがいでしょう。おおかたの意見に従います」」
西川美和
女35歳
26 「心に残る作品だった。なによりも小説家らしい気配が、その視線に、その筆致にみなぎっている。」「私としては、「もう一作見たい」と考え、これについては選考会でも甲論乙駁、私もいったんは、「二作授賞のほうがいいのかな」と傾いたが、結果は見送りとなった。今でも、これでよかったのかどうか、迷っている。」
貫井徳郎
男41歳
20 「小説家はつねに市井の出来事を(自分の都合がよいように)ピック・アップしてストーリーを組み立てていく。この作品のようにピック・アップしていけば、「こういう結末になるよな」と、それが見え見えになってしまう。現実は不法にゴミ袋を捨てたことにより「ラッキー」ということも起こるのだ。この小説の結末に感動できない所以である。」
葉室麟
男58歳
11 「歴史を描くにふさわしい緻密さを感じたが、あえて言えば登場人物に私は感情移入ができなかった。おもしろ味が薄かった。前回の『いのちなりけり』より巧みに映ったが、抒情性は乏しくなったのではあるまいか。」
万城目学
男33歳
13 「この途方もないイマジネーションを私は高く評価したい。」「とはいえ、細かいところは疵だらけである。こういう作品にはさらに周到な企みが必要なのではあるまいか。」
道尾秀介
男34歳
7 「恐ろしさ、妖しさを描く筆致に舌を巻きながらも、それが結末にうまく収斂されてないように私には感じられた。」
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他の選考委員
浅田次郎
井上ひさし
北方謙三
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渡辺淳一
宮部みゆき
林真理子
五木寛之
宮城谷昌光
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選考委員
渡辺淳一男75歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
受賞作なしだが 総行数29 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
5 「舞台となる昭和初期の雰囲気が描けていないし、お話そのものも、頭で作り出された域を出ていない。」
西川美和
女35歳
0  
貫井徳郎
男41歳
0  
葉室麟
男58歳
0  
万城目学
男33歳
0  
道尾秀介
男34歳
0  
  「今回の候補作については、いずれも失望した。」「むろん、それなりにいろいろ工夫され、アイデアを絞り、巧みにつくろうと努力していることはわかるが、いずれも頭書きというか、頭で書きすぎである。」「現在の選考基準は甘すぎる、というのが、わたしの実感である。」
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他の選考委員
浅田次郎
井上ひさし
北方謙三
平岩弓枝
阿刀田高
宮部みゆき
林真理子
五木寛之
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選考委員
宮部みゆき女48歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
素敵な発見 総行数174 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
28 「「私のベッキー」シリーズを愛読してきて、ずっと不思議に思っていました。ヒロインの英子にぴったりと寄り添って活躍する女性運転手の別宮が、強烈な存在感と希薄な生活感を併せ持ちながら、まったく不自然な人物ではないのは何故だろう、と。」「今回、『鷺と雪』を読んで、初めて解りました。別宮は〈未来の英子〉なのです。だからこそ、終盤で別宮が「別宮には何も出来ないのです」と語る言葉が、こんなにも重く、強く心に響くのです。素敵な発見でした。」
西川美和
女35歳
50 「同じ物語を綴るにしても、〈映画と小説では表現方法が異なる〉ということを、これほどしっかりと把握している映像作家がいて、こんな美しい文章を書くのだ。プロパーの小説家としては、感嘆しつつも少々やるせなくなってしまうくらい、立派な作品です。」「現段階で直木賞を受賞してしまうと、(引用者中略)ひと区切りという感じになって、この先、どうしても重心が映画の方に寄ってしまうのではないか(引用者中略)その結果、もの凄い性能を秘めたメインエンジンの点火が先送りされてしまうのではないか――そういう危惧をどうしても振り払うことができなくて、二作受賞を主張するタイミングを逸してしまいました。」
貫井徳郎
男41歳
27 「貫井さんがこの作品で試みたのは、(引用者中略)日々を平凡に生きているつもりの私たちが無自覚なまま生き埋めにしている〈人倫〉を掘り出すことでしょう。その試みは見事に成功しました。が、掘り出されて露わになったそれを、作者はどうしたかったのか。読者にどうしてほしかったのか。そこが見えませんでした。」
葉室麟
男58歳
25 「名前のついた登場人物が大勢出てくるのも、史実をないがしろにしない誠意がある(引用者中略)。でもそれと承知の上で、史実から自由に解き放たれた葉室さんの作品も読みたい。」
万城目学
男33歳
16 「「おかしい」と異議を唱えたくなる大風呂敷の破れ目が多々ありました。」「〈国家〉も〈歴史〉も、書き手を圧倒する強大な題材です。奔放な想像力だけを武器に戦うのは、さすがの万城目さんも分が悪かったように思えます。」
道尾秀介
男34歳
28 「悩みました。六作収録の短編集で、前半の三作には不満があり、後半の三作は傑作だと思ったからです。打率五割はプロ野球選手なら文句なしのナンバー・ワンですが、直木賞の場合はどうなのか? 選考委員としてやっと二度目の登板の私には、判断がつきませんでした。」「多彩な不条理のなかに、それを成り立たせている作者の理の筋が一本通っている場合には傑作になり、筋が通り切らないと消化不良になる。そう感じました。」
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他の選考委員
浅田次郎
井上ひさし
北方謙三
平岩弓枝
阿刀田高
渡辺淳一
林真理子
五木寛之
宮城谷昌光
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選考委員
林真理子女55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
さすがの筆力 総行数99 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
21 「ベッキーさんの登場が少なくなった分だけ、やや魅力が減ったような気もするが、いちばん安心して読めた。戦前の上流社会をテーマにするというのは、私も何度か挑戦したが、非常にむずかしい。」「しかし北村さんは主人公の女性やその家族も、実に自然にさらりと描いている。」「雪が降りしきるあの日が、ページの上に甦ってくるのはさすがの筆力である。」
西川美和
女35歳
40 「驚いた。映像の世界で大きな評価を集めている著者が、文学の世界においてもなみなみならぬ才能を持っていたからだ。」「特に最初の小説の緻密さといったらどうだろう。映像出身の人が陥りやすい、文章の荒っぽさがまるでない。初めて異性に性的なものを感じる少女の心の揺れと、緊張感とが実にうまく表現されている。」
貫井徳郎
男41歳
7 「アイデアはいいが、最後にジグソーパズルのピースがうまくいかなかった。精神的な障害が理由のひとつになるのは、がっかりしてしまう。」
葉室麟
男58歳
16 「実在の人物を書く時に、多くの著者がはまる陥穽を見たような気がして仕方ない。りりしく誠実だった青年が、中年の権力者になった時に思いもかけない行動をとる。そのつじつまを合わせるために、ついつまらぬ言いわけを書いてしまうのだ。読者はそこで鼻白んでしまう。」
万城目学
男33歳
9 「もっと面白い小説になったはずなのに、という意見が多かったが全く同感だ。ホラ話なら、もっと大きく拡げた方がいい。」
道尾秀介
男34歳
6 「前作を強く推しただけに、今回はややがっかりしてしまった。このシリアスさは、道尾さんに向いているとは思えない。」
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他の選考委員
浅田次郎
井上ひさし
北方謙三
平岩弓枝
阿刀田高
渡辺淳一
宮部みゆき
五木寛之
宮城谷昌光
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選考委員
五木寛之男76歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
作家の存在感 総行数100 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
16 「これまでの安定した実績を踏まえて積極的に推す声もあり、また全面的に否定する声もあったが、受賞作にはそれなりの理由がある、というのが一貫した私の実感である。すんなりと圧倒的な支持で受賞しなかった、ということも、その作家の才能の一つなのだ。北村薫という書き手の存在感が、選考会を圧倒したともいえる、今回の直木賞だった。」
西川美和
女35歳
40 「今回の候補作六作品のなかで、もっとも文学的な才気を感じさせた」「しかし、私には、その文学的(原文傍点)という点にこそ、この作家のアキレスの踵を感じないではいられなかった。本物のあたらしさは、決して心地よい文学性など感じさせないはずだからである。」「いろんな意味でルーティンな小説の世界に一石を投じた問題作だったと思う。受賞にはいたらなかったが、この作品が候補になったこと自体が、直木賞という賞を活性化したといっていい。」
貫井徳郎
男41歳
7 「細部のアクチュアリティーが物語の全体を支えきれていないと感じた。野心的な構想には、むしろ実直な描写のつみかさねが不可欠だろう。」
葉室麟
男58歳
12 「受賞作として推した」「定石どおりといえば、そうなのだが、どこかにあたらしい風を感じたからだ。」「書き古された題材だという声もあったものの、この作家には独自の作風というものがある。」
万城目学
男33歳
16 「今回の候補作は残念ながら評価できなかった。大阪城の歴史をたどるなら、蓮如が荒涼たるこの地に石山本願寺をきずき、やがて特異な寺内町が形成されたことを無視することはできないはずだ。参考資料の使いかたにも、物足りなさを感じるところがあった。」
道尾秀介
男34歳
9 「異色の書き手の登場を感じさせるところが随所にあって、興味ぶかく読んだ。コアな愛読者にとらわれないで、もっと自由な世界に飛びだしてみてはどうだろうか。」
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他の選考委員
浅田次郎
井上ひさし
北方謙三
平岩弓枝
阿刀田高
渡辺淳一
宮部みゆき
林真理子
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選考委員
宮城谷昌光男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
後楽の思想 総行数97 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
北村薫
男59歳
50 「優雅さの対称となる醜悪さが淡白すぎて、その時代がもっているぬきさしならない悪の形がみえてこない。それゆえに作品の特性である優雅さが弱く、小説の構造も凡庸なものと映ってしまう。」「小説内の知識と認識における度合もぬるい。この程度では、読者はおどろかないし、喜びもしない。」「氏に再考してもらいたいことはすくなくないが、「後楽」の思想だけは小説家として肝に銘じて書きつづけてもらいたい。」
西川美和
女35歳
23 「「1983年のほたる」は、まちがいなく佳品である。」「この作家には感覚のみずみずしさがあり、引きぎみの好さもある。しかしながら、ほかの短編も一人称の連続となると、小説的遠近はみられず、小説的形態の感想文というところに堕ちてしまった。それが残念である。」
貫井徳郎
男41歳
0  
葉室麟
男58歳
21 「まえに読んだ『いのちなりけり』にくらべて、筆致にずいぶん落ち着きがでた。」「これが新しい時代小説かどうかという議論はさておき、私は氏の誠実さをみたような気がしている。時代小説作家の資質に天才は要らない。誠実さを積みあげてゆく不断の努力が要るだけである。」
万城目学
男33歳
0  
道尾秀介
男34歳
0  
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他の選考委員
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井上ひさし
北方謙三
平岩弓枝
阿刀田高
渡辺淳一
宮部みゆき
林真理子
五木寛之
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受賞者・作品
北村薫男59歳×各選考委員 
『鷺と雪』
連作3篇 340
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男57歳
33 「表現も分量もあらゆる点で過剰に思える今日の風潮の中にあっては、いかにも地味な印象を覚えるのだが、小説とは本来この程度に慎ましやかなものではあるまいか。」「いわば文学的良心の結晶ともいうべき(引用者中略)技術が発揮されており、なおかつ苦労の爪跡をいささかも作品に残さぬスマートさとも相俟って、受賞作にふさわしいと確信した。」
井上ひさし
男74歳
19 「局番ちがいの間違い電話――こんな安易な手はほかにないが、『鷺と雪』(北村薫)では、この手が、二度と逢うことがないはずの反乱軍の青年将校と良家令嬢の、この世で一度の魂の通い道になる。」「見えないものを見えるようにするのが、詩や劇や絵や小説など芸術本来の働きであるとすれば、周到に書かれたこの場面こそは、まさにその芸術の達成そのものと言ってよいだろう。」
北方謙三
男61歳
18 「すべてがやわらかいのではなく、登場人物の視線がやわらかいのであり、その背後にある作者の眼は、むしろ冷徹と言ってもよく、上流階級の虚飾のあやうさが、時代相の緊迫と巧みに重ね合わされている、と感じた。練達の筆である。」「丸をつけて、選考に臨んだ。」
平岩弓枝
女77歳
50 「軽快な語り口と話の進め方、登場人物の配置の巧みさは、北村さんならではの作品である。逆にいえば、テンポのよすぎるのが、作品を軽くみせるぎりぎりのところで自制されている点に好感を持った。」「今回の北村さんの作品は思いがけず幼女の頃の自分の姿へ束の間、私をひき戻し、すでに世にない、なつかしい人々の顔を瞼の中に甦らせてくれた。」
阿刀田高
男74歳
39 「私にとって評価のむつかしい作品であった。」「遠い時代のハイソサイアティの女学生を中心とするストーリーは大人の読者をほどよく楽しませてくれるだろうか。ミステリーとしても弱いように思われてならない。」「この作者の文学に対する見識や業績を勘案すれば、評価のできないまま“よい作品のはず”という分別も浮かんでくるのだが、それはかえって礼を失することになるだろう。」「私としては、「多分、文学観のちがいでしょう。おおかたの意見に従います」」
渡辺淳一
男75歳
5 「舞台となる昭和初期の雰囲気が描けていないし、お話そのものも、頭で作り出された域を出ていない。」
宮部みゆき
女48歳
28 「「私のベッキー」シリーズを愛読してきて、ずっと不思議に思っていました。ヒロインの英子にぴったりと寄り添って活躍する女性運転手の別宮が、強烈な存在感と希薄な生活感を併せ持ちながら、まったく不自然な人物ではないのは何故だろう、と。」「今回、『鷺と雪』を読んで、初めて解りました。別宮は〈未来の英子〉なのです。だからこそ、終盤で別宮が「別宮には何も出来ないのです」と語る言葉が、こんなにも重く、強く心に響くのです。素敵な発見でした。」
林真理子
女55歳
21 「ベッキーさんの登場が少なくなった分だけ、やや魅力が減ったような気もするが、いちばん安心して読めた。戦前の上流社会をテーマにするというのは、私も何度か挑戦したが、非常にむずかしい。」「しかし北村さんは主人公の女性やその家族も、実に自然にさらりと描いている。」「雪が降りしきるあの日が、ページの上に甦ってくるのはさすがの筆力である。」
五木寛之
男76歳
16 「これまでの安定した実績を踏まえて積極的に推す声もあり、また全面的に否定する声もあったが、受賞作にはそれなりの理由がある、というのが一貫した私の実感である。すんなりと圧倒的な支持で受賞しなかった、ということも、その作家の才能の一つなのだ。北村薫という書き手の存在感が、選考会を圧倒したともいえる、今回の直木賞だった。」
宮城谷昌光
男64歳
50 「優雅さの対称となる醜悪さが淡白すぎて、その時代がもっているぬきさしならない悪の形がみえてこない。それゆえに作品の特性である優雅さが弱く、小説の構造も凡庸なものと映ってしまう。」「小説内の知識と認識における度合もぬるい。この程度では、読者はおどろかないし、喜びもしない。」「氏に再考してもらいたいことはすくなくないが、「後楽」の思想だけは小説家として肝に銘じて書きつづけてもらいたい。」
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他の候補作
西川美和
『きのうの神さま』
貫井徳郎
『乱反射』
葉室麟
『秋月記』
万城目学
『プリンセス・トヨトミ』
道尾秀介
『鬼の跫音』
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候補者・作品
西川美和女35歳×各選考委員 
『きのうの神さま』
短篇集5篇 283
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男57歳
19 「少なからぬ衝撃を受けた。昨今の小説がおしなべて映像的であるのに、映画人の書いた小説がかくも文学的であるという皮肉である。」「文章表現の要諦をすでに心得ている。」
井上ひさし
男74歳
44 「主人公に名前のないこともあれば、過去と現在とが勝手に入り交じったりもして、たしかにつんのめり(原文傍点)ながら読まねばならないが、それが魅力にもなっているところは、作者に物語を語る才能があるからだろう。その才能を十分に買った上で言えば、せっかく医師を登場させながら、人間の生命や魂の奥底に「ねじ込む力」が少し弱い。そこがやはり惜しい。」
北方謙三
男61歳
21 「僻地医療を題材としたものを、私は評価しなかった。人間の描き方に、小説的昇華が欠けていると感じながら、読み続けたのだ。思わず、二度、三度と読み返したのは『1983年のほたる』である。これは紛れもなく秀作である。」「ただ、この力量は普遍的なものなのか、継続力のある資質を見せたのか、という思いはつきまとった。」
平岩弓枝
女77歳
0  
阿刀田高
男74歳
26 「心に残る作品だった。なによりも小説家らしい気配が、その視線に、その筆致にみなぎっている。」「私としては、「もう一作見たい」と考え、これについては選考会でも甲論乙駁、私もいったんは、「二作授賞のほうがいいのかな」と傾いたが、結果は見送りとなった。今でも、これでよかったのかどうか、迷っている。」
渡辺淳一
男75歳
0  
宮部みゆき
女48歳
50 「同じ物語を綴るにしても、〈映画と小説では表現方法が異なる〉ということを、これほどしっかりと把握している映像作家がいて、こんな美しい文章を書くのだ。プロパーの小説家としては、感嘆しつつも少々やるせなくなってしまうくらい、立派な作品です。」「現段階で直木賞を受賞してしまうと、(引用者中略)ひと区切りという感じになって、この先、どうしても重心が映画の方に寄ってしまうのではないか(引用者中略)その結果、もの凄い性能を秘めたメインエンジンの点火が先送りされてしまうのではないか――そういう危惧をどうしても振り払うことができなくて、二作受賞を主張するタイミングを逸してしまいました。」
林真理子
女55歳
40 「驚いた。映像の世界で大きな評価を集めている著者が、文学の世界においてもなみなみならぬ才能を持っていたからだ。」「特に最初の小説の緻密さといったらどうだろう。映像出身の人が陥りやすい、文章の荒っぽさがまるでない。初めて異性に性的なものを感じる少女の心の揺れと、緊張感とが実にうまく表現されている。」
五木寛之
男76歳
40 「今回の候補作六作品のなかで、もっとも文学的な才気を感じさせた」「しかし、私には、その文学的(原文傍点)という点にこそ、この作家のアキレスの踵を感じないではいられなかった。本物のあたらしさは、決して心地よい文学性など感じさせないはずだからである。」「いろんな意味でルーティンな小説の世界に一石を投じた問題作だったと思う。受賞にはいたらなかったが、この作品が候補になったこと自体が、直木賞という賞を活性化したといっていい。」
宮城谷昌光
男64歳
23 「「1983年のほたる」は、まちがいなく佳品である。」「この作家には感覚のみずみずしさがあり、引きぎみの好さもある。しかしながら、ほかの短編も一人称の連続となると、小説的遠近はみられず、小説的形態の感想文というところに堕ちてしまった。それが残念である。」
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他の候補作
北村薫
『鷺と雪』
貫井徳郎
『乱反射』
葉室麟
『秋月記』
万城目学
『プリンセス・トヨトミ』
道尾秀介
『鬼の跫音』
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候補者・作品
貫井徳郎男41歳×各選考委員 
『乱反射』
長篇 916
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男57歳
27 「平凡な市民の日常が事故や犯罪に隣り合わせている、あるいは悪意なき必然の累積が偶然の悲劇を生む、という結構は冒頭から知れ切っており、こうした大手から攻め入る姿勢の小説には、えてして傑作が多い」「しかし、豈図らんやそれら平凡な庶民の日常が、どれもホームドラマのごとき定型となっていた。社会とは、非凡なる凡人たちの集合である。その非凡さを摘出しなければ、読者の納得する「平凡」を書いたことにはならない。」
井上ひさし
男74歳
22 「普通に生活する人間の「罪と罰」を鋭く摘出する作者の力量にはたしかなものがある。けれども、作品のどの部分も均質、同じ密度で書いてあって、小説的なふくらみに欠け、通読すると少しばかり、のっぺらぼうの感があった。」
北方謙三
男61歳
12 「登場人物が、みんな普通の小市民というのが、思い切りのよさも感じさせる。ただ、めりはりのなさが、全体的な流れの滞りを生み、迫力と切れ味に欠けたかと思う。」
平岩弓枝
女77歳
0  
阿刀田高
男74歳
20 「小説家はつねに市井の出来事を(自分の都合がよいように)ピック・アップしてストーリーを組み立てていく。この作品のようにピック・アップしていけば、「こういう結末になるよな」と、それが見え見えになってしまう。現実は不法にゴミ袋を捨てたことにより「ラッキー」ということも起こるのだ。この小説の結末に感動できない所以である。」
渡辺淳一
男75歳
0  
宮部みゆき
女48歳
27 「貫井さんがこの作品で試みたのは、(引用者中略)日々を平凡に生きているつもりの私たちが無自覚なまま生き埋めにしている〈人倫〉を掘り出すことでしょう。その試みは見事に成功しました。が、掘り出されて露わになったそれを、作者はどうしたかったのか。読者にどうしてほしかったのか。そこが見えませんでした。」
林真理子
女55歳
7 「アイデアはいいが、最後にジグソーパズルのピースがうまくいかなかった。精神的な障害が理由のひとつになるのは、がっかりしてしまう。」
五木寛之
男76歳
7 「細部のアクチュアリティーが物語の全体を支えきれていないと感じた。野心的な構想には、むしろ実直な描写のつみかさねが不可欠だろう。」
宮城谷昌光
男64歳
0  
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他の候補作
北村薫
『鷺と雪』
西川美和
『きのうの神さま』
葉室麟
『秋月記』
万城目学
『プリンセス・トヨトミ』
道尾秀介
『鬼の跫音』
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候補者・作品
葉室麟男58歳×各選考委員 
『秋月記』
長篇 530
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男57歳
7 「(引用者注:「鬼の跫音」と共に」)別の文学賞においてすでに評させていただいた。」「進境著しいが、未だ推輓には至らなかった。」
井上ひさし
男74歳
26 「藩政の黒幕となってからの彼(引用者注:主人公の一藩士)には、その黒幕度が不足、記述もいったいに早足になって失速、おもしろさにも乏しくなった。清濁併せ呑むのが行政官の定めであるとすれば、「清」だけで終わってしまった感があって、前半が傑作だっただけに、惜しいとしかいいようがない。」
北方謙三
男61歳
11 「どこかに既視感のようなものがつきまとう。今回は、史実が根底にあっただけに、小説的な飛躍に欠けた部分も、また気になった。」
平岩弓枝
女77歳
48 「作者が資料の中からよくこれだけをさばいて書かれたとその労苦のほどはお察しする。それでも正直に申せば、もっと思い切って資料をふり捨て、人物をデフォルメする気にならないと小説としては完成しないと思う。老婆心ながら一言。」
阿刀田高
男74歳
11 「歴史を描くにふさわしい緻密さを感じたが、あえて言えば登場人物に私は感情移入ができなかった。おもしろ味が薄かった。前回の『いのちなりけり』より巧みに映ったが、抒情性は乏しくなったのではあるまいか。」
渡辺淳一
男75歳
0  
宮部みゆき
女48歳
25 「名前のついた登場人物が大勢出てくるのも、史実をないがしろにしない誠意がある(引用者中略)。でもそれと承知の上で、史実から自由に解き放たれた葉室さんの作品も読みたい。」
林真理子
女55歳
16 「実在の人物を書く時に、多くの著者がはまる陥穽を見たような気がして仕方ない。りりしく誠実だった青年が、中年の権力者になった時に思いもかけない行動をとる。そのつじつまを合わせるために、ついつまらぬ言いわけを書いてしまうのだ。読者はそこで鼻白んでしまう。」
五木寛之
男76歳
12 「受賞作として推した」「定石どおりといえば、そうなのだが、どこかにあたらしい風を感じたからだ。」「書き古された題材だという声もあったものの、この作家には独自の作風というものがある。」
宮城谷昌光
男64歳
21 「まえに読んだ『いのちなりけり』にくらべて、筆致にずいぶん落ち着きがでた。」「これが新しい時代小説かどうかという議論はさておき、私は氏の誠実さをみたような気がしている。時代小説作家の資質に天才は要らない。誠実さを積みあげてゆく不断の努力が要るだけである。」
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他の候補作
北村薫
『鷺と雪』
西川美和
『きのうの神さま』
貫井徳郎
『乱反射』
万城目学
『プリンセス・トヨトミ』
道尾秀介
『鬼の跫音』
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候補者・作品
万城目学男33歳×各選考委員 
『プリンセス・トヨトミ』
長篇 925
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男57歳
15 「たいへん面白く読んだのだが、奇抜な発想に基く一種のナンセンス小説にあえて知的整合性を持たせようとする機制が働いてしまう。」「嘘をつくことのうしろめたさをかなぐり捨てるか、さもなくばここまでの嘘をつかずにすむ作風に転換するか、壁を突き破る方法は二つに一つである。」
井上ひさし
男74歳
55 「独立国家の中にもう一つ小国家があるという発想は魅力的だが、しかしこの壮大なホラを成立させるためには、あらゆる細部をいちいち、もっともらしいものに作り上げなければならない。本作ではその工夫が足りなかった。」「いっそ、あの阪神タイガースさえもじつは大阪国の国立野球チームだったとでも大ホラを吹いて、その大ホラを無数の、まことしやかでもっともらしい細部で支えるぐらいの気組みと手練が必要だ。」
北方謙三
男61歳
18 「この発想の必然性が、私にはわからない。ここに暗喩があるのなら、独立国の普遍性が必要であったと思う。」「物語としては面白く読めるのに、読後に空漠とした印象が残るのは、作者の方が読者より面白がっているから、と思えなくもない。」
平岩弓枝
女77歳
0  
阿刀田高
男74歳
13 「この途方もないイマジネーションを私は高く評価したい。」「とはいえ、細かいところは疵だらけである。こういう作品にはさらに周到な企みが必要なのではあるまいか。」
渡辺淳一
男75歳
0  
宮部みゆき
女48歳
16 「「おかしい」と異議を唱えたくなる大風呂敷の破れ目が多々ありました。」「〈国家〉も〈歴史〉も、書き手を圧倒する強大な題材です。奔放な想像力だけを武器に戦うのは、さすがの万城目さんも分が悪かったように思えます。」
林真理子
女55歳
9 「もっと面白い小説になったはずなのに、という意見が多かったが全く同感だ。ホラ話なら、もっと大きく拡げた方がいい。」
五木寛之
男76歳
16 「今回の候補作は残念ながら評価できなかった。大阪城の歴史をたどるなら、蓮如が荒涼たるこの地に石山本願寺をきずき、やがて特異な寺内町が形成されたことを無視することはできないはずだ。参考資料の使いかたにも、物足りなさを感じるところがあった。」
宮城谷昌光
男64歳
0  
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他の候補作
北村薫
『鷺と雪』
西川美和
『きのうの神さま』
貫井徳郎
『乱反射』
葉室麟
『秋月記』
道尾秀介
『鬼の跫音』
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候補者・作品
道尾秀介男34歳×各選考委員 
『鬼の跫音』
短篇集6篇 294
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎
男57歳
7 「(引用者注:「秋月記」と共に」)別の文学賞においてすでに評させていただいた。」「進境著しいが、未だ推輓には至らなかった。」
井上ひさし
男74歳
35 「語りの工夫で巧みに時間を繋ぎ合わせる離れ業もみごとだが、しかし長所は短所と隣り合っていて、その語りによって明らかにされて行く物語の中身が、血糊一色で、いささか月並みである。」「「悪意の顔」は、疑いもなく一個の佳品だが、この一篇では語りが読者を騙ろうとしていない。それで愛の哀しさがよく出たのかもしれない」
北方謙三
男61歳
15 「この作家独得のひねりが、生きていたと思う。長篇では、私はどうしてもあざといと感じてきたが、短篇ではそれが切れ味となっていて、読んでいて快感さえ感じた。短篇の要諦をしっかり掴んでいて、同時に継続力のある資質も感じさせる。」「私は、丸をつけて選考に臨んだ。」
平岩弓枝
女77歳
0  
阿刀田高
男74歳
7 「恐ろしさ、妖しさを描く筆致に舌を巻きながらも、それが結末にうまく収斂されてないように私には感じられた。」
渡辺淳一
男75歳
0  
宮部みゆき
女48歳
28 「悩みました。六作収録の短編集で、前半の三作には不満があり、後半の三作は傑作だと思ったからです。打率五割はプロ野球選手なら文句なしのナンバー・ワンですが、直木賞の場合はどうなのか? 選考委員としてやっと二度目の登板の私には、判断がつきませんでした。」「多彩な不条理のなかに、それを成り立たせている作者の理の筋が一本通っている場合には傑作になり、筋が通り切らないと消化不良になる。そう感じました。」
林真理子
女55歳
6 「前作を強く推しただけに、今回はややがっかりしてしまった。このシリアスさは、道尾さんに向いているとは思えない。」
五木寛之
男76歳
9 「異色の書き手の登場を感じさせるところが随所にあって、興味ぶかく読んだ。コアな愛読者にとらわれないで、もっと自由な世界に飛びだしてみてはどうだろうか。」
宮城谷昌光
男64歳
0  
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他の候補作
北村薫
『鷺と雪』
西川美和
『きのうの神さま』
貫井徳郎
『乱反射』
葉室麟
『秋月記』
万城目学
『プリンセス・トヨトミ』
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