ポジティブリストの弊害
また、海上自衛隊は通常業務として領海警備という任務がありませんので、通常航行中は目の前に不審船がいても海上保安庁に通報することしかできず、その結果、数多くの不審船を逃がしています。
そして今においても、北朝鮮に拉致されたままの何百人ともいわれる人たちを取り返しに行くことは、自衛隊の任務とされていませんので、その可能性を検討することすら許されていません。
斯様に自衛隊の行動を過剰に縛ることにより日本国民の生命や人権を蔑ろにしてきたことに何ら反省もないまま、ただ単に憲法を守ってさえいれば日本は平和だというのは、いかに現実離れした話かということです。
では、様々な事態に対応できる法律を作れば良いではないかということを言われる方もおられますが、はたして世の中の森羅万象を予測して立法化することなどできるでしょうか。オレオレ詐欺や脱法ドラッグなどの事件を見てもわかるように、世の中には法律の裏や抜け道をかいくぐる人間がごまんといるのです。はたして、国民の生命財産を守る国家の安全保障に、そのような抜け道が存在する余地を残しておいて良いのでしょうか。
大ざっぱに言えば日本では軍隊が警察のように運用されているわけですが、逆に警察が軍隊のような運用の仕方をされるとどうなるかと言いますと、それはそれで恐ろしい話になります。日本では憲法33条により禁止されていますが、どこかの国のように犯罪を行う可能性があるという理由で身体を拘束したり、犯罪の予防という名目で個人のプライバシーの侵害が堂々と行われたり、国民の人権が日常的に制限されかねません。だからこそ「警察」と「軍隊」は明確に区別し、それぞれの役割に沿った任務を行うべきなのです。
では最後に、もう少し具体的な例として侵略者に対する警察と軍隊の違いを見てみましょう。まず、戦争映画に出てくるようなジャングルを想像してください。敵を待ち伏せしているのが軍隊の場合、敵に気づかれないよう息をひそめ相手を十分ひきつけてから、いきなり自動小銃などで攻撃を仕掛けるのが普通です。
しかし警察の場合は、たとえ相手が明らかに武器を所持していたとしても、こちらから相手に声をかけることなく一方的に武器を使用するなどもってのほかで、日本には瀬戸内海シーハイジャック事件のように人質籠城事件で警察が人質の安全のために止むを得ず犯人を射殺しても殺人罪や特別公務員暴行凌虐罪で告発する人たちがいますので殺人未遂等で訴えられかねません。原則としては、まず、警察手帳を提示するなど警察官であることを相手に告げてから相手が何者であるかを確かめなければなりません。そして相手が銃を持っている場合は、相手に対して銃を捨てるよう警告し、相手が従わない場合は相手に銃を向け「撃つぞ」と警告し、それでも従わない時にはじめて威嚇射撃を行うことができます。しかも相手が攻撃してこない限り不法入国や銃刀法違反の容疑だけでは、警察官職務執行法の規定により相手に危害を加えることはできません。
これは法令通り杓子定規に動くと仮定した極端な例ですが、基本的に守らなければいけないことは同じです。はたして、時々刻々と変化する状況にあわせて違法か適法かを瞬時に判断し、躊躇することなく発砲してくる相手から自己を守りつつ、相手を傷つけずに逮捕できるでしょうか。相手の弾は絶対に当たらないが、自分の撃つ弾は百発百中命中する映画やテレビドラマの主人公でもない限り不可能な話です。相手は、こちらの配慮など考慮するはずもなく、こちらの存在を悟った瞬間に発砲してくるでしょう。このケースとは逆に相手が待ち伏せしている場合はなおさらです。つまり、警察が侵略軍に対する場合は、いくら訓練を積んだ優秀な人間が最新鋭の武器を装備していようとも警察側に何らかの被害が発生することは避けられないのです。要は敵味方どちらの生命に重きをおくのかという話で、はたして味方に不要な犠牲を強いてまで、悪意をもって我が国に攻撃を仕掛けてくる人たちの生命や安全には配慮しなければならないのでしょうか?
沖縄の島に相手の軍隊が上陸してきた場合、仮に相手が投降してきたとしても、警察は逮捕しなければなりませんが、そもそも相手が一個師団であれば少なく見ても五千人以上いるわけで、片や沖縄県警は内勤を含めても半分の2千五百名程度しかいません。だいたい、そのような数の手錠などないでしょう。仮に、他省庁の助けを得て、なんとか全員逮捕したとしても、留置場はどうするのか?通訳や弁護士はどうするのか? 48時間以内に調書を作って送致できるのか?72時間以内に拘留請求できるのか?領事館通報はどうするのか?などなど、どう考えても物理的に不可能なことばかりで、結局は強制送還という形しか取れないでしょう。そうなれば強制送還された人間が再び日本に攻めてくるというエンドレスな戦いが続きます。警察が他国の軍隊に対応するというのは、こういうことなのです。
そろそろ我が国も、これらのことを踏まえたうえで、自国の防衛がこのまま警察権によるもので良いのかどうか、本気で考える時期に来ているのではないでしょうか。
続き→「平和ボケから目が覚める! 一色正春のニッポン自衛論」
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