熊谷賢輔の「世界をつなぐ道」<7>ユーコンで出会った仲間と釣りやキャンプを満喫 カヌーに自転車を積んで川下り<後編>
自転車世界一周の旅に出たら、やると決めていたカナダ・ユーコンの川下り。カヌーに自転車と食糧を積んで320km・8日間の旅に出た。しかし途中、まったく流れのない湖「レイク・ラバージ」に苦戦し、大雨にも見舞われた。ようやくたどり着いたレイク・ラバージの出口で着岸し、陸にあがると、見知らぬ2人の男が話しかけてきた。
出会った2人はまさかの日本人
「ハロー…」
相手が英語で話しかけてきた。僕も思わず「は!?ハロー!」と答える。お互い沈黙…。
「日本人の方ですか?!」
「日本人です!!」
僕は元気良く答えた。まさかこんなところで日本人に会うなんて! 遭難しかけた2日間、心細くなっていた僕は彼らに会ったことでテンションMAX。純粋な日本人と話をすること自体、旅をスタートしてから始めてだった。約2ヶ月ぶりに日本語を話し、聞くことが、僕の耳と口と身体を癒してくれた。
メガネのお兄さんは「ケイさん」。ホワイトホースのツアー会社で働くオーロラ案内人。もう1人の「ノゾムさん」は、ケイさんとカヌートリップをするためにカナダ国内のレベルストークという町から遊びにきた京都人だった。
彼らが作ってくれた夕食のカレーを食べながら、カヌートリップの話で盛り上がった。もちろんテーマは「レイク・ラバージについて」。
僕とほぼ同じ日程でカヌーを漕いでいた彼らは、同じように白波・逆風・豪雨にやられていた。あの化け物レイク・ラバージを越えてきた者同士、固い絆で結ばれた瞬間だった。
夜も深まってきた頃、薄い霧がユーコン川を覆い、青く鈍い月の光に照らされた。3人とも息を飲み、その幻想的な光景を見つめた。
美しい景色を共感できる人がいる。もともと1人でカヌートリップをしようと考えていた僕だったが、彼らに出会い、仲間と一緒に旅をする楽しさを知った。
仲間がいれば楽しさ倍増!
翌日からはケイさん、ノゾムさん、クマ(僕)の3人で旅をすることになった。
彼らに出会ってからの5日間はあっという間だった。川の流れも速くなり、ゴールまでの残りの距離を気にする必要はなかった。むしろ速過ぎて、ゴールしないように刻んでいったほどだった。そのおかげで余裕を持った時間配分でカヌートリップを楽しむことができた。
そのなかでも彼らが教えてくれた3つの楽しみを紹介する。
■フィッシング
ユーコン川ではノーザンパイク(キタカワカマス)やグレイリング(カワヒメマス)という魚が釣れる。僕はカヌーと同じでフィッシングも初心者レベルなのだが、ケイさんとノゾムさんは釣りが大好きで、暇があれば竿を持って魚釣りをしていた。そのおかげで、彼らが釣ってきた巨大なパイクを2回も食べることができた。
僕はというとまったく釣れず、「クマさんのパイクが食べたいな〜」というノゾムさんの一言が辛かった…。
途中に売店などがないユーコン川では、フィッシングは楽しみであると同時に、自力で食料を確保する手段として非常に重要でもある。「遊び」というよりは、もはや生きるために必要な技術というべきかもしれない。
■キャンプファイア
ユーコン川は夏でも水温がかなり低い。しかも、たまに降る雨や水しぶきなどで身体が冷える。そのため、陸に上がってまず重要なのがたき火用の薪集めだ。前に利用したカヌーイストが置いていった薪が残ってるキャンプサイトもあるが、全くない場合もある。そんなときは、キャンプサイトの奥の林で枯れ木を拾い集める。
火を焚くファイアピットが無い場合は、大きめの石を河岸で集めて“かまど”を作る。キャンプファイアの目的は、暖をとることと、灯りを確保すること。そして、ユーコン川のカヌートリップの安全を祈願する“儀式”でもある。
キャンプファイアの優しい炎は、僕たちの体温だけでなく周りの空気も温かくしてくれた。そんな雰囲気の中で飲むコーヒーは、ふつうのコーヒーなのに、どんなに人気のあるカフェよりも美味しく感じるから不思議なものだ。数日前に会ったばかりの2人も、ずっと前から旅を共にしている友人のように思えた。
■サウナ
旅の間は、お風呂やシャワーなんてものはない。あるのは目の前を流れるユーコン川の水。かといって、水浴びは寒くてツライ。そんな中、ノゾムさんのアイデアでサウナを作ることになった。
手順はこうだ。まず、骨組みとなるパドルをロープを使って組み立てる。その上に、シートを被せる。キャンプファイアの火で焼いた石をシート内に置く。僕たちも中に入り、その焼き石にぬるま湯を降り注ぐ。液体が石に触れた瞬間、凄い勢いで白い水蒸気が立ちのぼり、目の前が真っ白になる。
これを何度か繰り返すとシート内の温度がみるみる上昇し、次第にサウナ並みに暑くなってくる。
たくさん汗をかき、もう限界!というところで外に飛び出る。ユーコン川に吹く冷たい風が、芯まで温まった身体に心地よい。心も身体もリフレッシュできる至福のときだった。
全ての経験は次なる旅の糧
スタートした当初は長く厳しい8日間になると思っていたが、終わってみれば、あっけないほど淡々とした幕切れだった。
レイクラバージで散々苦しめられた場面や、ケイさんやノゾムさんに出会った時の喜びの瞬間、焚火を囲みながら3人で他愛もない話をしていた時間。ゴール地点のカーマックスに到着した時は、達成感よりも「ゴールしてしまった」寂しさの方が大きかった。
しかし、過ぎ去った過去を振り返るだけではいけない。過去は経験であり、思い出であり、未来への糧だ。その過去を手元に引き寄せ、一緒に持って行くのだ。
その過去が僕に語りかけてくる。「ユーコン川に自転車は一緒に持って行くべきではない」と。
そして、ユーコン川のカヌートリップは最低でも2人でいくことをオススメする。
1984年、横浜生まれ。法政大学文学部英文学科を卒業後、東京3年+札幌3年間=6年間の商社勤務を経て、「自転車で世界一周」を成し遂げるために退社。世界へ行く前に、まずは日本全国にいる仲間達に会うべく「自転車日本一周」をやり遂げる。現在はフリーライターの仕事をする傍ら、3年をかけて自転車世界一周中。
オフィシャルサイト「るてん」 http://ru-te-n.com/