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『弟の夫』田亀源五郎インタビュー ゲイコミックの巨匠が“ホームドラマ”のなかに盛りこんだ、ヘテロへの「挨拶」と「挑発」

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2016/01/18


日々をつつましやかに暮らす父娘のもとに、ある日ひとりのカナダ人がやってくる。彼はなんと、亡くなった弟の「夫」だった!

「月刊アクション」に連載中の『弟の夫』は、ゲイコミックの重鎮・田亀源五郎先生が手がける作品で、なんといっても田亀先生にとっては、一般青年誌で連載する初の試み! この巨匠の連載については、連載前から注目を集め、本誌『このマンガがすごい!2016』オトコ編で第11位にランクイン。今月12日には単行本最新第2巻も発売された。

今回はこの話題作の著者・田亀源五郎先生にインタビュー。制作秘話や、この作品への想いなどをうかがった。

田亀源五郎

1964年生まれ。日本のゲイ・コミック作家を代表するひとりで、自らを「ゲイ・エロティック・アーティスト」と称している。数々のゲイ雑誌に寄稿し、男性ファンのみならず女性の支持も厚い。国内外で展覧会も開催されるほど。

現在、「月刊アクション」(双葉社)にて『弟の夫』を連載中。単行本は2巻まで刊行。同作は「第19回文化庁メディア芸術祭」(2015)のマンガ部門で優秀賞を受賞。

Twitter:@tagagen

1月12日に最新第2巻が発売! 発売を記念して、1月23日(土)SHIBUYA TSUTAYA B1Fコミック売場でサイン会も実施!
SHIBUYA TSUTAYA BLOG

『弟の夫』誕生秘話 「ヘテロ向けのゲイコミック」というコンセプト

——田亀先生はこれまでゲイ雑誌で作品を発表してきました。一般誌での連載は、今回の『弟の夫』が初めてです。「月刊アクション」(双葉社)で連載するに至った経緯をお聞かせください。

田亀 担当編集さんから「なにかいっしょにやりませんか?」とお声かけいただいたのが最初です。

——担当さんはどうして田亀先生に?

担当 もともと田亀先生の作品を読んでいまして、ライターの大西祥平さんに紹介していただきました。

田亀 以前、大西さんから取材を受けた際に、「ゲイ雑誌以外で描くお気持ちはありますか?」という質問を受けたんですね。

担当 その話を大西さんに教えていただき、『でしたら是非!』となりました。

——『弟の夫』は、どういったところから着想を得たんですか?

田亀 「ヘテロ(異性愛者)向けのゲイコミック」をやれたら、おもしろいだろうな、とは以前から思っていました。7~8年くらい前に、別の一般誌から声をかけてもらった時に、プレゼンしたことがあるんです。その時は話が流れてしまったので、「まあ今回もポシャるだろう」と、私はタカをくくっていたんですよ。

担当 編集長も『いいね!』と言ってくれて、すんなりと通りました。それからは、あっという間でしたね。

田亀 (掲載が)決まって、こっちがビックリしたくらいです。見本誌をいただいて、「月刊アクション」を開いてみると、かわいい女の子が出てくるマンガがいっぱい載っていて、最初は「ここで勝負するのは、いくらなんでも土俵が違いすぎやしないか?」って思いましたよ(笑)。

一般誌ならではの工夫と計算された作品設計

——一般誌での連載ということで、戸惑いとかはありませんでした?

田亀 じつは第1話は、最初のネームではここ(※下のカットの右ページ)から始まっていたんです。

——あ、もういきなりマイクが玄関に来るところから。

1話目冒頭から、主人公・弥一とマイクが出会うシーンで始まるという「つかみ」を考えていた田亀先生。

1話目冒頭から、主人公・弥一とマイクが出会うシーンで始まるという「つかみ」を考えていた田亀先生。

田亀 それが、昔からの私のやり方だと思うんです。「つかみはOK」というか。

——これが1ページ目だったら、たしかにビックリしますね。

田亀 ただそれだとテンポが速すぎるんですね。次から次へと、いろいろなことが起きすぎて、追いかけていくのがたいへんになってしまう。そこは指摘されて「ああ、なるほどな」と思いました。
じゃあその手前に導入部分を入れましょう、という話になって、少し日常風景を描くことになったんです。ごはんをつくって、夏菜を学校に送りだして、掃除をする……という家事シーンを。ところが今度は、家事シーンの止めどころがわからなくなっちゃって、延々と家事を描いちゃったんです。

——(笑)。

田亀 それで最終的には2ページけずったんですよ。

——それ、逆に言えば家事シーンが完成原稿より2ページも多かったということですか?

田亀 そうなんですよね。そもそも何のために家事シーンが必要かというと、導入部分であり、雰囲気を出すためでもあり、ちょっとした心情の説明なんかも盛りこまれているんです。で、そういうことをやろうと思えば、いくらでもやれちゃうんです。
ストーリーの本筋とは別の部分を描くというのは、これまでやったことがなかったので、筆のおもむくままに描いていたら、止めどころがわからなくなってしまいました。

——ただ、その導入部分のおかげで、すごく読みやすくなっていると思いますし、読者も入っていきやすい作りになっていると思います。というか田亀先生の作品は、とても読みやすいんですよね。

田亀 私は、自分のことを“エンタメ作家”だと思っているので、「おもしろい」と同様に「読みやすい」を常に心がけているんです。とくに「読みやすい」ですね。なぜかというと、それまで私が作品を載せていたゲイ雑誌は、マンガ雑誌ではないんです。
だから、かならずしもマンガ好きの読者だけをターゲットにしているわけではない。日頃からマンガに親しんでいない人でも、簡単に読めるものじゃないといけない。しかも読者層は、下は法律的なものがあるから18歳だとしても、上は70代や80代のおじいちゃんまで読んでいる雑誌なんですね。だから想定している読者層のレンジは、普段からかなり広くとっているつもりです。
自分が読者として世のなかのマンガを読んだ時に、ちょっとでも読みづらいと感じたり、少しでも流れが止まるように感じるものは、いっさい入れないようにしています。

——説明的なセリフが極端に少ないんですよね。絵を見ればわかる。しかし、母親の件でミスリードされたことにもつながってしまうと。

田亀 ああ(笑)。あれはね、ちょっと怪我の功名みたいなところがあるんです。

——意図していたわけではないんですか?

田亀 私のなかでは、どうしようか悩んだ状態のまま連載がスタートしたんです。まあ、死なせちゃったほうが楽は楽なんだけど(笑)。ただ、それだとあまりに、かわいそうじゃないですか。親が死んで、弟が死んで、それで奥さんまで……ってなったら。
それで奥さんはどうしようかなぁ、と結論を先送りにしたままスタートしたんですけど、奥さんを出すことで、読者に対してサプライズができるな、というのが1点。もうひとつは、この作品は「ヘテロ向けゲイコミック」ですから、“ゲイとは何か”、“セクシャルマイノリティとは何か”といったテーマがあるんですけど、そこから「家族」という普遍的なテーマに接続していけるんじゃないかという見通しもついたんです。

マイクが見つけた母親が写っている写真。父子家庭なので母親が亡くなってると思った読者も多かっただろうが、1巻の巻末でその母親が登場するという展開に、思わずマイクもビックリ!

マイクが見つけた母親が写っている写真。父子家庭なので母親が亡くなってると思った読者も多かっただろうが、1巻の巻末でその母親が登場するという展開に、思わずマイクもビックリ!

——それでホームドラマの体裁になっていったんですね。

田亀 そうですね、担当編集さんとも途中から「ホームドラマでいいですよね」と方向性が決まりました。

——「計算している」といったら語弊があるかもしれませんが、かなり構造の設計を考えてますよね、先生。

田亀 そのへんはかなり計算してますよ。というのも、私はマンガの作り方に対して昔から苦手意識があったんですよ。

——それはどうしてですか?

田亀 私自身、変な話、いつの間にか漫画家になっていた人なんです。もともと絵を描くのが好きだったし、小説も書いていました。それを足して、マンガっぽくしてみたら、表現の手段として効果的だった……というわけで、熱心な漫画家志望者というわけではなかったんです。
マンガを読むのは昔から好きですけどね。

——なるほど。マンガを描くということに、それほど自覚的ではなかった、と。とくにどのあたりに苦手意識があったんですか?

田亀 やっぱりコマ割ですね。感覚的にコマを割るということが、私にはできない。
ですから、マンガを描くときは、ロジックで詰めて結論を出す、といった描き方をずっとしてきました。だから延々と家事シーンを描いちゃうんですよ(笑)。

——“小津映画”みたいになっちゃいますね(笑)。

田亀 昨年、原節子さんが亡くなったので、ちょうど小津映画の『晩春』を見なおしてたんですけど……。

——『晩春』のほうですか?

田亀 そう、私『麦秋』のほうが好きなんですけどね。ただ、『晩春』を見なおしている時に、「私がやりたいことって、けっこうこれに近いな」とも感じました。穏やかな日常のなかで、ちょこっとだけ緊張が走ってさざ波が立つ瞬間がある。

——一瞬の緊張。『弟の夫』を読んでいると、なんとなく通じる部分が感じられます。

田亀 淡々とした日常のなかに緊張がある。マンガでやるのは難しいですけど、すごくおもしろいなと思います。

田亀先生がインスピレーションを受けた、小津安二郎監督の日本映画『晩春』(1949年公開)。原節子演じる「娘」と「父」の関係を描いたホームドラマ。

田亀先生がインスピレーションを受けた、小津安二郎監督の日本映画『晩春』(1949年公開)。原節子演じる「娘」と「父」の関係を描いたホームドラマ。


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