クローズアップ現代「台湾と中国 揺れる“距離感”」 2016.01.15


台湾の議会を占拠する学生たち。
政権への不満が爆発したこの運動から2年。
今、台湾で政権交代が起きる可能性が高まっています。
1949年以来分断が続いてきた台湾と中国。
あさって、台湾のトップ総統を決める選挙が行われます。
与党・国民党は大苦戦。
政権の中国融和政策を批判する野党・民進党が大きくリードしています。

自分たちは中国人とは違う台湾人だという意識が大きなうねりとなっているのです。

中国との距離感をどう取るのか。
揺れる台湾の今を見つめます。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
国谷キャスターが取材のため今回は、西東がお伝えします。
日本の隣、台湾で16日に行われる総統選挙。
政権交代の可能性があり歴史的な転換点になると注目されています。
この選挙の最大の争点は大国、中国との距離の取り方です。
といいますのも、長い間分断が続く台湾と中国。
その始まりは、1949年に国民党が共産党との内戦に敗れ台湾に逃れてからです。
互いに、自分たちこそ正当な中国だと主権を認めず対立関係が続いてきました。
しかし台湾は、2008年に現職の馬英九総統が就任したあと中国との関係強化を進め経済的に発展しました。
貿易額は1.3倍。
中国から台湾を訪れる人は13倍にもなりました。
そんな中、行われる新しい総統を選ぶ選挙。
世論調査によりますと中国との融和政策を取る与党候補が25%。
これに対し、台湾人の自主性を守ろうと主張する最大野党の蔡英文候補は43%と大きくリードしています。
今、現地では、台湾人意識台湾アイデンティティーを強く自覚し守ろうという新たな風が巻き起こっているんです。
これ、日本とは無関係ではありません。
台湾で政権交代が起きれば東アジア地域の経済や安全保障にも影響が広がる可能性があるためこの選挙結果につまり、台湾の中国との距離感に注目が集まっています。

野党・民進党の蔡英文候補。
総統選挙は、4年前に続いて2回目の挑戦です。
法律が専門の学者出身で過去には、対中国政策を担当する閣僚などを歴任しました。
共産党一党支配の中国と急速に接近することは台湾の主体性や民主主義を損なうと主張しています。

一方、劣勢に立たされている与党・国民党の朱立倫候補。
中国との交流を拡大していくことが台湾の利益になると訴えています。

苦戦の背景には現在の馬英九政権が続けてきた対中国政策があります。
2008年に就任した馬英九総統。
中国との交流拡大を急速に推し進めてきました。

中国との結び付きを強めることが台湾の発展につながるとして関税の引き下げや投資の促進など中国との経済協力に関する協定を相次いで締結。
馬英九総統の就任以降台湾と中国の貿易額は30%以上増加しました。
そして、台湾と中国の間を直接結ぶ定期便を開設。
中国からの旅行客の受け入れを大幅に増やしました。
人口2300万人の台湾。
2008年には、28万人だった中国人旅行客は増え続け年間およそ400万人が押し寄せるようになったのです。
急増する中国人に戸惑う人も少なくありません。

急速に強まる中国との関係。
台湾の人々の意識に変化が起きています。
董仲軒さん26歳。
中国人を身近に目にするようになって自分たちは中国人とは違う台湾人なのだという意識が高まっていったといいます。

馬英九政権の中国に対する融和政策への不満が爆発したのがおととし3月。
中国との新たな経済協定を一方的に採決しようとしたことに反発した学生が議会を占拠しました。
馬英九政権が進めようとしたのは通信や医療、金融などサービス分野での規制緩和。
学生たちは中国資本の参入が進むと台湾企業の市場が奪われたり中国政府の影響力が増したりするのではないかと恐れたのです。

しかし、その後も馬英九政権は、分断後初となる中台首脳会談を実現。
中国との関係をさらに強化する姿勢を示しました。

こうした中、行われる今回の総統選挙。
独立志向が強いとされる野党・民進党の蔡英文候補が政権に反発する有権者の受け皿となっています。

国民党の対中国政策は失敗だと批判し台湾人は中国人とは違うのだという有権者の意識に訴えています。

選挙前、NHKの単独インタビューに応じた蔡英文候補。
台湾の民主主義を守ることが重要だという考えを示しました。

今回の総統選挙。
若者たちの政治意識はかつてないほど高まっています。
議会を占拠した若者たちも政党を立ち上げ蔡英文候補を支援しています。

この集会に参加した董仲軒さん。
ほぼ毎日選挙運動に加わっています。
今、行動を起こさなければ台湾の独自性や民主主義が失われるのではないかと危機感を強めています。

中国との関係をどうするか。
台湾の人々の間で、改めて考える機運が高まっています。

スタジオには、中国と台湾の政治や安全保障にお詳しい、東京大学東洋文化研究所教授の、松田康博さんにお越しいただきました。
どうぞ、よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
松田さん、先ほど、台湾から帰国されたばかりと伺いましたが、蔡候補が優勢といわれていますけれども、実際、現地の雰囲気というのはどうなんでしょうか?
そうですね。
先ほどのVTRにもありましたけれども、台湾の選挙というのは、大変盛り上がりますですね。
しかしながら、最初の選挙から20年もたちましたし、今回、政権交代があるとしても3回目になりますので、社会は大体は平静に推移しておりまして。

平静ですか?それは?
そうです。
これまでがあるということは、具体的にどういう、具体的にどういうことなんですか?
それは例えば2000年のときに、初めて民進党政権が出来たときには、国民党が分裂したということもありまして、大変大きな反発を国民党支持者のほうから受けましてですね、暴動に近いような不安定な状況があったんですが、そういうようなことは、今回起きそうにない。
それだけ蔡英文候補が非常にリードしていて、民進党政権が恐らく勝つだろうということが受け入れられている状態です。
こちら、直近の動きでいいますと、こういう形ですよね。
台湾の現状というのは。
14年の11月には、国民党、大敗している。
そのあと今回の、迎える総統選ということになりますね。
そうですね、ですから、まずひまわり運動で、国民党、そして馬英九政権に対する不満というものが爆発して、このことによって、台湾内部の雰囲気が大きく変わってしまいまして、ですからその一つの結果が、一昨年11月の国民党大敗になるわけですね。
統一地方選挙で。
ただ、これなぜ、国民党が具体的になぜ支持を失って、この蔡候補がこれだけ支持されているのか、伺いたいんですけども。
馬英九総統は、8年前に、初めて総統に当選したときに、それまで中国との関係が不安定だったものですから、中国が経済的にどんどん成長していると、このチャンスを逃してはならない。
ですから、中国との関係をよくさえすれば、台湾の経済もよくなり、人々の暮らしもよくなるという、言ってみれば、中国との関係をよくすれば、すべてがよくなるという、ばら色の未来を描いたと。
それに対する失望、あるいは怒りといったものがですね、大きく噴出しているということになります。

何か変わろうとしている雰囲気は感じられるんですけれども、何からどのように変わろうとしているんでしょうかね?
国民党の政治というもの、これは一時期、政権を失っていましたけれども、基本的に戦後の台湾、ずっと国民党主導だったわけですね。
その間ですね、大変古くさい政治といいましょうか、利益誘導型であったりとか、あるいは非常に、老人がなかなか引退しない、古い政治構造というものが。

ベテランの高齢の政治家の方が、担当されている。
いつまでも影響力を行使するというような、そういう若者にとってみればちょっと耐えられないような、政治構造があったと。
それに対して、民進党というのは改革志向型で、その政権の、地方の首長をやっている人たちも非常に若いですよね。
ですから、若さでですね、そういった古い政治構造を変えたい、また今回は、蔡英文氏は女性ですので、新たな観点から、台湾政治を変えてくれるんじゃないか、そういう期待、そういうイメージがどんどん膨らんでいるという状態ですね。
なるほど。
その若者の、有権者の側の若者の意識で、台湾人意識、強くこれを守っていきたいという思いも伝わってきましたけれども、これはどういう表れなんですか?
今まで中国が、まだそれほど経済的に強くないころには、台湾のほうが豊かであり、民主的であり、はっきり言って中国に対して、一種の優越感のようなものもあったわけですね。
それが最近、どんどんどんどん中国のほうが強くなってきた。
このままでいったら、台湾はなくなってしまうのではないのかというような危機感が生まれてきている。
しかも中国との関係がよくなっても、自分自身の給料は増えない。
人々の生活がよくならないということですから、中国との関係をよくすることで、誰かほかの人がいい目を見てるだけであるという、そういう批判も国民党に向かっているということになります。
ですから、ますます中国との関係、自分たちとの生活を考えてみるとですね、この台湾を大切にしなければならないんだ。
台湾の未来を自分たちで決めなければならないんだと、そういう気持ちが強まっているということになります。
今、お話がありましたように、台湾人意識に目覚め、自立を求め始めた有権者。
とはいえ、台湾にとって中国は、最大の貿易相手です。
中国との経済関係は切っても切れず、総統選挙のあと、関係がどうなるのか、不安を抱く人たちもいます。

台湾第2位のタイヤメーカーです。
台湾と中国が結んだ経済協定で関税の減免措置を受け中国への輸出を増やし業績を拡大してきました。
今後も生産量を拡大しさらに中国への進出にも力を入れる計画です。

今では中国市場での売り上げが、3分の1を占めるまでになりました。

中国への依存を深める台湾企業。
中国に進出した企業の中には政権が代わるとビジネスに影響が出るのではないかと懸念する企業もあります。
海峡を挟んで、台湾から僅か120キロの中国・福建省平潭。
去年4月、中国政府は、ここに台湾企業を誘致する自由貿易区を作りました。
台湾の港と結ぶフェリーを増便したり関税を免除したりすることで投資しやすい環境を整備しました。
これまでに、小売り業やインターネットの関連企業など台湾企業600社余りが進出しました。
自由貿易区の開設に合わせて進出してきた台湾の企業です。
化粧品や食品など500種類の商品を中国国内に向けてインターネットで販売しています。
食品や日用品を中国に輸入する場合通常、10%から50%の関税がかかります。
しかし、この自由貿易区を通せばおよそ1万円までの商品は関税が一切かからないのです。

売り上げは右肩上がりでこの半年で2倍に増えています。
台湾で政権が代わって中台関係が悪化すれば優遇策などが変更されるのではないかと懸念しています。

VTR全般を見ますと、やっぱり台湾のビジネスマンの方々ですね、中国のマーケットに依存している現状も分かりますし、その関係の強化というものは、やっぱり、総統選後も望んでいるように見えるんですが、実際、本音はどうなんでしょうか?現地では。
そうですね。
非常に微妙なところがございまして。
微妙ですか?
台湾のビジネスマンにしてみますとですね、関係の安定が損なわれるということだけは、絶対避けてもらいたいわけですね。
ですから例えば、台湾の独立を宣言するということになると、これはまさに武力紛争まで招きかねない、ビジネスどころではなくなるということでございます。
確かにそうですね。
恐らくはそうはならないわけなんですけれども、中国との関係を、いろんな合意とかございますので、そういったものを、過去のものを、一応なんとか継承した形にして、安定化させたことによって、これからもビジネス環境を維持してもらいたいということです。
しかしながら、あまりこう、関係が強くなり過ぎて、統一に近づいてしまいますと、先ほどのような、台湾に対する優遇策というものがなくなってしまいますので、一定程度、台湾が自立していたほうがよいということもあります。
ですからそういう面では、ただ単に中国に近づいていけばよいということではないという意味では非常に微妙なんですね。
そういうことなんですね。
最後の方のインタビューが、誰が政権を取っても、自分たちが安定して商売ができて、共存共栄できればいいって、そういうことなんですね。
そういうことになると思いますね。
今、経済の話も出てきたんですが、影響の話も出てきたんですけれども、仮にですが、政権交代した場合、われわれ、日本にはどういう影響が及んでくるとみればいいんでしょうか?
日本と台湾との関係は、お互い、人々の感情は大変よいものがありまして、そういった基礎は恐らく、中長期的にも変わらないだろうというふうに思います。
問題はですね、台湾と中国との関係が、政権が交代した場合、不確実になっていく、不安定化していく可能性があると。
そのときに、台湾が日本との関係をどのように構築していくかということになります。
例えば、台湾は世界的な経済の枠組みから外されているという状況になりますので、日本との間で、自由貿易協定を結びたいとかですね、あるいは、TPPに入りたいというような、そういう考えを持っております。
そうしますと、中国側は黙ってないわけですよね?
それもですね、日中関係や中台関係が安定している状態であれば、日台関係も強化に対して、それほど強い抗議というのは、来ないわけなんですけれども、もしも中台が不安定な状態で、あるいは日中が不安定な状態になると、こういったところでぎくしゃくする可能性というのは出てきます。
そして経済のお話ありましたけれども、安全保障上はどう、これ、考えればいいんでしょうか?
ここ8年間というのは、この地域のパワーバランス的にいうと、台湾は中国にどんどん近づいていっているのではないかという、そういう傾向がありましたけれど、それにはストップがかかるというふうに思います。
今後は、台湾側が日本に対して、安全保障上もかなりの期待をしていますので、中国との関係を、どのようにバランスを取って、やっていくかという意味で、日本にとってみれば、難しいかじ取りをしていく局面になってきています。
いろんなところを見て、対応していかなきゃいけない、難しくなりますね。
そうですね。
どうもありがとうございました。
2016/01/15(金) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「台湾と中国 揺れる“距離感”」[字][再]

今月16日に投票が行われる台湾の総統選挙。中国との経済的結びつきが強まる中、中国との関係が最大の争点だ。選挙戦を通して中国との距離感に揺れる台湾の今を見つめる。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学東洋文化研究所教授…松田康博,【キャスター】西東大
出演者
【ゲスト】東京大学東洋文化研究所教授…松田康博,【キャスター】西東大

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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