(相馬涼)すごい屋敷ですねこれ。
(宇佐見裕也)作家の布施秋霜さんの家だそうですよ。
(吉崎泰乃)えっそれってこの間あの日本純文学大賞をとった?
(宇佐見)ええ。
(榊マリコ)男性の不審死体だって?
(権藤克利)現場はこの奥ですけどそれがなんていうか…。
(相馬)すっげえ…。
なんか1枚の絵みたいですね。
(泰乃)思ってても口に出さないの!とにかく検視をお願いします。
待って!砂の上に足跡がないのおかしくない?
(宇佐見)確かに…。
仮に事故だとしても亡くなった人があそこに行くまでの足跡が必ず残るはずです。
だとしたら…。
何者かが砂の上に残った足跡を消してから立ち去った…。
(土門薫)亡くなった壁谷多聞さんは庭を作る仕事…。
作庭家でよろしいんですね?
(有田弘道)はい…。
あなたは壁谷さんの…。
弟子をしています。
有田弘道です。
先生の幼なじみで小説家の布施秋霜さんからこの屋敷の中庭に枯山水を作ってほしいと先生に依頼があったもので…。
布施秋霜さんはこの家には住んでいないんですか?
(牧本圭一)先生は中京区のマンションにお住まいでこちらは別宅になります。
あなたは?こうにち出版の牧本と申します。
布施先生を担当させて頂いていてこの別宅の管理も任されてます。
遺体を見つけた時の状況を教えて頂けますか?壁谷先生は今日は一日ここで作業をされていて…。
でも夜中になっても連絡が取れなくて…。
それで有田さんから私に電話が。
後頭部に激しい裂傷。
かなりの出血。
血痕が白砂に混じって広がってます。
どうしてこんなふうに…。
とにかく写真だけでも押さえておいて。
はい。
マリコさん。
これを見てください。
髪の毛…?
(宇佐見)ええ。
それと…。
こっちは爪か何かのかけらみたいね。
(宇佐見)どちらもかなり古いものですね。
布施秋霜さんのご家族は?先生は奥様の美凪様と2人暮らしです。
お子さんはいらっしゃらないんですか?
(権藤)あの別宅は普段は使われていなかったんですか?
(布施秋霜)ええ。
10年以上前に手に入れたものなんですが場所も不便でなかなか訪れる機会もなくて。
なのになぜ枯山水の庭を作ろうと思われたんですか?私は今年限りで筆を折ろうと思っています。
作家を辞めるって事ですか?妻と2人でのんびり暮らそうと思って…。
しかしこんな事になってしまうとは…。
亡くなった壁谷多聞さんとは同郷の幼なじみだったそうですが…。
ここしばらくは互いに仕事が忙しくて庭の件で会ったのがもう10年ぶりぐらいでしょうか。
(権藤)昨夜の7時から9時まではどちらに?私はその頃は園のバーで飲んでいました。
奥様はいかがですか?
(布施美凪)私は主人を待ってこの部屋で1人でずっと…。
念のためにお店の名前を。
(布施)花見小路のシーセブンという店です。
(風丘早月)始めます。
見て。
後頭部の頭皮が激しく断裂してる。
出血が激しかったのは間違いない。
だとすると死因は失血死?ううん。
頭蓋骨も骨折してるし脳の損傷も激しそう。
死因は脳挫傷ね。
左手首にうっ血。
指による圧迫痕でしょうか?
(早月)これ何かしら?粘性のある付着物?遺体の左手首から見つかった付着物の成分です。
保湿剤コラーゲン微量の香料…。
女性用の化粧品でしょうか?ただ成分比が一致する化粧品が見つからなくて…。
傷の方からは何か?念のため石は5個とも調べましたけど傷口の形状と一致したのは被害者が倒れていた一番でかい石でした。
(日野和正)主石っていうんだよ。
しゅせき?枯山水や庭園で一番大きい景色の中心となるような石の事ですよね?つまり被害者はその主石に後頭部を打ちつけてそのまま死亡した。
被害者の左手首に揉み合った痕跡もあったし他殺とみて間違いないわね。
でも砂の上には足跡は一つも残っていませんでした。
現場にあったレーキ。
この砂に模様を描く道具なんだけどもここから出た指紋は全て被害者のものだった。
ただし先端からは無数の血痕が出た。
血痕が付着した砂が広範囲に広がっていた事からみても犯人が犯行後に足跡を消したのは間違いないようね。
なるほど。
こういうふうに描くんですね。
おたく誰?京都府警科捜研の榊といいます。
壁谷多聞さんは殺害された可能性が高いと判明しました。
なおかつ犯人は現場から立ち去る際砂の上の足跡を消して枯山水の模様を元に戻していったんです。
まさか俺の事疑ってるんですか!?あんな簡単な箒目なら誰だって描けますよ。
あの庭に先生が描いていたのは流れ紋って一番シンプルなやつだし。
これちょっとお借りしていいですか?確かに出来ますね。
(権藤)造園の心得がなくても出来るわけか…。
つかぬ事を伺いますがこの規模の枯山水を作るにはどれぐらいの期間がかかるんですか?普通は2か月ぐらいですけど今回は半年はかけてます。
石探しだけで俺もあちこち行かされたし。
この形じゃないとダメだって…。
今回は先生なんか気合の入れ方が半端なくて昨日だってこれから砂紋を描くって時に…。
(壁谷多聞)もう帰っていい。
でも…。
いいから帰れ。
(有田の声)そう言って俺の事追い返すみたいにして…。
仕上げというのはどういう作業なんですか?根入れも全部終わって整地して白砂も入れた後ですからあとはこんなふうに砂紋を描くだけですけど…。
なるほど。
完成予想図ですね。
って事は布施秋霜さんもこれを?もちろんです。
これはまるで違う模様ですけど…。
立てる石を選んだあと砂紋を何パターンも当て込んでみてその中から先生がこれを選んだんです。
(ため息)マリコ君はこの庭どう見える?どうって…。
並んでいる石は火成岩。
周囲の白い砂は貝殻などカルシウムを多く含んだ組成で…。
ごめん。
聞いた僕が悪かった。
私何か変な事言いました?いやあの…所長が聞いたのはなんの風景に見えるかって事ですよね?風景?枯山水は水を一切使わずそれでいて水の豊かな自然の風景を表現した芸術的な庭の事なんです。
優れた枯山水は見る人の想像力をかき立てるように出来てるわけ。
でも俺にもただの石と砂にしか見えませんけどね。
それって感受性ゼロって感じ。
え?あっごめんなさい。
マリコさんの事言ったんじゃ…。
(宇佐見のせき払い)確かに川に見えますよね。
左から右の方へ流れてる感じかな。
(日野)ただねこのバラバラの4つの石が何を意味するかだよな…。
まあ奥にある主石は川の向こう岸だと思うけどね…。
(泰乃)川の途中にある石とかじゃないんですか?だとしたら石の周りで流れが変わるはずですよね。
あそっか…。
(相馬)石じゃないとすると…。
(早月)水面に浮かぶ落ち葉とか?風丘先生。
こんにちは。
まいど。
和菓子。
タイムリーだった?
(泰乃)いつもありがとうございます。
(宇佐見)じゃあお茶入れますよ。
そうだよ!
(日野)川に落ちた紅葉。
それなら納得だね。
どうしてです?この庭は布施秋霜の別宅だろ?秋の霜と書いて秋霜。
持ち主のペンネームに合わせて秋の風景にしたんだ。
さすが風丘先生。
目のつけどころが鋭いですね。
いや…実は私布施秋霜の大ファン。
この間賞をとった作品なんて子供を思う親の愛にあふれててもう…!やっぱりこう感受性の豊かな人じゃないと枯山水なんて味わう事も出来ないんだろうね。
フフフ…。
どうかした?ハハハ…!なんでもありません。
どうした?この庭何に見える?川じゃないのか?ん?
(警察官)失礼します。
牧本さんという方が書庫で探すものがあるので入れてほしいと言ってるんですが。
先生の特集号に古い原稿の写真を掲載する事が急きょ決まって…。
『落日』は確か…。
あっここ。
鍵まで預けるなんて布施秋霜先生は牧本さんをよほど信頼されているようですね。
担当の編集者なんて言いつかるのは雑用ばかりですよ。
口さがない連中は先生の番犬だなんて言ったりしますが私にしてみればそれも勲章の1つです。
布施さんは作家を辞めてこのお屋敷で何をされるつもりだったんでしょうか。
さあ…。
先生のお気持ちは私には推し量れませんがこんな何もないところでひねもすのたりのたりなんて先生に似合うとは思えません。
それ本当ですか?
(有田)ええ。
先週だったかな。
夜忘れ物を取りに戻ったら布施さんの奥さんが先生を訪ねて来てて…。
(美凪の声)何を考えてるの?ねえ教えて。
もう遅いから帰った方がいい。
あいつが心配するよ。
ねえ壁谷さん。
ひょっとして友卯子の事今も…。
妙な言いがかりはやめるんだ。
(権藤)奥さんはゆうこって言ったんですね?ええ。
防カビ剤?ええ。
遺体が握っていた毛髪の表面からその成分が見つかりました。
防カビ剤自体は市販のありふれたものですけどおそらく誰かが大事に保存していたものじゃないかと。
布施秋霜夫妻には子供がいたの?10年前に5歳で亡くなっていたがな。
京都日報の地方版で見つけました。
名前は布施友卯子。
布施夫妻と舞鶴に旅行に来ていた時の事だ。
その日母親の美凪は体調を崩して旅館で休んでいたため布施秋霜が1人で娘を浜に連れて行った。
ところが秋霜は作品のアイデアを見つけ…。
(布施友卯子)お父さん見て!友卯子!友卯子!!気がついた時には娘の姿はなく…。
(布施)友卯子!!警官や旅館の従業員が総出で行方を捜索した結果…。
(警察官)大丈夫か!しっかりしろ!
(美凪)友卯子!友卯子!!ひょっとしたらこの毛髪と爪は…。
その時亡くなった娘のものの可能性が高いな。
だとしてもどうして被害者の壁谷さんがこれを?その旅行には壁谷多聞も同行していた。
(美凪)友卯子…友卯子!!壁谷多聞と布施秋霜は同郷の幼なじみで事故より前は頻繁に行き来をしてたらしいがその事故をきっかけに疎遠になったそうです。
(権藤)それと布施秋霜と美凪の夫婦仲はかなり冷え切っていたようです。
布施は書斎にこもり執筆に専念し妻とはろくに会話もしていなかった。
(権藤)それだけじゃありません。
事件の1週間前壁谷多聞と布施美凪は10年前に海で亡くなった布施友卯子の事で何かを言い争っていた。
でも事故から10年も経ってるのにどうして…。
(携帯電話)失礼。
はい土門だ。
何?…わかった。
引き続き裏を取ってくれ。
何かわかったんですか?事件の夜9時過ぎ布施美凪によく似た女が別宅の前でタクシーを拾った。
行き先は布施のマンションだ。
「ゆうべは別宅には行ってません。
本当です」間違いありません。
ゆうべ乗せたのはあの女性です。
(権藤)ご苦労様です。
これで決まりですね。
まだ決定的な証拠がない。
家宅捜索だ。
(布施)家内は何もしていません。
私がやったんです。
あいにくですが布施さんのアリバイは証明されています。
(相馬)何も出ませんねえ。
(布施)だとしても全て私のせいなんです。
この方…。
壁谷さんですか?ええ。
幼なじみだと伺っています。
(布施)本当なら生涯の友と呼ぶべきだった。
えっ?あいつとは幼い頃から同じ野山を走り同じ四季を過ごし同じ景色を見て育ったんですから。
確か奥さんの美凪さんも徳島出身でしたよね?どちらで知り合われたんですか?美凪は二十歳の頃に作庭家を目指していて壁谷の弟子をしていました。
そこで私と出会って…。
(泰乃)出ました!このゴミ箱の中に捨ててありました。
血痕です。
見つかった血痕のDNAは被害者のものと一致しました。
それと微量ですが現場と同じ白砂も検出されました。
おそらくストッキングのまま庭に降りて血痕の付いた砂を踏んだんでしょう。
布施美凪で決まりですね。
若い頃作庭家を志していたのなら砂紋を描き直す事は簡単に出来ますよ。
だけど妙だと思わない?足跡を消すためだけならあんなふうにきれいに模様を描き直さなくてもいいはず。
(相馬)箒で適当に蹴散らせば済むわけだし。
犯行後すぐにでも立ち去りたいはずなのになんだってわざわざそんなまねを…。
逮捕状の請求もう少し待ってもらえない?砂紋が描き直される前被害者の血液はこんなふうに流れていたとすれば…。
マリコ君大変だ。
刑事部長と例の芝管理官がお呼びだ。
(佐久間誠)北白川の作庭家の事件家宅捜索の鑑定結果まだ出してないそうじゃないか。
それは色々取り込んでおりまして…。
逮捕状請求のためにもさっさと出しなさい。
お言葉ですが仮に布施美凪が犯人だとしてもまだ明らかになっていない事が多すぎます。
そういう事なら…。
(芝美紀江)前にも言ったはずです。
無用な回り道は事件の解決を遅らせると。
無用な回り道なんかじゃありません。
私は納得がいくまで鑑定したいだけです。
科捜研に依頼される鑑定は一日何件です?事故も含めればおよそ30件ほどでしょうか。
1つの事件にこだわるあまり他の事件を蔑ろにすれば大事な事を見落とす可能性だってあり得るんじゃない?だとしたら効率を優先すべきだわ。
効率の事はわかりませんが科学に近道はありません。
目の前にある疑問を1つずつ明らかにし事実を積み重ねる。
それが真実にたどり着くための唯一の道であり私たち科捜研に課せられた責務なのですから。
(ため息)1日だけ猶予を与えます。
明日までに鑑定結果を出すように。
枯山水を元に戻す?そう。
犯行が行われた時のあの庭の白砂の状態が本当はどうだったかを明らかにしたいの。
これを見て。
布施美凪さんのストッキングの足の裏。
(日野)被害者の血痕が付いてたやつね。
もし仮に犯行の前に庭の砂にこれと同じ模様が描かれていたとすれば…。
それを踏んだ美凪さんの足の裏に付いた血痕は…。
川を表す流れ紋と同じように…。
平行な直線を描くはず。
(宇佐見)違いますね。
直線じゃなくて弧を描いてるし。
流れ紋を踏んだだけじゃこんな跡はつきません。
どういう事だい?犯行の前の庭には違う砂紋が描かれていた可能性があるという事です。
まさか模様再現しようって言うんですか?あの夜あの庭で何が起きたかを知るにはそれ以外にないでしょ。
方法も考えたわ。
亡くなった壁谷さんはこの流れ紋の他にも5パターンの砂紋を用意していた。
被害者から流れ出た血液の範囲も特定出来てるわ。
(宇佐見)ひょっとして5パターンの砂紋を実際に作ってそこに血液を流して流れ紋に描きなおしてみる。
その結果を犯行現場に残った血痕の分布と比べればもともとの砂紋を類推する事も可能でしょ?
(日野)ちょっと待って。
枯山水を作るっていうの?鑑定の期日は明日までなんだよ。
(相馬)なんか面白くなってきた。
こういうの燃えますね。
私現場と同じ白砂がどこで手に入るか調べます。
じゃあ僕は血液と同じ粘性のものを作らないと。
俺はじゃあ主石と同じ形のもの作りますね。
所長はこれと同じレーキの作成お願いします。
僕が作るの…?
(日野)まずはうねり紋からか…。
所長!最初の曲線もっと緩やかに。
(宇佐見)出来ました!凝固のスピードも血液そっくりです。
(宇佐見)じゃあ始めます。
風丘先生の検案書によると出血量はおよそ1.8リットルです。
所長お願いします。
なんだってこれも僕がやらなきゃ…。
いやいや筆跡鑑定担当ですから適材適所ですよ。
所長。
撮ります。
(シャッター音)実際の血液の分布と比較して。
(泰乃)はい。
違いますね。
保存して。
はい。
次。
(日野)出来たよ網代紋。
これも違いまーす。
次お願いします。
出来ました最後の紋です。
もうちょっとまっすぐまっすぐ。
まっすぐまっすぐ…はいはい。
ああ…マリコさんこれ。
これが本当の枯山水だったのね。
中へどうぞ。
(美凪)あなた…牧本さんも…一体何があったの?私にもわからないんだよ。
お呼び立てしてすみません。
(牧本)何か新しい事実でもわかったんですか?この家の中庭に枯山水を作るように依頼された壁谷多聞さんにはある計画がありました。
その計画とは…依頼主の布施秋霜さんと奥さんに見せたこの完成予想図とはまるで違う庭を作る事。
(美凪)やめて!やはりあなたは…壁谷さんが完成させた庭を見たんですね。
そろそろ本当の事を話しては頂けませんか?壁谷さんが…その予想図どおりに庭を作ろうとしてない事は私も薄々感づいてました。
だから…。
ひょっとして友卯子の事今も?妙な言いがかりはやめるんだ。
その日は何も聞けずじまいで…もう一度庭が出来上がる前の日の夜ここを訪ねたんです。
(美凪の声)壁谷さんが亡くなってる事は驚きでしたがそれ以上に私には目の前の光景自体がショックでした。
(美凪の声)だからもう無我夢中で…。
やはりあなたは砂紋をもとに戻したのではなく全く別な模様に描きなおした。
偽の完成予想図と同じように。
そのおかげで現場には流れ紋の庭が残り誰もが壁谷さんは最初からあのような川の水面に落ち葉が舞う風景を見立てた枯山水を作ろうとしたのだと思い込んだ。
ですが壁谷さんが本当に作ろうとしたのはまるで違う風景だったんです。
なんの風景に見える?海か…。
いやもうやめて!美凪しっかりしなさい。
さあ。
あの夜この庭を目にした時あなたはこれが壁谷さんの復讐だと思ってしまった。
なるほど。
この庭を見るたびに海で亡くした娘さんの事を思い出せそう突きつけるような庭だと奥さんの目には映ったわけか。
(牧本)待ってください!でもどうして先生夫妻の娘さんの事で壁谷さんが復讐だなんて…。
これは10年前に亡くなった友卯子さんのものですね?爪から採取したDNAを亡くなった壁谷さんのものと照合した結果ある事実がわかりました。
友卯子さんは壁谷さんと美凪さんの間に出来た子供だと。
あなたを裏切るつもりなんかなかったの…。
あれは…ただ一度の過ちだったのに…。
そして…。
壁谷さんもその事実を知っていた。
だからこそ友卯子さんが事故で亡くなった時壁谷さんは絶望するしかなかった。
とは言え…真実を明らかにする事も出来ず壁谷さんはあの事故以来この10年布施さんや美凪さんと距離を置くようになった。
ところが10年経って突然布施さんが壁谷さんに枯山水を作る事を依頼した。
そして出来た庭は…。
(美凪)壁谷さん…どうしてこんなまねを?だってここは夫と私でこれからずっと過ごす家なのに。
その庭にこんな海を…。
(美凪の声)忌まわしい友卯子が死んだ海を作るなんて。
あなたはあの海を旦那さんの布施さんに見せる事だけは避けなくてはと思い波や渦巻きを表す砂紋を消して川に見えるように描きなおした。
あなたがここに来た時被害者がすでに亡くなっていたのならどうしてすぐに通報しなかったんです?
(美凪)警察に通報すれば私がここに来た理由も砂紋を描きなおした動機も説明しなきゃいけなくなる。
それだけは…それだけはどうしても…。
刑事さん…でしたら一体誰が壁谷を…。
刑事さん…でしたら一体誰が壁谷を…。
牧本さんこの庭を見るのは初めてですか?
(牧本)えっ?ああ…もちろん今日が初めてです。
完成予想図はご覧に?ええ見ました。
ですから私もてっきり川を描いた枯山水だとばかり思っていて…。
だったらこの前お会いした時どうしてあんな事を…。
こんな何もないところでひねもすのたりのたりなんて先生に似合うとは思えません。
「ひねもすのたりのたり」というのは有名な俳句の一説です。
最初の句は「春の海」。
海もないようなこんな場所で蟄居する布施先生を指すには違和感があります。
この別宅に海があるという事を知ってたからこそついそんな言葉を選んでしまったのでは?この枯山水が海に見えたのは事件があった日の夜。
しかも美凪さんが砂紋を描きなおすより前つまり犯行が行われた前後だけです。
その時にあなたはこの中庭にいたのではありませんか?いやそんな。
ただの言葉の使い間違いですよ。
そんな揚げ足取られても困ります。
だったらこれはどう説明されるつもりですか?多量の紙をめくる時に指先に塗るクリームですよね。
出版者の同僚の方に確認を取りました。
あなたはこれと同じものを常に持ち歩いていると。
この前あなたが使っていたのも目撃しています。
担当の編集者なんて言いつかるのは雑用ばかりですよ。
事件当夜あなたから頂いた名刺です。
こうにち出版の牧本と申します。
この名刺にも同じクリームが付着していました。
成分を分析した結果被害者の手首に付着していたものと一致しました。
被害者の手首に残った圧迫痕とあなたの手や指の形が一致すれば動かぬ証拠になります。
さあ…。
では署で詳しい話を。
布施先生の突然の断筆宣言には何か裏がある。
その原因は壁谷さんかもしれない。
そう思い立って…あの夜壁谷さんが1人別宅にいると聞き…。
海…。
(牧本の声)布施先生と奥さんにとって海がどんな意味を持つのか私だって痛いほどわかりました。
だから…。
(牧本)まさかこれで先生を脅そうとでも言うんですか。
なんだいきなり現れて。
あんたが布施先生を脅すから先生は筆を折るなんて言い出したんだ!
(壁谷)やめろこの庭は…!頼むお願いだから先生をもうこれ以上苦しめないでくれ。
わけのわからん事を言うな!とっとと出てけ!この野郎!やれろ危ないこの中には…。
うりゃー!
(牧本の声)殺すつもりなんてなかったんです。
本当です。
家に戻りどうしようか迷ってるうちに有田さんから電話がかかってきて…。
(権藤)それで一緒に別宅に行く約束をしたんだな。
遺体を最初に発見したフリをして近づけば自分の足跡もごまかせる。
そう思い別宅に戻ったら…。
足跡は消されそれどころか…。
枯山水自体がまるで別の風景に変わっていてもう何がなんだかわかんなくなって…。
無理を言ってすみません。
ですがこの庭の本当の意味をわかって頂きたくて…。
本当の意味?
(布施)美凪君は誤解をしてる。
私は知っていた。
友卯子が私の本当の子供ではないという事を。
(美凪)どうして?あの事故のあと四十九日が過ぎた頃に壁谷が私に告白をしたんだ。
君と壁谷の関係も全て…。
それでも私は壁谷を責める事は出来なかった。
君の心が私から離れたのは創作にかまけて君の事をないがしろにし続けた私のせいだと思い知らされたからだ。
すまなかった。
友卯子を…死なせてしまって。
(布施の声)そして最後はお互いを許しあうしかなかった。
そんな…。
私はその場で筆を折ると壁谷に伝えた。
ところが壁谷はそれを止めた。
お前は書き続けてくれ。
お前のためでも俺のためでも美凪のためでもなく俺たち3人にとって何よりも大切だった友卯子のために。
(布施)それから10年私はひたすら執筆に専念をした。
納得がいく作品が書けたら筆を折る覚悟で。
壁谷さんが布施さんの事を恨んでいたというあなたの思いは間違っていたんです。
でもだったらなぜこんな庭を?この海はただの海じゃありません。
えっ?書斎にあった写真を見て気づきました。
この庭は布施さんと壁谷さんそして美凪さんが生まれ育った町から見える…。
鳴門の海だったんです。
壁谷さんがあの主石の形にこだわったのは淡路島に見える石でなくてはならなかったから。
(有田)だからあんなに探し回って…。
あれが渦潮って事か。
海だとすれば周りの石の意味も変わってきます。
えっ?砕ける波頭…それが真っ白い兎だ。
卯の友達と書いて友卯子。
その名前を込めた庭…。
石が4つなのも意味があるんですよね?1つは友卯子で他の3つは美凪と私。
そして壁谷。
友卯子が1人で寂しくないようにそう願って…。
この庭は友卯子さんを悼むための海だった。
だから友卯子さんの遺髪と爪を壁谷さんに託したんですね。
ええ…半分はあいつが持ち帰りあとの半分は主石の下に埋めるよう約束をしました。
あの日おそらく壁谷さんは…。
一度も娘と呼ぶ事の出来なかった友卯子さんのために全身全霊を込めてこの庭に波を描いた。
壁谷さんは決して誰かを呪ったり復讐しようなどとは思っていませんでした。
その事だけは決して忘れないで頂けますか。
はい…。
美凪…。
(美凪の泣き声)あなたにはまた助けられたわ。
危うく誤認逮捕をするところだった。
いえ…こちらこそ無理を聞いて頂き本当にありがとうございました。
今後は芝管理官の意にそむく事のないよう精一杯…。
そんなおためごかしは結構よ。
えっ?私は誰かを味方につけたり仲間を作るためにここに来たわけじゃないんだから。
あの女管理官を見てると最初に会った頃のお前を思い出す時がある。
えっどうして?自分の信念を貫くためには周囲とぶつかろうが自分が傷つこうがお構いなしに突き進もうとしてたよな。
その節はご迷惑をおかけしました。
だがな問題はこの組織の中ではその信念が通る場合と通らない時があるって事だ。
案外あの女管理官も枯山水がただの岩と砂にしか見えないタイプかもな。
ハハハハ…。
ちょっと随分じゃない。
2016/01/15(金) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
[新]科捜研の女12[再][字]
『枯山水殺人!作られた密室、描き直した紋様の秘密…』
【出演】沢口靖子、内藤剛志、若村麻由美、田中健ほか
詳細情報
◇番組内容
沢口靖子演じる京都府警科学捜査研究所研究員の榊マリコが、事件現場に残された微細証拠を手がかりに、事件の真相を究明する科学捜査ミステリー。
◇出演者
沢口靖子、内藤剛志、若村麻由美、風間トオル、戸田菜穂、斉藤暁、高橋正臣、奥田恵梨華、長田成哉、田中健
【ゲスト】
長谷川初範、伊藤洋三郎
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
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