昔ある山奥の村のはずれにじいさまとばあさまが住んでおりました。
ある日じいさまが…。
突然亡くなりました。
1人残されたばあさまはさみしゅうて悲しゅうて仏壇の前で毎日まいにち朝から晩まで手を合わせておりました。
オラじいさまがおらんとさみしゅうてたまらん。
はよお迎えにきておくれ。
すまんのうばあさま。
仏様のお許しが出るまで待っていておくれ。
そんなある日のこと。
見るからにみすぼらしい坊さんが1人ふらりとやってきました。
わしは旅の僧じゃが道に迷うてしもうた。
ひと晩泊めさせてはくれまいか。
ばあさまは坊さんにお経をあげてもらおうと家に招き入れ夕食にごちそうを作ってもてなしました。
お〜よっぽど腹減らしてるようじゃのう。
4日前から食っとらん。
いっぱいあるでの。
食うていいぞ。
すまんのばあさま。
おかげで生き延びたぞ。
食うたらお経あげてくれる約束忘れんでくれや。
えっお経?ああ〜そうじゃそうじゃったのうウフフフ。
こんなにごちそうになってしもうて早速お経あげたいところじゃがふあ〜なんやらどっと疲れが。
あっお坊様!お経は明朝…必ず…。
(いびき)実はこの坊さんお経など何にも知らないニセの坊さんでした。
お目覚めかい?お坊様。
ばばあさまお世話になりましたわしはこれで。
朝飯の前にお経おねげえしますよ。
お経!?さぁ困ったのはニセの坊さん。
もう逃げるわけにはいきません。
仏壇の前に座ったお坊さん。
どんなに頑張ってもお経など出てこない。
う〜ムニャムニャムニャ…。
まだかの?ありがたいお経はよあげてくだされ。
い今あげる今あげるところだ。
邪魔するなうっう〜ん。
すると1匹のねずみがちょろちょろと跳び出しました。
おっおっおんちょろちょろおんちょろちょろ出てこられ候。
おんちょろちょろおんちょろちょろ出てこられ候。
チュ−。
おんちょろちょろ穴のぞき候。
おんちょろちょろ穴のぞき候。
チューチューチュー。
おんちょろちょろおんちょろちょろ何やらささやき申され候。
おんちょろちょろおんちょろちょろ何やらささやき申され候。
おんちょろちょろおんちょろちょろ出ていかれ候。
おんちょろちょろおんちょろちょろ出ていかれ候。
オッホンこれにてお経はおしまいでござる。
はぁ立派なお経をいただきましてありがとうございました。
ホッ何とか切り抜けた。
何も知らないばあさまはこのニセ坊さんを贅沢な朝食でもてなしお弁当まで持たせました。
ばあさますっかりお世話になりもうしたな。
ではお達者で。
お坊様あのお経は何というお経ですかの?えっ!?あれはの都のおんちょろ寺に古くから伝わるおんちょろ経でねずみ経とも言うてなあ〜りがたいお経じゃ。
はいねずみ経ありがたくあげさせていただきます。
はあ?その日からばあさまは朝と晩欠かさずおんちょろちょろおんちょろちょろとお経をあげ続けた。
おんちょろちょろおんちょろちょろおんちょろちょろ出てこられ候。
おんちょろちょろ穴のぞき候。
ばあさまよかったのう。
楽しいお経嬉しいぞ。
じいさまもそう思うかの?ほんに何やら嬉しいお経じゃ。
おんちょろちょろおんちょろちょろおんちょろちょろ…。
そんなある晩のことばあさまの家に盗っ人が忍び込みました。
おんちょろちょろおんちょろちょろおんちょろちょろ出てこられ候。
出てこられ…オラのことか?おんちょろちょろ穴のぞき候。
オラが穴のぞいたことまで知っとる。
おんちょろちょろ何やらささやき申され候。
うっ…。
おんちょろちょろおんちょろちょろ出ていかれ候。
ヒェ〜!こんな家に入ろうもんならこっちの命が危ねえ。
盗っ人は大慌てで逃げていきました。
はい終わりましたよじいさま。
ハハたいしたお経じゃわい。
はあ?盗っ人がねずみのようにおんちょろちょろと逃げていきよったぞ。
盗っ人?あらまちっとも知らんかったわいウフフフ。
チュチュチュ〜。
昔むかし鹿島の手賀の里に権太夫池という池がありそこから小高い丘を1つ越えた山田の里になぶつが池という池があった。
里の人はこれらの池に近づかないようにして暮らしてきた。
ある日のことなぶつが池のほとりを旅人が通りかかった。
(トンビの鳴き声)静かでええところじゃな。
もし旅のお方。
ほっそりとした美しい女が現れた。
わわわしに何か用でもあるのか?はい手賀を通るのなら権太夫池で待つ男の人にこの手紙を渡してください。
わわしは手賀は通らんが。
どうかお願い申します。
なんか通ってもいいかな。
よかったお願い申します。
鈴を振るような美しい声と手紙を手渡すときの女の息遣いが楽しい音楽でも聴いているように旅人の耳にまとわりついた。
ついつい手賀へと足を速めてしまうのだった。
旅人が手賀の権太夫池に着くと池のほとりに若い男が人待ち顔で立っていた。
もし誰かの便りでも待っているのかい?そうです持ってきてくれましたか?いいね恋文かい?あいよ。
ありがとう。
うわ〜あ〜!そうしたある日なぶつが池のほとりにまた旅人がやってきた。
もし旅のお方。
ははい。
この手紙を…。
旅人は女の魔力に負けて権太夫池のほとりに立つ男に手紙を届けた。
いい女だねお前のかみさんかい?そうともよアハハハハ。
グワ〜!ひゃ〜助けて!手賀の里の権太夫池には人間を喰うオスの大蛇がすんでいた。
山田の里のなぶつが池にはメスの大ウナギがいた。
この2匹は夫婦でいつの頃からか2つの池にすみついていた。
2つの池は底が通じていて2匹は常に底を行き来していた。
権太夫池に行った者が誰も帰ってこないんじゃ。
おめえのところもか。
こっちのなぶつが池を通った旅人もみんな戻ってこんのじゃ。
なんとも恐ろしい話じゃのう。
この2つの里では池にいる大蛇や大ウナギのことが噂になり決して近づこうとはしなかった。
弱い人間どもは喰い飽きた。
そうですか。
そこらの輩ではなく徳を積んだやつを喰えばもっと俺の力を強くすることができる。
お前さんも頼もしいねぇフフフ。
ある日神社の参拝から帰る途中の旅人がなぶつが池にさしかかった。
もし旅のお方。
はぁ〜。
ヒーッヒッヒッヒッ…。
旅人は夢でも見ているような足取りで手紙を届けにいった。
そのとき白髪の老人が目の前に現れた。
そこのお人。
はあ?あなたのお顔には死相があらわれていますぞ。
ここへ来る途中に何かなかったかな?はぁ手紙を女の人から預かりました。
その手紙を読んでみなされ。
「やっと見つかりました。
信心深いこの男をどうぞ召し上がってください。
なぶつが池の妻より」。
ななんてことだ。
手紙を預かっているのか。
ははい。
そうかそりゃあ嬉しいことだ。
ううぅ…。
お前を喰えばこれで千年の力を得ることができる。
ガァ!あぁ〜!うおぉ〜!ぎゃ〜!あ…。
愚か者め!うぎゃ〜!旅人はあまりの恐ろしさに身動きできなくなっていた。
ひと晩中大風が吹いた。
そうして翌朝権太夫池には大蛇と大ウナギが浮いていたという。
こうして人々を困らせていた大蛇と大ウナギは神様の罰を受け里には平穏な日々が戻った。
しかし2つの池にはその後も近づく人はなかったということだ。
昔遠く箱根山を望む地にたくさんの田んぼが広がる豊かな村があった。
実りの秋の稲刈りが終わり村は幸せな笑い声に包まれた。
(村人の笑い声)田んぼに雪が積もっては溶けてやがて春になり再び村に田植えの季節が訪れた。
(太平)お〜いたみよ。
種もみから芽が出とるぞ。
(たみ)それはよかったですね。
元気な苗に育ってくれよ。
たみ何しとる!さっさと洗濯に行かんか。
はいお母様。
太平ちょっと来い。
はい。
この村に太平という若者とその母親そして嫁のたみが暮らす家があった。
お前は嫁に甘すぎるんじゃ。
もっと厳しくせんかい。
やあたみさん精が出るのう。
あおはようございます。
いつまで洗ってるんだよたみ!針仕事が遅れるぞ。
はい。
いよいよ田植えが始まるという日の朝。
今日の分はこれくらいでいいかな。
よっこい…あっ。
あ!?あなたしっかり。
お母様!お母様!お前が太平に無理ばかりさせるからじゃ。
太平はもともと体が弱いんじゃ。
はい。
ゆっくりと休ませてやればいい。
それより今日の田植えじゃ。
お前一人でやれ。
いいなたみ。
はい。
わかったらすぐに行かんか!はい。
たたみ…。
この村には1枚の田んぼの田植えをその日のうちに終わらせないとその田んぼにはもう稲穂がつかないという言い伝えがあった。
なのでどの家でも家族総出で朝早くから田植えに励んだ。
しかしたみはたった一人で田植えを始めた。
たみさんよお昼はとらんのか?えぇあとで。
《お昼を食べてる時間はないわ》たみさん悪いがお先に。
あと少しじゃ頑張りなされ。
ありがとうございます。
フゥ…終わったわ。
お母様今日の田植えは終わりました。
1反だけですけど。
植え残したりはしなかったろうね。
はい。
ならば早く飯の支度をしろ。
病人も腹を空かせてるぞ。
次の日もたみは一人で田植えをした。
すまんのう。
大丈夫です今日も1枚は終わらせましたから。
たみ風呂がぬるいぞ!はいすぐに。
隣も向かいの家ももう田植えが終わったっていうじゃないか。
田植え上手と評判のお前がなんてザマだ。
明日は残りの田んぼ全部片づけるんだ。
わかったなたみ!はいお母様。
ハァ…。
また次の朝が来ました。
《なんとしても今日中に田植えを終わらせなくては》ハァ…ハァ…。
残り3枚のうちようやく1枚が終わった。
ハァ…ハァ…。
日が暮れぬうちに終わらせるんじゃ。
すまないなたみ田植えはまだ半分以上残っていた。
しかし日はどんどん西へと傾き始めた。
《ダメもうじき日が沈む。
そうだわお日様に…》南無大日如来様。
どうか私が田植えを終えるまで沈まないでください。
私の命にかえてお願いします。
どうか…どうか…。
お願いです大日如来様。
あっ。
ありがとうございます。
終わった。
太平こんな夜中にどこへ行く。
たみが心配だで。
おおかたどこぞで寝とるわい。
たみ!たみよ!ああぁ…。
た…たみ!あぁ〜!たみは自分の命と引きかえに田植えを終わらせた。
この年太平の田んぼはいつになく豊作だった。
しかし翌年からはこの田に二度と実りの穂がつくことはなくやがて荒れ果てた。
この田んぼを人々は嫁の田んぼ嫁田と呼ぶようになったという。
2016/01/17(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字]
「ねずみ経」
「権太夫池の大蛇」
「嫁田(よめだ)のはなし」
の3本です。みんな見てね!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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