ここは神奈川県大磯町の海岸。
浜辺に集まった大勢の人たち。
皆さんのお目当ては…波間を飛ぶこちらの鳥。
ふだんは山奥に暮らす森のハト。
どういうわけか毎年春から秋大群で大磯の海岸にやってくるんです。
でも海には危険がいっぱい。
数メートルの大波が次々と襲いかかります。
波にのまれ命を落としてしまうことも。
さらに天敵のハヤブサがアオバトを待ち受けます。
あっ危ない!危険がいっぱいの海にどうして森のハトがやってくるんでしょう。
まさに命がけ。
アオバトの謎の行動に迫ります。
(テーマ音楽)深い緑に覆われた森。
ふだんアオバトはこうした山の奥に暮らしています。
なんだか奇妙な音が聞こえてきました。
実はこれアオバトの鳴き声。
声を頼りに探してみると…。
いました。
アオバトです。
「オアオ〜オアオ〜」。
一説によるとこの「アオアオ」という鳴き声から「アオバト」と呼ばれるようになったんだそうです。
全長は30センチほど。
公園にいるハトと同じくらいの大きさです。
夏北海道から九州の森で子育てをします。
夏の間アオバトの主食はサクラやミズキなど森に実る果実です。
鮮やかな緑色の体。
じっとしていると葉っぱに紛れて目立ちません。
これは身を守るための保護色です。
アオバトはまさに「森のハト」なんです。
そんなアオバトが海岸で見られる場所があります。
それが神奈川県の大磯町です。
太平洋に面した…この磯に春から秋たくさんのアオバトが集まってくるんです。
早速やってきました。
それにしてもすごい数。
多い時には500羽を超える大群で飛んでくることもあります。
大磯は日本一と言われるほどたくさんのアオバトが集まる場所なんです。
調査によるとアオバトは大磯から20キロ以上離れた丹沢山地から来ることがわかっています。
さらにもっと遠い東京の奥多摩などから来ている可能性もあるんだそうです。
あっ磯に降りました。
よく見ると翼の色が違うのがわかりますか?赤紫色をしているのがオス。
一方こちら黄緑色なのがメスです。
それにしても森のハトが一体何のために磯にやってきたんでしょう?あっ水を飲み始めました。
実はアオバトの目的は海の水を飲むことなんです。
森のハトがわざわざ海水を飲みに来る理由。
それにはアオバトの食べ物が関係しています。
この時期アオバトが食べるのは森の果実でしたよね。
果実には糖分や水分は豊富なんですがある大事な栄養素がほとんど含まれていません。
それがナトリウムいわゆる塩分です。
ナトリウムは私たち人間をはじめ動物が生きていくためには欠かせない大切なもの。
栄養の吸収や神経情報の伝達さらには体内の水分を調節するのに必要なんです。
でも果実だけだと不足してしまいます。
そこでアオバトははるばる海にやってきて海水を飲むことで塩分を補っていると考えられているんです。
喉をゴクゴク動かして豪快に海水を飲むアオバト。
実はこれハトならではの飲み方なんですよ。
普通鳥が水を飲む時にはまずクチバシで水をすくうようにして含みます。
そして含んだ水を上を向いて喉に流し込むんです。
一方アオバトはクチバシを水につけたまま吸い込むことができます。
これなら一度にたくさん飲めるので効率的です。
でも夢中になりすぎると…。
おっと危ない!太平洋に面したこの磯には頻繁に大きな波が押し寄せるんです。
それでも必死に磯に降りようとするアオバト。
磯の上を何度も旋回し降りるタイミングを計ります。
波が引いた隙になんとか着地。
しかしまた大きな波。
一斉に逃げ出しますが何羽かは波にのまれてしまいました。
こうして命を落とすこともあるんです。
生きるのに欠かせない塩分。
しかし海水を飲むことはアオバトにとってまさに命がけなんです。
ちょっと待った!やっぱり来ましたかヒゲじい。
はい。
海水が必要なのはわかりますけどなにもこんな危険な磯で飲むことはないんじゃないですかね?もっと波が穏やかな砂浜なんかで飲めばいいんじゃないですか?確かに。
でも磯は海水を飲むのにすごく便利な場所なんですよ。
どうして?見て下さい。
アオバトが飲んでいるのは磯のくぼみにたまった海水ですよね。
あ〜はいはい。
波などの影響で磯の岩にはこうしたくぼみが出来ます。
ここにたまった海水なら飲みやすいでしょ?一方砂浜だと水がたまらないので飲みづらいんですよ。
あそういうことか。
でも磯なんてほかにもいっぱいありますよね。
なんで大磯にだけこんなにたくさん集まるんですかねえ?それは大磯がちょうどいい場所にあるからなんです。
ちょうどいいってどういうこと?アオバトは森のハト。
移動の時天敵の目を避けるために森の上すれすれを飛ぶ習性があります。
お〜はいはいはい。
でもアオバトが暮らす山奥から海まで森伝いで来られるルートは限られているんです。
えっそうなの?はい。
空から見るとほら丹沢や奥多摩から大磯まで森がずっと続いていますよね。
あホントだ。
つながってますね。
これなら森伝いで移動できます。
さらに大磯は丹沢や奥多摩からの最短距離にある磯です。
アオバトにとってこんなに条件のいい場所はほかにないんですよ。
なるほど。
アオバトにとって大磯の海岸はかけがえのない大切な場所というわけか。
アオバトさん山奥から大磯に通うのはオオイソガシだけどがんばってね!第2章では天敵のハヤブサがアオバトに襲いかかります。
しかしアオバトにはとっておきの秘策が!ハヤブサの攻撃を避ける驚きのワザに迫ります。
日本一とも言われるほど多くのアオバトが集まる神奈川県の大磯町。
町にはアオバトをモチーフにしたキャラクターまでいます。
こちらは翼に赤い模様がある男の子。
そしてこちらはいそべぇのガールフレンドあおみちゃんです。
かわいいですね!2人がアオバト大好きな仲間を紹介してくれました。
アオバトを中心に野鳥の調査・観察をする市民グループ「こまたん」の皆さんです。
アオバトの調査歴は30年以上。
調査で得られた知識を観察会などを通して町の人に伝えています。
ある日のこと。
波にのまれた1羽のアオバトが浜に打ち上げられたんです。
メンバーの1人が様子を見に行きました。
保護して健康状態を確認します。
こうして大きなケガをしたアオバトを見つけた時は野生動物の保護施設などに届けることにしています。
アオバトは地元の人々に本当に愛されているんですね。
東京奥多摩の森です。
山奥に暮らすアオバト。
その子育てはほとんど撮影されたことがありません。
幸運にも私たちはこの森で子育ての撮影に成功しました。
小枝を集めた巣の中に親鳥がいます。
赤紫色の翼オスです。
あっヒナがいますよ。
まだ生まれて数日ほど。
2羽いますね。
普通アオバトは一度に2個の卵を産むんだそうです。
オスがヒナに食べ物を与えています。
与えているのは「ピジョンミルク」というヒナ専用の食べ物。
ミルクといっても哺乳類のお乳とは全く別のもの。
ピジョンミルクはヒナが生まれるころに喉の袋の中で作られます。
親鳥はそれを吐き戻してヒナに与えるんです。
こちらが実際のピジョンミルク。
軟らかいチーズのようなものなんだそうです。
ピジョンミルクにはタンパク質や脂肪のほかちゃんとナトリウムも含まれています。
哺乳類のミルクに負けないほど栄養価の高い食べ物なんです。
ピジョンミルクはオスもメスも作ることができます。
あっメスが帰ってきました。
ミルクが作れるおかげでアオバトはエサ運びに追われることがありません。
親が付きっきりで世話をしヒナを大事に育てていきます。
このころ大磯に集まるほとんどのアオバトは子育て中の親鳥たち。
ヒナに与えるミルクの分もしっかり海水を飲まなければなりません。
おやどうしたんでしょう?ずいぶん慌てた様子で飛び回っています。
現れたのはハヤブサ。
海岸に来るアオバトを狙う天敵です。
アオバトは群れになって逃げ始めました。
小回りの利かないハヤブサの攻撃を避けるため右へ左へ蛇行します。
追うハヤブサ。
最高速度は時速100キロを超えます。
ハヤブサが群れに近づきました。
するとアオバトの群れが一斉にばらけました。
目移りさせてハヤブサに的を絞らせない作戦です。
なんとか逃げきったアオバト。
しかしここは一路退散。
急いで近くの森に逃げ込みました。
開けた海岸はハヤブサの狩り場。
アオバトは常に狙われているんです。
それでもヒナのために海水を飲まなければなりません。
再び海に向かいました。
しかし森を一歩出ると緑色の体はとても目立ってしまいます。
待ち構えていたハヤブサが攻撃開始。
身を翻してかわします。
こちらも。
間一髪よけました。
ハヤブサはしつこく攻撃を続けます。
今度は直撃。
羽が飛び散りました!あ〜!とうとうやられちゃいましたね。
ヒゲじい安心して下さい。
羽が抜けてもちゃんと飛んでいますよ。
え?あっホントだ。
でもこんなに羽が抜けちゃって大丈夫なんですか?はい。
アオバトはもともと体の羽が抜けやすいんです。
実はこうして羽が散るのもアオバトの防御手段の一つなんですよ。
はあ?どどういうこと?例えばハヤブサが鋭い爪でアオバトをつかんだとします。
あ〜はいはい。
でもアオバトの羽はとても抜けやすいのでがっちりと体をつかまれていなければこんなふうに羽だけを残してスルッと逃げることができるんです。
羽を犠牲にしてでも生き残る捨て身の防御なんです。
へえ〜そうなんだ!はい。
捨て身のワザを使ってでもアオバトは生きるためそしてヒナのために海水を飲みに行くんです。
いや〜アオバトすごいですなぁ。
こんな羽のトリックまで使ってハヤブサから逃げるとはハトだけにこれぞホントのハットトリック…なんてね。
再びアオバトが子育てをしている東京奥多摩の森です。
ヒナが生まれてから10日ほど。
ヒナの体には少しずつ羽が生え始めています。
このころになると親鳥はミルクに果実を混ぜてヒナに与えるといいます。
徐々に果実にも慣らしていくんです。
それから4日。
ヒナは急激に成長。
体の大きさは親鳥の半分くらいになりました。
羽もすっかり生えそろいました。
もう羽ばたく練習までしています。
アオバトのヒナは成長がとっても速いんです。
それもこれも栄養満点のピジョンミルクのおかげ。
ヒナは間もなく巣立ちしばらく森で暮らしたあとやがて海へと向かいます。
第3章では台風到来。
アオバトに大自然の猛威が襲いかかります。
次々波にのみ込まれるアオバト。
大丈夫なんでしょうか。
突然ですがここで「ダーウィンNEWS」です。
高速でステップを踏んで踊るタップダンス。
最近鳥の世界でも超スゴワザのタップダンサーが見つかったんです。
驚きの発見をしたのは北海道大学の相馬雅代博士。
鳥の行動について研究しています。
こちらがセイキチョウになります。
これがタップダンスを踊るというセイキチョウ。
アフリカの草原に暮らす小鳥です。
頬が赤いのがオス。
止まり木の上でジャンプし始めましたよ。
これがタップダンスだというんですがピョンピョン跳ねてるようにしか見えませんねぇ。
そこで超スロー映像を撮影できるカメラでセイキチョウの動きを見てみると…。
なんと着地の瞬間足を交互に上げステップを踏んでいます。
わずか0.2秒の間に4回も!確かに超高速のタップダンスです。
これはセイキチョウの求愛行動の一つ。
運動能力が高く繁殖相手としてふさわしいことをアピールするための行動なんです。
さらに相馬博士はタップダンスの動きだけではなく踊る時に出る足音にも注目。
セイキチョウは普通の鳥と同じように求愛のためにさえずりますが足音にはさえずりとは違う役割があると考えています。
さえずりは恐らく遠くにいたりする不特定多数の相手に対して発せられていて足音はむしろ自分の近くにいる自分が今求愛をしている相手に対するシグナルとして出てきているのではないかというふうに考えています。
(足音と鳴き声)博士の研究グループでは今後タップダンスの役割をさらに詳しく解明していく予定です。
神奈川県大磯町の海岸。
真夏を迎えました。
いつものようにアオバトが海水を飲みに集まってきました。
その中でちょっと変わったアオバトを見つけました。
クチバシがほんのりピンク色。
羽も少しくすんでいます。
実はこれ今年生まれた若鳥。
巣立ってから1か月ほどたつとこうして海岸にデビューをするんです。
ヨチヨチと危なっかしい歩き方。
岩の上を歩くのはまだ慣れていないようです。
あっ海水を飲みました。
ゴクゴク飲む若鳥。
飲みっぷりはもう一人前です。
あらっ吐き出しちゃいました。
ちょっと飲み過ぎたみたいですね。
これから若鳥たちがどんどん増え磯はさらににぎやかになっていきます。
若鳥たちに最大の試練が訪れました。
(波の音)太平洋上に大型の台風が発生したんです。
台風の影響で海は大荒れ。
数メートルの波が次から次へと磯に押し寄せます。
海水を飲むためタイミングを見計らって磯に降り立ちますが…。
はじき飛ばされてしまいました。
若鳥にとってこんなに大きな波はもちろん初めての経験です。
今度は超巨大な波!10羽以上が海に引きずり込まれました。
なんとか飛び立とうと必死にもがきますが…またのみ込まれてしまいました。
なすすべもなく流されていくアオバト。
そこにハヤブサが現れました。
溺れたアオバトを狙っているんです。
アオバトは頭を沈めてハヤブサの攻撃を避けようとします。
必死に抵抗しますがとうとう捕まってしまいました。
この日若鳥を含め100羽近くのアオバトが波やハヤブサの犠牲になりました。
しかしそんな危険の中でも若鳥は勇敢に波に挑み続けます。
あ〜また波にのまれてしまいました。
今度は飛び立ちました!こちらでも。
波に打たれて羽を落としながらも見事に生還。
渾身の力を振り絞って羽ばたきます。
こうして波の脅威を乗り越えた若鳥だけが無事に大人になることができるんです。
台風の猛威から数日後。
アオバトたちに再び平穏が訪れました。
磯は台風を乗り切った若鳥たちでにぎわっています。
きっと若鳥たちは海の厳しさを学んだに違いありません。
大磯にアオバトが来るのは11月まで。
やがて冬を過ごすために南へ移動していきます。
海水を飲まなければ生きていけないアオバト。
大波にハヤブサ。
あまたの危険をかいくぐり命をつないできました。
アオバトは荒波に挑むことを宿命づけられた森のハトなのです。
2016/01/17(日) 19:30〜20:00
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「命がけ!森のハトが荒波に挑む」[字]
日本の山奥に暮らすアオバト。春から秋、神奈川県の海岸に大集結する。でも海は危険だらけ。巨大な波やハヤブサが次々に襲いかかる。アオバトが命がけで海に来る目的とは?
詳細情報
番組内容
鮮やかな緑色をした鳥、アオバト。日本の山奥にひっそりと暮らす森のハトだ。そんなアオバトが、毎年春から秋、なぜか神奈川県大磯町の海岸に大集結する。でも海は危険だらけ。磯におりたアオバトに、数メートルの大波が次々と襲いかかる。波にのまれて命を落とすものも少なくない。さらにアオバトを狙う天敵のハヤブサ。こんな危険な海に、どうしてやってくるのか?命がけで荒波に挑むアオバト、その謎の行動に迫る。歌:平原綾香
出演者
【語り】和久田麻由子,龍田直樹,豊嶋真千子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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