傘をもたない蟻たちは #02【原作・加藤シゲアキ 全4話】 2016.01.16


(ジュン)
俺は落ち目のSF小説家橋本ジュン
作風に行き詰まった俺に恋愛小説の依頼が来た
しかし書けずに煮詰まりまくったそんなとき…
(男性)ジュンちゃん久しぶり。
突然訪ねてきたのが俺の幼なじみ
(男性)そういえば昔ジュンちゃんのごみがよくなくなるっていう事件あったよね?
そいつの言葉にひらめいて一気に書き上げた小説は…
(館山)これ没ね。
締め切りは迫る
どうする?俺!
「雨降って地固まる」ということわざが嫌いだ
そう。
うまくいかないのが世の常なのだ

(男性)「『恋愛小説』」
(ジュン)うわ…何だよ驚かせんなよ。
またえらくど直球なタイトルだね。

(仮)」って書いてあんだろ?ふ〜ん。
だってオーダーが『ノルウェイの森』みたいな胸きゅんの恋愛小説なんだもんよ。
ん〜まあいつの時代にも恋愛に胸きゅんは大切だよね。
そもそも胸きゅんの恋愛ってどんなんだったかな〜。
ほら例えば夏祭りに花火の下でキスするとか。
べただな〜。
図書室で手の届かないヒロインに脇から現れてすっと本を取ってあげるとか。
いつの時代の少女漫画だよ!エリートドクターが捨て猫を拾って抱っこして頬ずりしてギャップをアピールとか。
そんなのしらふで書けるかよ!じゃあ息抜きに飲もうか。
ん〜うま!あん肝食べると根津爺思い出すな〜。
うん。
元気なの?うん。
元気だよ。
ふ〜ん。
もう漁には出てないけどね。
そっか。
もう年だもんな。
こっち行くって言ったらさよそのは食えたもんじゃないからこれ持ってけ。
ハッ!相変わらず口の減らないじいさんだよな。
うん。
あ〜どうしようかな〜胸きゅん小説。
締め切りまであと5日しかねえし。
ん〜例えば好きな人を書いてみるってのはどう?彼女のこととか。
でも今彼女いねえしな。
じゃあ理想の人を書いてみるとか。
理想の人ねえ…。
《「その瞳は琥珀のように透明だった」》《「首元で切り揃えられた黒髪が揺れるたび細い首にあるホクロが現れ妙に艶かしかった」》うん…。
あ〜…もう!あ〜分かんない!あ〜。
タイプ…理想…心理学…。
あ〜。
すげえ美人なんだ。
俺のどんぴしゃの理想のタイプなんだよ。
(男性)今まで会ったことあんの?それがないんだ。
夢の中が初対面。
(男性)へ〜現実にはいない人なんだ。
うん。
いや〜現実であんな美人と出会えたらな〜。
胸きゅん小説でも何でも書けちゃうよ。
あ〜もう1回会いたいな〜。
でも夢の中の人なんだろ?あっそうだ。
んっ?もう1回寝ればいいんだよ。
そしたらまた夢に出てくるかも。
いや夢の続きってそんな簡単に見られるわけ?物は試しだ。
よし。
昼寝だ昼寝。
邪魔すんなよ?会えた。
あ〜。
あ〜もっと夢の中いられたらな〜。
よし。
もう1回寝るぞ。
会える。
またきっと会える。
会える会える会える会える。
3回も出てきたんだ!まったくおんなじ女の人なんだよ?
(男性)へ〜すごいね。
3回も出てくるなんてこれは何かの啓示かもな。
あっじゃあその彼女のこと書けばいいんじゃない?えっ?ほら見た夢を映画にしてる監督もいるし。
うん。
ジュンちゃんに小説の神様が降りてきたんだよ。
そうかもな。
よし。
じゃああと4日で書き上げる。
ホント?じゃあ楽しみにしてる。
よし…。
んっ?《「その瞳は琥珀のように透明だった」》《「首元で切り揃えられた黒髪が揺れるたび細い首にあるホクロが現れ妙に艶かしかった」》まさか…。
偶然?いやでもな…。
《「その瞳はサファイアのようなブルーでブロンドのロングヘアが揺れるたび細い首にあるホクロが現れ妙に艶かしかった」》やっぱり…。
よ〜し。
《「ゆっくりと振り向いた彼女は首元で揺れる黒髪を耳にかけ琥珀色の瞳を潤ませ微笑を浮かべた」》《「彼女は楽しそうに縄跳びをした」》《「胸元が無防備に揺れ僕は目のやり場に困った」》《「そして手を大きく振り僕の元にまるで子犬のように走ってきた……」》《「やはり胸元が無防備に揺れた」》《「上目使いでみつめ僕の体に細い両腕をまわしてきてギュッと抱きしめてきた」》ハッ…。
《「彼女の柔らかな胸の膨らみを背中に感じた」》あれ?あれ?何で後ろからむぎゅがないわけ?ひょっとして…。
よし。
《「僕の体に細い両腕をまわしてきてギュッと抱きしめてきた。
彼女の柔らかな胸の膨らみを背中に感じた」》すごいんだよ!この1ページ目に書いたとおりの内容が夢の中で起きるんだよ。
(男性)へ〜この内容がねえ…。
書くことで潜在意識に働き掛けたってやつ?いや…は〜。
あのむぎゅ〜はよかったな〜。
次は何させよう?恋愛小説は作家の願望が書かれるって本当なんだね。
うん。
それは否定できないかな。
でもさこれ大丈夫?何が?何か企画物のAVみたい。
うん…。
それに酒飲みながら書いてるだろ?えっ?だって書いたらすぐ寝て確かめたかったからさ。
体に悪いよ。
ちゃんとご飯食べて決まった時間に寝て規則正しい生活しないと。
ほらあら汁作ったし。
ジュンちゃん好物だろ?お前はお母さんか!こっちは締め切りに追われててそんな余裕ないんだよ。
《「僕の目の前にある日突然現れた彼女はユキエと名乗った」》
(ユキエ)私ユキエといいます。
ピヨピヨ。
《「彼女の声は美しくどこか悲しげだった」》《「まるでカナリアのように」》《「ユキエの細い肢体が蛇のように巻きついた瞬間全身に電流が走った」》あっ…。
《「木漏れ日の暖かさを持つ母犬のように僕の身の回りを世話を献身的にしてくれた」》あなたに耳かきする運命だったのね。
《「それも運命だと言って」》ああそうさ。
運命さ。
《「ユキエと手をつないで歩くとき僕は井戸水に触れたヘレン・ケラーのように理解した」》《「洗剤のCMのような何げない日常が僕にとってどれほど尊いことかを」》《「いとおしいユキエに僕は聞いた」》ユキエは何かしたいことはないの?あなたのしたいこと。
えっ…え〜?あなたになら何されてもいいわ。

(男性)ハマグリグリグリグ〜リグリ!グ〜リグリったらグ〜リグリ〜!あっ痛ててて…邪魔すんなよ!あ〜!もういいとこだったのに〜。
ハァ〜。
昨日もおとといもデスクの前に座りっぱなしだったろ?顔色悪いよ。
フッ大丈夫だって。
大好きなユキエちゃんといろんなことやっていろんなことしてもらって楽しくやってるからさ。
もう自分が神様になったような気分だよ。
最高の恋愛小説ができそうだ。
でもさそれって全部ジュンちゃんの都合のいい妄想だろ?えっ?そんな恋愛小説面白いかな?独り善がりじゃないかな?何だよさっきから。
お前は評論家かよ!ごめん。
でも俺はジュンちゃんが本気で書いた恋愛小説が読みたいんだ。
そんなこと言われたって分かんねえよ。
えっ?恋愛なんてさ今まで長く付き合った彼女いねえしろくな思い出ねえよ。
痛くて悲しい思い出ばかりでさ。
そんなの書いたってしょうがないだろ。
悲しいから切ないんじゃないの?痛いから胸きゅんなんじゃないの?もういいよもう説教は。
もう正直今までの現実に疲れちゃってもうどっちが夢でも現実でも俺はいいんだよ。
幸せならそれが嘘でもいい。
だから邪魔すんなよ。
(ユキエ)やだエッチ。
《「僕とユキエはシーツの中で泳ぐように抱き合った」》《「ユキエのサルスベリのような白い肌がいとおしかった」》あ〜!《「僕は荒れた日本海を泳いでいくシラウオのようなユキエの指に指輪をはめた」》結婚しようか。
うん。
《「結婚式の日ユキエは純白のドレスに身を包み天使のように美しい姿で僕を待っていた」》
(男性)ジュンちゃん!ユキエ〜。
(男性)ジュンちゃん!あ〜!
(男性)ジュンちゃん!ジュンちゃん…!ジュンちゃん!ジュンちゃん!あ〜。
うわ…。
ジュンちゃん?ジュンちゃん?しっかりしろよジュンちゃん。
ジュンちゃん?ジュンちゃん?ジュンちゃん?あれ?ごめん。
俺のせいでこんな…。
(館山)書いたことを夢に見る?フッフフフ…。
えっ?何何?何よそれ。
いや…ん〜例えば「女性と同棲した」って書くとホントに同棲する夢見たり。
夢の中で。
あっ夢に見るのは最初の1ページだけなんですけどそれで書いてるうちにどっちが夢か現実か分からなく…。
(館山)いや分かった。
もういいや。
えっ?いやいやいやいや…。
俺も四半世紀?うん。
この仕事やってきて締め切り延ばす作家の言い訳色々聞いたけど斬新だよね〜。
いや嘘くさいけど本当なんです。
俺このままいくとヤバいっていうか怖くなってきて…。
こんなこと言うの情けないし館山さんにはホントに申し訳ないんですけど俺…書けません。
あいや〜。
その言葉言っちゃうか…。
ごめんなさい。
もういいよ。
編集者として橋本君に期待しちゃった俺の責任もあるからね。
しばらく休んだらいいよ。
あっそうだ。
その前に病院に行った方がいいかもしれないね。
お大事に。
あ〜もう終わった〜!俺はもう終わりだ〜!あっ…。
終わってなんかないよジュンちゃんは。
書けない者は用なし。
これがこの業界のおきてですからね〜!終わりですよ終わり。
だったらまた始めればいいじゃない。
負けちゃ駄目だよ。
ジュンちゃんなら絶対書けるって。
苦しいかもしんないけどこれ乗り越えたら…。
知ったふうなこと言うなよ!!何とでも言えんだよ!書いたことない人間は!ホントに簡単に言うんだよ…。
もう出てけよ!説教はうんざりなんだよ。
ごめん。
俺読みたかったんだよジュンちゃんの恋愛小説。
でも…俺もう行かなきゃ。
ああ。
もう出てけ出てけ。
でも辞めるなよ。
また書けよ。
絶対書けよな。

(ドアの開閉音)
やむどころか次第に強くなる雨は悲しさや苦しさを洗い流してくれるわけではない
奮ってご応募ください
2016/01/16(土) 23:40〜00:05
関西テレビ1
傘をもたない蟻たちは #02[字]【原作・加藤シゲアキ 全4話】

「妄想と決別」
桐山漣 加藤シゲアキ 阪田マサノブ 渡辺舞ほか 原作の短編集を“因数分解”。肝の要素を散りばめた全4話の苦悩と希望が渦巻く、生と性の物語です。

詳細情報
番組内容
 起死回生をかけて恋愛小説に挑むことになった若手SF作家の橋本ジュン(桐山漣)は、突如訪ねてきた幼なじみの男(加藤シゲアキ)の助言を受けて『インターセプト』を書きあげた。しかし、物語がホラーだとボツになってしまい、ますます追い込まれていくジュンに幼なじみは理想の人を書いてみるように再び助言を送る。

 ジュンは理想の女性を想像しながら小説『恋愛小説(仮)』を書き始めるが、
番組内容2
理想のビジュアルだけ書いたところで眠ってしまう。その夜、夢の中にひとりの美女(渡辺舞)が出てきた。眠るたびにその美女が出てくることを報告するジュンに、幼なじみはその女性を題材に恋愛小説を書くように勧める。

 意気込んで書きかけの画面を見たジュンは、夢で見た女性が自分が書いたままの見た目であることに気付く。夢の中の女性は自分が書いた文章の通りになると確信をしたジュンは、
番組内容3
ユキエと名付けて次々と願望を書き込んでいくうちに、ある法則を発見する。

 酒を飲んでは寝ることを繰り返すジュンを心配する幼なじみだが、ジュンは聞く耳を持たず、ますますのめり込んでいき…。
出演者
桐山漣 
加藤シゲアキ 
阪田マサノブ 
渡辺舞 


スタッフ
【原作】
加藤シゲアキ「傘をもたない蟻たちは」(KADOKAWA刊) 

【脚本】
小川真
(『救命病棟24時』『恋なんて贅沢が私に落ちてくるのだろうか?』『世にも奇妙な物語’13春の特別編』『山田くんと7人の魔女』『星新一ミステリーSP』など) 

【編成企画】
羽鳥健一
(『高校入試』『東京にオリンピックを呼んだ男』『信長協奏曲』『ようこそ、わが家へ』など)
スタッフ2
【プロデュース】
江森浩子
(『1リットルの涙』『僕のいた時間』『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』『わが家の歴史』『ストロベリーナイト』など) 

【演出】
河野圭太
(『フリーター、家を買う。』『マルモのおきて』『わが家の歴史』『オリエント急行殺人事件』『一千兆円の身代金』など) 

【主題歌】
「ヒカリノシズク」NEWS(ジャニーズ・エンタテイメント) 

【制作】
フジテレビ
スタッフ3
共同テレビ

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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