美の巨人たち 喜多川歌麿『深川の雪』64年ぶりに発見!最晩年に描かれた幻の傑作 2016.01.16


冬の箱根です。
ではここから駅伝ランナーのように山道を登っていきましょうか。
ちょうど小涌谷を越えたあたり。
今日の作品はこの美術館にあるのですが…。
世紀の大発見とよばれた幻の作品。
わぁ大きいですね!今回特別に出していただきました。
60年もの間行方不明になっていたんだそうですよ。
見つかったのは4年前のこと。
館長の小林忠さんはその現場に立ち会いました。
不覚にも…。
描いたのは喜多川歌麿。
日本が世界に誇る美人画の天才浮世絵師です。
彼の最晩年の傑作がこの作品なのですが。
大きな掛け軸を広げてみると…。
おや富士山。
ほうこれはこれは。
では天才絵師の夢の世界にご案内いたしましょう。
ただし謎多き一枚。
今日の作品…。
縦1m99cm。
横3m41cm。
歌麿が直に描いた肉筆画です。
舞台は江戸随一の芸者の街深川の料理茶屋。
その2階の座敷が描かれています。
季節は春分の少し前でしょうか。
梅の花が咲いていますが内庭の木々や1階の屋根には雪が積もっています。
屋根や天井を取り払いところどころ障子が外されているのは大勢の人物を見せるための歌麿の工夫でしょう。
描かれている人物は27名。
そのなかで男性は猫と戯れるこの子供だけ。
あとは芸者遊女女中や見習いなどの女性たち。
その姿には歌麿の美意識が貫かれています。
細身の8頭身の体と独特の卵型の顔がそのしぐさ振る舞い衣装の着こなしを粋に見せるのです。
気になるのはこの口紅。
奇妙な色をしていますね。
詳しくはのちほど。
軽子と呼ばれる女中さんが料理を運んでいます。
百合根いんげんとこぶしの炊き合わせに魚は平目の煮付ですか。
歌麿はささいなものにも目を凝らしながら茶屋で生きる女たちの日常をこの一幅に描き上げたのです。
老いてなおますます盛んで第一人者でトップランナー。
この歌麿の大作をちょっと変わった方法で楽しんでいる人もいるらしいのです。
その方が俳優のK・Zさん。
《何がおもしろいのかよくわからないけれどやってみると本当におもしろいと思えるものがこの世の中にはあるのです。
それが知る人ぞ知るAOKITである。
AOKITとは何か?》AOKITとはとある美術家が古今東西の名画を立体にしたらどうなる?と平面と立体の不思議な関係を追求した組み立て式絵画キットのことです。
《止まらないニヤニヤが止まらない。
なぜかついに待ちに待った新作が今日我が家に届くのです》
(チャイム)きた!第1弾が届いたようですね。
歌麿の『深川の雪』。
有名な絵なのかな?《深川ってことは江戸の下町か。
まずは建物を作れってことだな》うわ〜細かい作業だ。
入れ込んでいますね。
《作ってみました。
さすがAOKIT。
この立体感奥行きゾクゾクするぞ。
ここに粋な芸者さんなんかが来るって算段だな。
って俺江戸っ子になってる》じゃあ次はこの中に人物を入れていきましょうか。
何なんだこれ。
風呂敷を背負った女。
実はこの女性がとっても大事な登場人物なんですって。
どういうこったい。
もうひとつ重要な鍵を握っているものがあります。
ちょっと時間を巻き戻してみましょう。
はいストップ。
そうこの富士山が今日の作品『深川の雪』のすごさを解き明かしてくれることになるのです。
更に気になるのは上下に描かれた雲。
建物の中なのにどうして?この1枚には誰も知らなかった最晩年の歌麿の姿が隠されているのです。
それはいったい…。
江東区にある富岡八幡宮です。
深川はこの八幡様の門前町として発展してきた江戸の下町。
深川の芸者衆は「辰巳芸者」と呼ばれ江戸の粋を代表する女たちでした。
そんな彼女たちの姿を描いたのが今日の作品なんですが…。
でもどうしてここが深川だとわかるのでしょうか。
喜多川歌麿の美人画の大首絵です。
女性の顔をクローズアップし繊細な線と品のある面立ちで女性美を追求しその情感や内面までをも映し出しました。
天下の美人画絵師として一世を風靡した彼が活躍したのは天明から文化にかけての25年ほど。
その最晩年に描き上げたのが今日の作品…。
舞台が深川であることは女性たちの衣装からもうかがえます。
贅を競った吉原とは違い藍色やねずみ色茶色と渋好み。
この地味な衣装をどう着こなすのかが粋とされていました。
更に足もと。
まだ寒いのに誰も足袋を履いていません。
辰巳芸者は冬でも足袋を履かない心意気。
だから皆裸足。
最も深川を象徴しているのは右上の風呂敷包みを背負った女性だといいます。
いわゆる遊女的な行為は許されてないもんですから料亭には夜具を用意してないわけですね布団を。
それを外から持ち込むというので通い夜具といって…。
これがいちばん深川らしいんですけれども。
歌麿は女性たちの粋な衣装だけでなく深川独特の風俗まで描き込んでいたのです。
俳優のK・ZさんのところにAOKITの第2弾が届いたようですよ。
すっげえな。
怖ぇな〜。
こんなに芸者さんたち呼んじまったらおアシがいくらあっても足りねえよなんてね。
これが辰巳芸者って呼ばれてるお姉さんたちか。
吉原あたりのシンネリムッツリとは違って情に厚いって評判じゃねえか。
おい音吉そんなとこで雪見て喜んでねえでこっち来て酌でもしろよ。
おっ今日のアテは何だい?え〜かまぼこ八頭。
これはからすみかい?えらい豪勢じゃねえか。
いいな〜深川。
住みたいなここに。
この作品には歌麿の絵師としてのすごみが随所に隠されています。
欄干にもたれた女性が指を指しているのは2羽の雀。
写実で知られた円山応挙も顔負けの筆さばきです。
更に奥の座敷に活けられた水仙の花。
動植物を描く名人でもあった歌麿の鮮やかな描写です。
床の間に掛けられているのは富士山の水墨画。
雪舟の『富士三保清見寺図』をさらりと模しています。
実はこの富士山が構図の重要なポイントとなっているのです。
奥の座敷の人物たちは富士山を頂点とした三角形の構図の中におさまっています。
三角形は1つではありません。
手前の廊下にいる女性たちを底辺とした大きな三角形。
そして右側の座敷で火鉢を中心に集まっている女性たち。
3つの三角形の構図の中に人物を絶妙に配置しているのです。
前方の料理や酒を運ぶ人たち。
火鉢を囲む女性たちがいてそしていちばん奥の部屋で拳という遊びをしている芸者さんたちがいる。
手前からしだいに奥へと全体に行き渡るように見る者の視線を誘導していたのです。
そろそろ完成間近ですな。
壮観じゃありませんか。
終わってしまうのが惜しいのでここで…。
発表させていただきます。
第3位デケデケ…ダカダン!音吉!おそらくこの子がさ若手ナンバーワンだと思うんだよね。
1人だけ振袖着てるし。
髪飾りも派手だしさ。
第2位駒奴姉さん。
どうですかこのだらりとした着物の着こなし。
ゾクゾクしますね。
ではここで謹んで第1位の発表をさせていただきます。
第1位は…。
ダダン!染太郎姉さん。
やはり貫禄ですよ貫禄。
この麗しい立ち姿。
着こなし風情文句なし!あの1人総選挙もいいんですけど何か気づきませんか?えっ何?唇。
唇?あっ緑色だ。
下唇が緑色だ。
どうして?そうここに描かれた女性たちの下唇の色はみんな緑色なんです。
どうしてなのでしょうか?江戸時代の紅は紅バラから作られた紅が中心だったんですね。
その紅を何回も濃く塗るとグリーン色に発色してくるんです。
それを笹色紅といいました。
こちらがその紅です。
原料は紅バラですがすいぶん光沢がありますね。
どんな感じなのか塗っていただきました。
少しずつ水で溶かして薄く塗り重ねていくと…。
玉蟲色に輝きはじめるのです。
これが江戸で流行した笹色紅。
実際にはうっすらと緑がかった玉蟲色だったようです。
すごく高価だったんですよね。
ですからその高価な紅をたくさん使わないとああいう笹色にならないのでそういった高価なものをいっぱいつけてるというおしゃれ心でもありますよね。
何気なく使ってるのよという感じじゃないでしょうかね。
歌麿は流行の風俗を巧みに取り入れ深川の女たちを生き生きと描いていたんですね。
ではなぜ歌麿はこの巨大な肉筆画を描いたのでしょうか。
謎を解くカギはこの街にあります。
北関東の栃木市です。
歌麿と栃木の意外な関係とは。
最後に雲が届きました。
そうこの雲にこそ歌麿のある思いが秘められていたのです。
それはいったい何か?今日の作品『深川の雪』は三部作のひとつです。
最初に描いたのは『品川の月』。
夕暮れの海を望むお芝居の舞台のようなスケールです。
次に描いたのが『吉原の花』。
桜満開吉原の大通りの賑わいです。
この2枚は現在アメリカの美術館が所蔵しています。
そして最後に描いたのが『深川の雪』。
歌麿は品川吉原深川と江戸の三大花街を描いていたのです。
しかも『深川の雪』は栃木で描かれたといわれています。
どうしてなんでしょうか?喜多川歌麿は最もお上に睨まれた浮世絵師でした。
女性たちの性格や内面を優美に映し出す細く柔らかな線が生み出す画風は江戸の人々に圧倒的な人気と影響力があったからです。
しかし時の老中松平定信の寛政の改革による出版物の取り締まりが厳しくなると弾圧の手は歌麿にもおよびました。
江戸から逃れた歌麿が身を隠した先こそ栃木の善野家という豪商でした。
そこで今日の作品『深川の雪』を描いたのです。
善野家への感謝を込めて自らの画業の集大成を描き上げるように。
最後に雲が届いたので取り付けたいと思います。
完成です。
歌麿の世界作ってみていかがでしたか梶原善さん。
僕はですねコツコツとものを作っていくのが大好きなんで楽しかったです。
あと歌麿さんが実際に生きた時代の料理茶屋がぐぐっと立体的になった。
すばらしい。
でもどうして歌麿は室内なのに雲を描いたのか?実はこの絵には歌麿がかつて描いた女性たちが何人か登場しているのです。
例えば柱にもたれて一服しているこのお姐さんはどうです?駆け寄ってきた子供と猫に目を細めるお姐さんはこちらの一枚。
手前の廊下中央に立つお姐さんもまた…。
もしかしたら歌麿はかつて親しみ慈しんだ女性たちを集め最後の晴れ舞台を作り上げようとしたのかもしれません。
雲の彼方にある天上の世界に。
AOKITの制作者青木世一さんはこんな発見をしたそうです。
お盆で隠したり着物の裾で隠してあったり。
それはその夢の世界を作り上げるために雲は必要だったのかもしれません。
さり気ない仕草や所作のなかに江戸の女の美しさを見出し続けた歌麿が最晩年に挑んだ深川の夢です。
もし展示が決まったら出かけてみませんか?岡田美術館は箱根湯本駅からバスで20分。
4,500坪の美しい庭園の中にあります。
作品を味わったら目の前にある足湯でひと休み。
ここは箱根ですから。
60年ぶりに発見された幻の傑作です。
夕暮れ時まだ店が開く前春の雪を見て喜び雀の姿に笑う女たちです。
その姿を慈しみ愛おしいと感じた絵師がいました。
喜多川歌麿作『深川の雪』。
雲の彼方にうたかたの夢を見た。
この日神奈川県のとある街で…。
2016/01/16(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 喜多川歌麿『深川の雪』64年ぶりに発見!最晩年に描かれた幻の傑作[字]

毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、天才浮世絵師・喜多川歌麿の幻の傑作『深川の雪』。

詳細情報
番組内容
今日の作品は、64年ぶりに発見された、喜多川歌麿作『深川の雪』。歌麿が直に描いた、大きな肉筆画です。深川の料理茶屋を舞台に、総勢27名が細かく粋に描かれています。最晩年、茶屋で生きる女たちの日常を、一枚に描き上げたのですが、なぜこの巨大な肉筆画を描いたのか?謎を解くヒントは、深川を象徴するという“風呂敷を背負った女”“富士山”“上下に描かれた雲”…。誰も知らなかった歌麿最晩年の姿をひも解きます。
ナレーター
 小林薫
 蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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