NHKスペシャル シリーズ激動の世界 第3回 揺れる“超大国”アメリカはどこへ 2016.01.16


過激派テロ組織に連れ去られる人質。
救出作戦を展開する各国軍。
去年11月に行われたアメリカとヨーロッパ諸国の合同軍事演習です。
圧倒的な軍事力で各国を主導してきたアメリカ。
その姿に変化が現れていました。
アメリカ軍の役割は空爆のみ。
地上での作戦には加わりません。
(爆発音)テロリストの拠点を包囲したのはスペインとドイツの地上部隊。
(銃撃音)最前線の戦闘にはチェコやスロベニアなどの部隊が投入されていました。
アメリカは今自らが担ってきた負担を各国に求めようとしています。
これから世界をどうリードするのか模索を続けています。
東西冷戦の終結から四半世紀あまり。
世界は超大国アメリカを中心に秩序が形づくられてきました。
しかしテロとの戦いでその威信は失墜。
国家の野望がむき出しになっています。
新たな脅威の出現と混乱の連鎖。
世界はどこへ向かうのか。
シリーズ「激動の世界」。
最終回は揺れる超大国アメリカです。
各国から軍を撤退させ「世界の警察官ではない」と宣言したオバマ大統領。
その空白を突いて大国復活を目指すロシア。
海洋進出の動きを強める中国。
そして過激派組織ISの脅威。
アメリカの影響力が低下し世界の混迷が深まっています。
アメリカはどこへ向かうのか。
その模索を見つめ激動の世界を展望します。
(大越)ここホワイトハウスのあるじ大統領はアメリカだけにとどまらずいわば国際社会全体のかじ取り役も担ってきました。
テロとの戦いを全面展開し多くの血を流す事となったブッシュ政権時代。
その痛手に懲りてオバマ政権では穏健な路線に転じました。
しかし世界の盟主としての地位は後退。
超大国のにらみが効かなくなった中東などでは新たなテロや紛争などが広がる事態となりました。
アメリカは今世界が激動していく中で自らがどう振る舞うべきかその答えを探しています。
そのアメリカ今年はポストオバマの大統領選挙一色に染まります。
アメリカの今後を左右する大統領選挙。
ドナルド・トランプ!話題を集めているのが移民や難民などの問題で過激な発言を繰り返しているドナルド・トランプ候補です。
極端な主張にもかかわらずなぜ共和党でトップの支持率を維持しているのか。
今月開かれた集会を訪ねました。
氷点下今9度。
開場まで1時間ぐらいまだ時間があるのですがこの中をこんなたくさんの人がトランプ候補の集会を待っています。
(歓声)ひときわ歓声が高まったのがトランプ氏がスローガンを訴えた時でした。
(歓声)「偉大なアメリカはどこへ行ったんだ」という喪失感と焦り。
それがトランプ人気の背景にありました。
(歓声)大統領選挙の大きな焦点。
それは世界を主導してきたアメリカの役割です。
国際社会での指導力を問われているオバマ大統領。
就任以来重い課題と向き合ってきました。
15年にわたるアメリカにとって最も長い戦争テロとの戦いです。
先月アフガニスタンで戦死した兵士6人の遺体が帰還しました。
テロとの戦いの死傷者はおよそ6万人。
今も増え続けています。
戦闘で負傷した兵士への支援も大きな課題になっています。
強く偉大なアメリカを求めながらもこれ以上の犠牲は耐えられないという声が高まっています。
アメリカが背負ってきた2つの戦争。
ブッシュ前政権はアフガニスタンに最大3万人イラクに17万人の部隊を展開させ戦費は年間13兆円を超えていました。
戦争の終結を約束したオバマ大統領はイラクから軍を完全に撤退させる決断をします。
ところがこれが思わぬ事態を引き起こします。
圧倒的な力が失われた事で起きる「力の空白」。
中東に再び混乱が広がりオバマ大統領は試練に直面します。
シリアの内戦です。
中東北アフリカで起きた民主化運動アラブの春。
シリアでも強権的なアサド政権に対する反政府運動が広がります。
(銃声)アサド政権は力で市民を弾圧し衝突は内戦へとエスカレート。
(爆発音)政権側が化学兵器まで使用するのではないかという懸念が高まります。
国際的な人道危機にオバマ大統領はシリアへの軍事介入を示唆します。
しかしアサド大統領は市民への攻撃を強めます。
ついに化学兵器が使用されたという情報が明らかになりアメリカは岐路に立たされました。
その直後の会見。
オバマ大統領は軍事介入するかどうかの明言を避けます。
(爆発音)その後も化学兵器が使用されたという報告が相次ぎます。
オバマ大統領はそれでも動きませんでした。
この時ホワイトハウスでどのような議論が交わされていたのか。
その現場にいた政府高官の一人が取材に応じました。
オバマ大統領の安全保障政策のアドバイザーを務めた…アメリカ政府はシリアの化学兵器工場に対する空爆など軍事介入の具体的な計画を検討していたといいます。
オバマ大統領が介入をためらった理由。
それはイラク戦争での苦い経験でした。
イラクではアメリカがフセイン政権を崩壊させたあと混乱が全土に広がりました。
それを収めるためにアメリカ軍は駐留の継続を強いられおよそ3万5,000人の死傷者を出したのです。
自らの軍事介入によって泥沼にはまっていったアメリカ。
これが重い教訓となっていたのです。
再び中東に軍を派遣するかどうか揺れ続けた1年。
オバマ大統領はシリアへの軍事介入を見送る事を決断します。
「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言したオバマ大統領。
アメリカの力に限界がある事を認めたのです。
(爆発音)しかしこの決断はシリアで予期せぬ事態を招きました。
過激派組織ISイスラミックステートの台頭です。
アメリカの影響力が低下する中シリアでは内戦が激しさを増します。
その混乱に乗じてISが急激に勢力を拡大しアサド政権反政府勢力と並ぶ勢力となっていったのです。
(爆発音)油田地帯を次々と制圧。
それを資金源に組織を更に強大化させます。
2014年にはシリアとイラクで支配地域を拡大させ一方的に国家の樹立を宣言。
イラクでアメリカの領事館や企業が集中する北部の都市アルビルに迫りました。
「世界の警察官ではない」と宣言してから1年。
アメリカの権益が直接脅かされた事でオバマ大統領は空爆を決断します。
ISが支配地域を広げるイラクそしてシリアで軍事行動に踏み切ったアメリカ。
空爆を主導する一方で大規模な地上部隊は派遣しないという戦略をとります。
地上戦は地元の軍や義勇兵を育成し戦わせる事にしたのです。
しかしこの戦略はその後揺れ動いていきます。
シリアの隣国トルコ。
アメリカはここで地上部隊の育成計画を進めていました。
アメリカに協力していたシリアの反政府勢力…アメリカは自由シリア軍を反政府勢力の中でも穏健派と位置づけて対IS戦略の要にしようとしていました。
大量の戦闘員が必要だとして協力を求めてきたアメリカ。
しかし厳しい書類審査と面接更にうそ発見器まで使って兵士の選別を行ったといいます。
更にアメリカは攻撃の対象はISだけだとしてアサド政権との戦闘を禁じようとします。
実際に面接を受けたこの幹部は強い反発を感じていました。
全ての審査を通り訓練を受けても渡された武器は小型の銃器だけでした。
自らの身を守れずほかの武装勢力に拘束される事態も起き地上部隊として投入されたのはごく僅かだったといいます。
対IS戦略の行き詰まりはアメリカ国内でも大きな問題となりました。
460億円を投じたとされるこの計画は事実上失敗に終わりました。
なぜオバマ大統領の戦略は迷走していったのか。
オバマ政権で軍の情報機関のトップを務めた…迷走の背景には反政府勢力に過激派が紛れ込む事への強い警戒感があったといいます。
アメリカが地上部隊の育成に失敗したシリア。
その間隙を縫ってISは首都ダマスカスがあるシリア中部にも勢力を拡大します。
ロシアのプーチン大統領はアサド政権への支援を宣言。
大規模な空爆に踏み切りました。
(爆発音)ロシアの専門家はプーチン大統領はアメリカの隙を見逃さなかったと指摘します。
混迷が深まるシリアでは一般市民の犠牲が増え続けています。
シリアの人権団体はこれまでに少なくとも7万の民間人が犠牲になったとしています。
元国防情報局長官のフリン氏です。
かつてのような力をアメリカが発揮できなくなった今その「力の空白」がもたらす混乱はこれからも起きていくと警告します。
圧倒的な力が失われた事で生まれる「力の空白」。
そこで広がり続ける混乱。
アメリカはどこへ向かうのか。
そして国際社会はこの問題にどう向き合っていくのか。
政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏です。
歴史的な観点からアメリカの覇権のメカニズムを分析し政府に外交政策を提言しています。
更にミード氏はアメリカで起きたシェール革命の影響を指摘します。
技術革新によってアメリカは今年約40年ぶりに原油の輸出国となる見通しです。
世界のリーダーが存在しない状態Gゼロの時代を予測した国際的な政治学者イアン・ブレマー氏です。
アメリカが「世界の警察官ではない」と宣言した今日本などの同盟国にはどのような影響があるのか聞きました。
今激動の世界を加速させているのがインターネット空間です。
全世界で32億人が利用し情報を瞬時に共有できるようになりました。
民主化運動アラブの春。
ソーシャルメディアでつながった市民が独裁政権を倒し国家の在り方まで変えていきました。
このインターネットの技術を開発し世界的なIT企業を生み出してきたアメリカ。
インターネットを開かれた自由な空間として発展させてきました。
しかしその自由な空間を今過激な思想が侵食しています。
(銃声)インターネットの力が悪用されアメリカの価値観までもが脅かされているのです。
アメリカを支えてきた土台は自らが世界に広めてきた自由や民主主義といった価値観でした。
その大事な価値観が軽んじられ神通力を失ってきているのではという懸念が広がっています。
その象徴が若者に対する過激な思想の急激な拡散と浸透です。
そこでアメリカ政府が取り組んでいるのがインターネット空間を使った思想戦そして情報戦です。
自らの価値観が侵食されるのを食い止めようと官民一体での取り組みが進められています。
アメリカの価値観をどう守るのか。
今アメリカ国務省は中東や北アフリカの学生や市民活動家らを集め次世代を担う指導者に育てようとしています。
若者たちを通じて自由や民主主義といったアメリカの価値観を各国に普及させるねらいです。
アメリカがこの取り組みを強化したきっかけは民主化運動アラブの春でした。
2011年中東北アフリカでは民主国家が誕生するという期待が高まりました。
しかしシリアやリビアなどでは過激派が台頭。
エジプトでは独裁政権を支えた軍が権力を奪い返します。
民主化が進んだのはチュニジア一国だけでした。
アメリカはチュニジアをこの地域の安定の鍵を握る重要な国と位置づけています。
しかし去年テロが相次ぎ国の治安や経済が大きく揺らいでいます。
アメリカ国務省が次世代のリーダーとして支援している…ベンフルさんは今若者の間に過激思想が広まる事を防ぐ活動を続けています。
イスラム過激派に勧誘された経験がある人たちと対話を重ねています。
ベンフルさんのような若者たちの活動を後押しするためアメリカ政府が広めているのがITを自在に活用するノウハウです。
ITの持つ力でアメリカの価値観を拡散させる新たな取り組みです。
アメリカはこの取り組みを世界各地で展開。
しかし反発も呼んでいます。
おととし政変が起きたウクライナ。
ロシア寄りの政権に対する反対運動を引き起こした若者をアメリカが背後で利用しているとして批判が高まりました。
この取り組みを始めた国務省の元高官です。
こうした批判に対しアメリカが進めているのは新たな外交の形だと主張しています。
(銃声)しかし今過激な思想によってアメリカの価値観は大きく揺さぶられています。
インターネット空間で急激に拡散する過激な思想。
アメリカはそれに対抗するための情報戦にも乗り出しています。
オバマ大統領は去年2月過激思想対策を協議する初めてのサミットを開き強い危機感を表明します。
オバマ大統領が協力を求めたのが最先端技術を持つIT企業など民間の団体でした。
このサミットで民間の力を示す実例として取り上げられたのがアブドゥラXプロジェクトです。
仮想のキャラクターが若者に向けたメッセージを語りかけます。
過激な思想に染まる事を防ぐねらいです。
このプロジェクトでは検索最大手グーグル社などの技術が実験的に活用されました。
ジハード聖戦など過激派組織を連想させる言葉を検索すると結果の上位に表示されるようにしたといいます。
アメリカ政府はより効果的なプロジェクトを開発するため民間の研究機関に資金を投じる事にしました。
これまでに進められてきた実証実験ではソーシャルメディア大手フェイスブックの技術を活用してきました。
実証実験は限定された地域で3か月間行われました。
過激思想に関心を持つ若者を特定し個別に説得する試みです。
その仕組みです。
まずマーケティングの手法でこうした若者の間で流行している言葉を抽出。
その言葉に強い関心を示している人たちをフェイスブックのデータベースを使って特定します。
彼らの情報は説得役として組織した元過激派のグループに伝えられます。
このグループのメンバーが若者たちに個別に接触し過激な思想に染まらないよう1対1で対話を重ねたのです。
国務省でインターネット空間での過激思想対策の責任者を務めたアルベルト・フェルナンデス氏です。
これからの情報戦では民間のIT企業の技術力が鍵を握るといいます。
国際社会での影響力が低下する中新たな時代を見据え模索を続けるアメリカ。
しかし激動の世界は今も大きく揺れ動いています。
中東の大国イランとサウジアラビアの対立。
核実験を強行する北朝鮮。
そして中国は南シナ海に建設した人工島で滑走路の試験運用を始めています。
これから世界はどうなっていくのか。
この激動の時代に私たちはどう向き合っていくべきなのか。
ロシアを代表する国際政治学者ドミトリー・トレーニン氏です。
アメリカが唯一の超大国といわれた時代がありました。
そして今また過渡期にさしかかっているように思えます。
アメリカは基本的にどういう振る舞い方をすれば最も有効な役割を果たす事ができるとお考えですか?リーダーなき時代を予見したブレマー氏です。
そうですね。
ワシントン郊外の国立アーリントン墓地です。
この広い敷地の中にテロとの戦いで死んでいったアメリカの兵士たちも埋葬されています。
しかしそのテロは今も容赦なく各地で繰り返され国家間の一触即発の緊張は絶える事がありません。
そうした現状を命を失った兵士たちはこの場所から一体どのような思いで見ているのでしょうか。
アメリカ一強の時代はもはや去ったと言えそうです。
盟友であるEUは分断の危機にさらされています。
一方これに反比例して存在感を示す中国は地域大国の座から今や世界をうかがっています。
そしてカリスマ性のあるリーダーに率いられたロシアが大国復活へとまい進しています。
世界は力のバランスを失い漂流を始めています。
しかしそうしている間にも罪のない人たちの血が流され多くの難民が生まれています。
世界が新しい秩序を作り出すために一刻の猶予も許されないのです。
アメリカがそこに大きな役割を負っている事に変わりはありません。
依然として世界一の富と先端技術を持ち世界中から多くの人を引き付けるアメリカ。
国際社会の多様な価値観を受け入れてグローバルな社会の道しるべとなるような新しいドクトリンをアメリカ自身が見いだす事が激動の世界に安定をもたらす最大の鍵となるのです。
2016/01/16(土) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル シリーズ激動の世界 第3回 揺れる“超大国”アメリカはどこへ[字]

かつての「世界の警察官」、アメリカ。しかし自らの犠牲を最小限にする戦略が、ISの台頭やロシアの介入を招く結果に。アメリカの苦悩と、激動の世界の行方を展望する。

詳細情報
番組内容
「世界の警察官」と言われてきたアメリカ。イラク戦争の教訓から、オバマ大統領は犠牲を最小限にする方針を貫く。しかしそれが、ISの台頭やロシアの軍事介入など世界に混乱を招いたのではないか。大統領選では、今後のアメリカのあり方について議論が続いている。一方、アメリカ政府は、Googleなどの協力を得て、ネット上で拡散する過激思想に対抗。アメリカはどこへいくのか。そして激動の世界はどうなるのか、展望する。
出演者
【キャスター】大越健介,【語り】柴田祐規子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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