とどまる事を知らない…世界の全ての国が直面する大きな問題です。
こうした中地球温暖化対策の枠組みを決めるCOP21が去年パリで開催されました。
初めて参加国の全てが協力して二酸化炭素を削減していく事を決めました。
今新たな問題が浮上しているんです。
それが…実はこれまで排出された二酸化炭素の多くは海が吸収してくれていました。
ところが今後海に吸収される割合が減っていく可能性があるというのです。
更に二酸化炭素を吸収してきた事で進行しているのが海洋酸性化の問題です。
酸性化が進むと海の生態系に大きな影響を及ぼす事が明らかになってきました。
人類が排出する二酸化炭素の受け皿となってきた海に今何が起きているのか。
地球温暖化問題の最新リポートです。
今回のテーマは「地球温暖化」。
先月行われたCOP21の議論って連日報道されてましたよね。
それだけ事態は深刻って事なんですかね。
気になりますよね。
今日は地球温暖化と環境問題を長年取材してきた土屋敏之解説委員と進めてまいります。
よろしくお願いします。
COP21では世界全体で二酸化炭素を削減しようというパリ協定が採択されましたがどういった印象をお持ちですか?この温暖化交渉って長年ず〜っと難航してきましたよね。
ですからようやく世界的な合意ができたという意味では大きな一歩だと思うんです。
ただそれだけ切実にもう待ったなしの状況まで来ているんだなという事を改めて感じましたね。
待ったなしですか。
それだけ差し迫った問題なんですね。
そうなんですね。
ちょっとこちらをご覧下さい。
地球温暖化の原因は人間が排出する二酸化炭素ですね。
その濃度の30年間の変化のグラフなんですね。
うわっもうすごい勢いで増えてますね。
よく二酸化炭素の話をする時には人類があまり出していなかった産業革命前と比べたりするんですよ。
現在既にそのころに比べると大気中の濃度は1.5倍ぐらいまで増えてるんです。
え〜。
という事は地球温暖化も同じように進んでるって事ですかね。
はい。
こちらをご覧下さい。
これはですね気温の観測が始まってからの世界の平均気温のグラフなんですが2014年と2015年に2年連続して史上最高記録を塗り替えてしまったんです。
うわ〜確かに日本でも暑いという実感はありましたけど世界でやっぱり暑かったんですね。
そうなんですね。
今日はこの…えっ海ですか。
はい。
実はですね…「熱の吸収」と「二酸化炭素の吸収」ですか。
そうなんです。
実はですねこの40年間に…9割以上も。
全然知りませんでした。
それだけではなく…すごいですね。
海の役割って本当に重要なんですね。
そうなんですね。
ところが今その海に異変が起きているんです。
まず最初に熱の吸収の問題から見ていきましょう。
世界の気候に一体何が起きているのか。
去年9月イギリスの気象庁が衝撃的なリポートを発表しました。
ここ10年余り安定していた気温が再び上昇傾向に変わり地球温暖化が急速に進む可能性を示したのです。
実は地球上では温暖化が進んでいるとされながら気温に変化が現れない期間が続いていました。
ところが2年前から突然上昇傾向に転じたのです。
なぜこうした変化が起きているのでしょうか。
エルニーニョとは太平洋の赤道付近で海面水温が平年より高くなる現象です。
この現象は1年ほど続き気温が上昇する事が知られています。
すごい暑そう。
ところが今回の気温上昇には更に大きな海の変化が関わっていると考えられるのです。
それが太平洋で10年周期で起こる海面水温の変動です。
変動?これは…赤い所は平年より高い所青は低い所です。
それが最近このように変わっています。
海面水温のパターンはおよそ10年の周期で変化します。
この現象を太平洋十年規模振動PDOといいます。
これまでの観測から最近のようなパターンになった時に気温が上昇傾向になる事が知られているんです。
海面水温のパターンが気温上昇に影響するのはなぜなのか。
PDOと海に吸収される熱の関係を研究してきた…まだメカニズムは解明されていませんが2000年から2012年までのようなパターンの時は大気の熱が海に取り込まれる傾向が強くなる事が分かっています。
このおかげで10年余りの間気温上昇が抑えられていたと考えられています。
海への熱の吸収が弱まり海面水温が上がれば連動して気温も上昇します。
今の状況が続けば世界の平均気温は今後も最高の値を更新し続けると考えられています。
へえ〜。
気温上昇の鍵は海が握ってたんですね。
でも10年間安定してたのが一気に状態が変わりそうですよね。
こちらのグラフを見てもですね気温の上昇というのは停滞する時期と急激に上がる時期というのを繰り返しながらでも長期的には上がり続けていくという状況なんです。
なるほど。
でも100年でまあ1℃ぐらいの上昇という事ですけど1℃上がるだけでもそんなに危険なんですか?何となく実感がないんですけれどもその僅かな変化が大きな影響をもたらすんですよ。
例えばですね今既に産業革命前と比べて世界の気温って1℃くらい上昇してると見られてるんですけれどもそれに伴って例えば世界のいろいろな山岳地帯にあった氷河っていうのがもう消え始めています。
これが更に2℃つまりこれからはあと1℃なんですけども…ぐらい上がるだけでも極端な気象現象例えばハリケーンですとか干ばつとかそういったものがもっと極端に深刻化してくると見られてるんですね。
そうなんですか。
これが更に4℃上昇という事になるとですねこれは世界的な食糧危機であったりたくさんの生物の種が絶滅してしまうというおそれもあるんです。
本当に恐ろしい影響が出てしまうんですね。
そうですね。
ですからパリ協定で決まった中には…え〜そっか。
でももう産業革命から1℃は上がってしまった訳ですよね。
今後0.5℃の上昇に抑えるっていうのは可能なんですか?いや率直に言って非常に難しいと思います。
というのはこのCOP21に向けて世界の各国がこれだけ削減しますという目標を出してるんですがそれを全部達成したとしても3℃ぐらいは上昇してしまうだろうと計算されてるんです。
え〜。
じゃあもう今後もこういう気温上昇が進んでってしまうんですね。
その可能性が高いんですね。
でもそれだけじゃないんですよ。
今海の中ではもう一つの大きな問題が進行中なんですね。
ちょっとこちらをご覧下さい。
先ほど海が二酸化炭素を吸収すると言いましたがその量は人類が排出する二酸化炭素全体の3/3に及んでるんですよ。
お〜じゃあ本当に二酸化炭素を吸収する事で温暖化を防いでくれてたんですね。
でもその二酸化炭素を吸収してくれている海に今大きな問題が起きつつあるんです。
気象庁の調査船…太平洋の大海原で海洋調査を行っています。
水を採取する装置を水深150メートルから800メートルの深さまで沈め海水のサンプルを取ります。
海水に溶けた酸素の量や二酸化炭素の濃度を分析して大気が海水に与える影響を調べています。
調査チームを率いる気象庁の…30年間収集してきたデータから海で起こっているある異変を明らかにしました。
海洋の酸性化とは一体どんな現象なのでしょうか。
二酸化炭素は水と反応し炭酸になります。
更に炭酸は水素イオンと炭酸水素イオンに分かれます。
つまり二酸化炭素が海に溶ければ溶けるほど水素イオンが増えます。
これが海洋の酸性化と呼ばれる現象です。
酸性化の進み具合を表すために指標として使われるのがpHです。
7より小さければ酸性7より大きければアルカリ性です。
中野さんたちは1990年からの海のpHの変化に注目しました。
赤い所はpHが低い所つまり酸性度が高い所。
青は酸性度が低い所です。
2014年までの変化を見てみると赤い所が少しずつ増えている事が分かります。
1990年と2014年を比較すると…このとおり。
この20年だけでもpHは0.04下がったといわれ…大幅に酸性化が進んでいるんです。
更に酸性化が進むと地球温暖化に大きな影響を及ぼす可能性があるといいます。
二酸化炭素が海に溶け水と反応して炭酸水素イオンや水素イオンが増え続けると徐々にこの反応が起きにくくなります。
そのため大気中に残る二酸化炭素が増えるというのです。
二酸化炭素が大気中に残る分が増えちゃってかなり深刻ですよね。
それだけじゃないんですよ。
海の酸性化が進むとどうなるのか専門家に伺いましょう。
地球温暖化と海洋環境について研究している野尻幸宏さんです。
海の酸性化は地球温暖化とどの程度関わってるんですか?そのため今世界の地球温暖化に関わる研究者が最も注目を集めている課題の一つです。
今現在海の酸性化はどれくらい進んでるんですか?海水というのはもともとアルカリ性でして現在のpHが8.1弱アルカリ性です。
しかしこれは既に産業革命以前と比べると0.1低下してしまったというのが現在の状態です。
ちょっとたった0.1って思ってしまうんですけどそれでも酸性化は進んでるって言えるんですか?海水のpHが0.1下がるという事は海水の酸性度の指標…十分な対策が取られない場合には今世紀末にはpHは0.3程度下がって7.8ぐらいになります。
これは先の…いや〜これから海はどうなっちゃうんでしょうかね。
気になりますよね。
海が酸性化する事で深刻な影響を受ける生物がいます。
酸性化の影響で将来さんごが生息できなくなるかもしれないというのです。
さんごは海の中にあるカルシウムイオンと炭酸イオンが反応して出来る炭酸カルシウムで骨格を作っています。
しかし海に二酸化炭素が溶け込むとその一部が炭酸イオンと反応し炭酸水素イオンに変わっていきます。
そのため炭酸イオンが減っていきさんごの骨格になる炭酸カルシウムが作られにくくなってしまうのです。
山野さんは日本の近海で酸性化が進んだ場合のさんごの生息域をシミュレーションしました。
青色はさんごが生息できる海域。
赤色はさんごが生息できない海域です。
二酸化炭素の排出がこのまま続けば海水温の上昇と酸性化の影響によってさんごが生息できない海域が次第に広がり2070年代にはついに日本の近海から姿を消してしまう可能性があるといいます。
うわ〜今進んでる酸性化によって日本のさんごが無くなってしまうかもしれないなんて怖いですね。
そういう事でこのまま二酸化炭素の排出が続けば今世紀末にはこの話が現実になるという可能性があります。
ですからその生息域が失われてしまうというのは大変な事ですよね。
確かにさんごは海の生き物の揺りかごともいわれてますもんね。
ここは東京から南に160キロの所にある伊豆諸島式根島の沿岸の海なんですね。
何か普通の海に見えますね。
(土屋)さんごも確か多いんですよ。
へえ〜そうなんだ。
ちなみにこの白いキノコみたいな格好してるのがさんごなんです。
これがさんごなんですね。
はい。
この辺りのpHは8.1という事で平均的な海なんですね。
う〜ん。
きれいなんですがこの先に進んでいくと不思議な光景が広がっています。
うん?何か泡が出てますね。
はい。
この泡何だと思いますか?え〜何だろう。
これ海底から湧き出てるんですね。
湧き出てる?二酸化炭素が何で湧き出るんですか?実はここはですね火山活動が原因で二酸化炭素が噴き出す場所なんですよ。
うわ〜。
この辺りのpHが6.9から7.8なんですね。
かなり酸性度が高いですね。
はい。
世界ではパプアニューギニアの海域など6か所でしか見つかっておらずかなり珍しい場所なんですね。
なのでよ〜く見るとですね…え〜。
そうなんだ。
酸性化っていうのは貝やさんごにもすごく影響ありましたけどそれ以外にも何か影響するんですか?私たちの研究グループではいろいろな海洋生物に海洋酸性化の影響が出るのかどうか実験的に研究しています。
ここにお見せしているのがウニの例でして現在のpH状況で飼育したウニと今世紀中に予想されるような下がったpHで飼育したウニの幼生の大きさを比較すると腕の長さが短くなるというような事が分かってきました。
従ってこれは今後近い将来に予想される酸性化でも生物に影響が出うるという事を示しています。
へえ〜。
ちなみに…えっいつごろあったんですか?何かきっかけとか原因はあったんですか?それはまあ火山性の二酸化炭素が出るとかあるいは隕石が衝突するとかいくつかの原因で海洋酸性化が起こったという事が推定されてる訳です。
6,500万年前というと恐竜が絶滅した時の隕石の話ですよね。
あ〜そうですよね。
その時期に海の生物も大量に絶滅したという事が知られてまして。
その絶滅の中身を調べてみると…そういった事で海洋酸性化の影響による大量絶滅ではないかと疑われてる訳です。
へえ〜。
海洋酸性化って本当に生物に与える影響が大きいんですね。
実は今海洋酸性化によって海の生態系の根幹が揺らぐかもしれないという事が分かってきたんです。
海の酸性化が生態系に与える影響を研究している…和田さんが注目しているのが…海の生態系の出発点にいる生き物だからです。
特に注目したのはこちら…ハプト藻と呼ばれる植物プランクトンの一種です。
ハプト藻は植物プランクトンの中でも特に多く世界中に分布しています。
代表的な植物プランクトンのけい藻と比べてもこのとおり。
そしてこのハプト藻の多くはクリソクロムリナだといわれています。
そのため海の生き物にとって貴重な食糧となっているのです。
和田さんは海水を入れた水槽に人工的に二酸化炭素を溶かして酸性化した海を再現。
クリソクロムリナに現れる変化を1か月にわたって観察しました。
その結果です。
微量の海水に特殊な波長の光を当てその中に存在しているクリソクロムリナを青く示しています。
この時海水のpHは8.1ですが酸性度を上げると次第に少なくなります。
そしてpH7.7では現在と比べるとその数は僅か5%になっていたのです。
和田さんはクリソクロムリナのような海の食物連鎖の出発点にいる植物プランクトンが減少すると生態系が大きく崩れる可能性があると考えています。
酸性化が進むと食物連鎖にも影響が出てしまうんですね。
食物連鎖の出発点が植物プランクトンなんですけれども今後の温暖化が進むと熱帯亜熱帯そういった海での植物プランクトン生産が落ちるというふうに予想されているんですけれどもそこに今度海洋酸性化の影響が加わると更に影響が深刻になるという可能性も指摘されています。
早く手を打たなきゃって感じですけどこの酸性化というのは食い止める方法はないんでしょうか。
本当にその二酸化炭素の排出を減らしてくっていう事を根本的に取り組んでいかないと出口が見えないという事ですよね。
化石燃料の消費を減らして水素化していったりとか大きな話で言えば二酸化炭素をこの番組でも扱いましたけども地下に封じ込める地下貯留であったりあるいは人工光合成であったりそうした革新的技術を開発しつつもやっぱり今出しているものを世界全体でどうやって減らしていくか重要ですよね。
だから新しい技術で物事を進めるのももちろん大事なんですけれども今やれるような省エネだったり効率化そういった事を進めながら新しい技術も作っていくと。
ですから…ですから我々のずっとあとの世代がちゃんと地球に暮らせるかと。
そういったところを保証するために海をきちんと守る事が重要というふうに思っています。
地球温暖化と海洋環境ってこんなに関係してたんですね。
ねえ。
二酸化炭素が増えると海洋酸性化が進んで生態系が崩れてもしかしたら私たちの食糧問題にもつながったりとか。
本当一つ崩れると大きな影響になってしまって今環境問題は本当にせっぱ詰まった状態なんだなというのをすごく実感しました。
野尻さん今日はどうもありがとうございました。
こちらこそどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2016/01/16(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「温暖化の新たな危機!海洋酸性化」[字][再]
先日パリで開催されたCOP21。地球温暖化への対策が急がれる中、新たな問題となっているのが二酸化炭素による「海洋酸性化」だ。海で今、何が起きているのか最新報告。
詳細情報
番組内容
12月に採択されたCOP21のパリ協定。二酸化炭素の排出削減が世界的に進められることになったが、一方で新たな問題となっているのが二酸化炭素による「海の酸性化」だ。海はこれまで人類が排出する二酸化炭素を吸収してきた。しかし酸性化が進んだ結果、サンゴや貝類、さらには食物連鎖の起点となる植物プランクトンの生育にも影響。生態系が崩れる危険性が指摘されている。地球温暖化の新たな危機・海洋酸性化に迫る。
出演者
【ゲスト】弘前大学理工学部 地球環境学科教授…野尻幸宏,【解説】NHK解説委員…土屋敏之,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他
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