デヴィッド・ボウイ 1983年作『レッツ・ダンス』
デヴィッド・ボウイにとって空前のヒット作となった1983年の『レッツ・ダンス』のプロデューサーを務めたナイル・ロジャースが、デヴィッドとの出会いや作品について振り返っている。ナイルは、米ピッチフォークのインタヴューに応えて次のように語っている。
「デヴィッドのことはずっと憧れてたし、尊敬してたんだけど、初めて会ったのは80年代の頭くらいにナイトクラブでのことで、そこでしばらく話し合ったんだ。その後、デヴィッドのマンハッタンの自宅に呼ばれて、赤いキャデラックに乗ったリトル・リチャードの写真を見せられて、『今度のアルバムはこんなサウンドにしたいんだ』っていってきたんだよ。その写真を見せられただけで、完璧にわかったよ。どこか未来的なものをやりたがってるんだけど、根っこはロックンロールじゃないとだめで、どこかソウルやブラック・ミュージックやR&Bを感じさせて、でも、形は歪められてて、なおかつエヴァ―グリーンなものがやりたいんだなって」
「アメリカで生きる黒人として俺は1日足りとも黒人であることを自覚させられない日はないんだ。黒人であることは俺個人とはまったく関係のないことなんだけどね。でも、人によっては、俺が存在しているだけで不愉快になるみたいなんだね。だから、そういうことが解消されたことは一度もないんだよ。だけど、ボウイと一緒の時は、まったくそれを感じないで済んだんだ。『レッツ・ダンス』は俺やデヴィッドが一度も会ったことのない連中と一緒に作ったわけだけど、俺にすべてを任せるだけの信用を置いてくれたんだよ。『ナイル、ぼくのヴィジョンを現実の形にしてみて。きみに全部任せるよ』っていうもんだったんだ。
アルバムは17日間でレコーディングからミックスまで仕上げたんだ。だから、"レッツ・ダンス"には4つのヴァージョン違いとかはないし、"モダン・ラヴ"にヴァージョン違いが5テイクあることもないんだよ。今ある音があっただけなんだ。それぽっきりだから。それでおしまい。作業中はかなり長い間、デヴィッドは(プレッシャーをかけないように)ラウンジでテレビを観てて、たまにコントロール・ルームにやってくると仕上がりをチェックして『すげえ!』っていって、また場を外すんだよ。その間、俺は心の中で『これは俺が生まれてこの方受けてきた中でも最高の敬意だよ』って噛みしめてたんだ。
あのアルバムは俺たちがブラック・ミュージックを作っていくのと同じやり方でやったんだ。1曲仕上げて次に行くっていうね。それは(デヴィッドにとっては)いってみれば、他者のアーティスティックな視点からカルチャーを見ることだったわけで、また、そのカルチャーではみんながどうやって生きてるのかを特に細かく考えるわけでもなく見ていくことだったんだよ。というのは、当時の黒人アーティストの制作予算はロックンロール・アーティストの予算の規模とはまるで違ってたからなんだ。でも俺はボウイのアルバムを、シックのアルバムを作るのとまったく同じように作った。あの時のセッションがどういう感じだったのかをみんなに説明すると、みんなどれだけ贅沢を尽くしたのかという話を期待するんだけど、『いや、まったくその逆だったんだよね』っていう話になるんだ。つまり、デヴィッドが俺たちにどれだけの信頼を置いてくれていたのかという、そういう話だったんだよ」
さらに、かなり先鋭的でアーティスティックなアーティストだったデヴィッドがヒットメイカーとなったナイルにプロデュースを持ちかけてきたことに違和感は感じなかったのかという問いには次のように説明している。
「うん、そこが俺にも妙に思えたんだ。でも、デヴィッドのことがわかってきたら、そうか、これはアート・プロジェクトなんだなとわかってきたんだ。デヴィッド・ボウイがコマーシャルな作品を作るという矛盾そのものがアートで、イケてることで、『すげーおもしろい!』っていうものなんだとね。まさにそれが"チャイナ・ガール"での俺のリフで、ちょっとこれベタすぎやしねえかって、ひょっとしたら俺クビになるかもと思ってたんだ。けど、デヴィッドがあれを聴いたら『これはとてつもなくすごいよ!』っていったんだ。俺が『マジでいってんの?』って訊くと『いや、天才的じゃん』っていうんだよ。やっぱりこれはちょっと次元の違う人間なんだよね。そんじょそこらのアーティストとはわけが違うんだよ。俺は本当に多岐にわたるアーティスティックな連中とやってきてるわけだから。ローリー・アンダーソン的な人からグレイス・ジョーンズ的な人までね。それから、カイリー・ミノーグとかマドンナとかウルトラ・コマーシャルな人ともやってきてて。そのふたつをうまい具合に融合させて、それをデヴィッド・ボウイとともにポップとしてのヒット作品に仕上げるというのは驚異的な試みだったんだよ」
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