2016年1月14日(木)

なぜ「パチンコの換金」は合法なのか

PRESIDENT 2016年1月18日号

著者
山本 一郎 やまもと・いちろう
評論家

山本 一郎1973年生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わり、現在は株式会社データビークル取締役、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員などを務める。『ネットビジネスの終わり』(Voice select)、『情報革命バブルの崩壊』(文春新書)など著書多数。

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答える人=評論家 山本一郎
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そのとき浮上するのは、ギャンブル依存症を含んだ消費者問題です。ぱちんこ業界を成立させてきた「三店方式」と言われる換金方法は、業界が適法化を目指して編み出した方法です。ぱちんこ換金からの暴力団の締め出しに大きな効果をもたらした一方、ぱちんこ愛好家という消費者の保護はなおざりになっています。

とりわけぱちんこによるギャンブル依存症の問題は、依然として解決の見通しが立っていません。ぱちんこ愛好家も射幸性の高い遊技台を求める傾向にあるため、顧客満足と依存症対策との間で強い葛藤を引き起こします。そこへ、今回の不正改造釘の問題が浮上してくれば、「いままで射幸性を高めた違法な遊技台を認可、製造、営業され、その結果としてギャンブル依存症に陥った消費者は違法な遊技台を長年放置してきた業界全体の犠牲者なのではないか」という話になってしまいます。

これは消費者金融の過払い金問題と極めて似ています。かつて「サラ金」として我が世の春を謳歌した消費者金融は、派手な店舗展開や広告宣伝で花形産業として君臨していました。ところが2006年に最高裁が、「グレーゾーン金利」を認めず、「過去に取りすぎていた利息(過払い金)を顧客に返還せよ」という判断を下すと、各社は巨額の過払い金返還に見舞われ、大手も次々と経営破綻や身売りに追い込まれました。

ギャンブル依存症で苦しむ本人や家族だけでなく、一般にぱちんこを楽しんできた層も「違法なものを遊ばされた」として、これまでの遊興費の返還を求める大規模な消費者団体訴訟も起こりかねません。そうなれば、業界全体が壊滅的な打撃を受ける判決が出る可能性もあります。

国策気味な割にまったく進まないIR法(カジノ法)や、遊技台の流通そのものに税金を1台いくらでかける類のぱちんこ税構想まで、業界を取り巻く環境は激変しており、毎週のように状況が変わっています。1月4日から始まった通常国会で下手な質問でも野党から出ようものなら一気に問題が火を噴く危険性もあるため、動静を固唾を呑んで見守りたいと思います。

※1:日本生産性本部「レジャー白書2015」によると、2014年のパチンコの市場規模は24兆5040億円、参加人口は1,150万人だった。なお本文内では法律上の用語である「ぱちんこ」に表記を統一した。
※2:平成24年6月18日国家公安委員会規則第七号「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」では、「別表第4 ぱちんこ遊技機に係る技術上の規格」で、「遊技くぎ及び風車は、遊技板におおむね垂直に打ち込まれているものであること」としている。

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