京都の酒所・伏見に日本酒の新たな世界を切りひらく女性杜氏がいます
長く途絶えていた伝統の技をよみがえらせ名だたる賞を受賞
さらにみずから日本酒のボトルデザインまで手がけています
そんな多才な彼女は2児の母
子育てに追われながらも日々理想の酒造りに奮闘しています
今回は日本酒のおいしさを追求し新しい酒造りに挑む女性杜氏の夢のカタチ
今なお十石舟が行き交う水の恵みにあふれた町・伏見
古くから酒所として知られ数多くの蔵元が軒を連ねます
伏見の蔵元の1つ・招徳酒造
1645年創業
およそ370年もの長い歴史を持つ老舗です
四条烏丸で開かれた伏見生まれの日本酒を楽しむイベント
ここに招徳酒造のお酒も出品されました
こちらは京都産の酒米・山田錦のみを使用した純米吟醸酒
こちらは辛口の特別純米酒
多くの人の舌をうならせる招徳酒造のお酒
酒造りを担う蔵人は僅か5人
その中に酒所・伏見で唯一の女性杜氏・大塚真帆さんがいます
回すよー
杜氏とは酒蔵の最高製造責任者のこと
(大塚)何度?1818
杜氏によってその蔵の味が決まるとまでいわれています
招徳酒造のこだわりは純米酒であること
純米酒こそ日本酒本来の姿というポリシーを貫いています
純米酒造りで重要なのが水と米
水は敷地内の井戸よりくみ上げた
やわらかできめこまやかな味の名水です
米は地元・京都産にこだわります
綾部市で質の高い酒米を栽培し酒造りを支えてくれているのが契約農家の西山さん
これらのお酒は西山さんが育てた酒米だけで造られています
改良していかないとこっちも負けてしまうなっていうのがあるんでほんとにいい刺激をもらってますし
(西山)作りがいのある蔵元さんとお米をやり取りさせて頂けるのはだから190ぐらいかな
酒造りの始まりは原料となる米を洗うところから
洗った米には適量の水分を吸わせます
品種や精米の状態・お酒の種類で浸す時間を変える繊細な作業
こまめにチェックし水を抜くタイミングを計ります
(大塚)水を吸ったとこだけこう白くなるんですね目玉ってわれわれ呼ぶんですけど最終的に醪の中でどれぐらいお米が溶けるかに影響するんでお米がたくさん溶ければ味の多いお酒になりますしあんまり溶けなければ味の淡麗なお酒になりますしいきます
米は一晩寝かせた後蒸し上げます
ここでも粘りや色・芯の状態を厳しくチェック
ちゃんと中までやわらかく蒸せてると思います
お酒の原料となる麹を作るため蒸米には麹菌をまとわせます
それを麹室と呼ばれる部屋へ運び温度や湿度に細心の注意を払いながら2日以上かけて麹を育てます
こちらはとも呼ばれる酒母
酒母はアルコールを生み出す酵母を培養し大量に増殖させたお酒のベースとなるもの
この酒母に蒸米・麹・水を3回に分けて加えていきます
そうしてできた液体が醪
麹菌が米のデンプン質を糖に変えその糖が酵母によってアルコールに変化し発酵が促されお酒になるのです
蔵人の仕事は重労働
大塚さんも男性と変わらぬ作業をこなします
蔵人たちは大塚さんをどのように見ているのでしょう?
蔵人の1人には職場結婚をした夫の一孝さんがいます
(夫)なったよね自然になりました
子どもの頃は宇宙飛行士になるのが夢だった大塚さん
京都大学農学部に入学し作物学を学ぶ一方音楽サークルで演奏活動に励んでいました
そしてこのサークルの飲み会を通じて日本酒の美味しさに引かれたのだそう
日本酒への思いが募り蔵人になることを決意
大学院を修了後招徳酒造に入社
しかし初めは事務や成分分析が主な仕事でした
そんな努力が実り先代の引退を機に歴代初の女性杜氏に就任
大塚さんが選ばれた理由は何だったのでしょうか?
非常に基本に忠実なところとそれからやっぱりここは変えなければと思ったらそこは大胆にチャレンジして変えるというその両方のバランスがね非常によいなぁと思いますね
大塚さんは招徳酒造に大きな変化をもたらしました
伏見では長らく途絶えていた生造りを復活させたのです
生造りとは江戸時代までは主流だった酒造りの原点ともいえる製法
昨今の酒造りは酒母を作る際酵母を雑菌から守るために人工的に作られた乳酸を添加します
しかし生造りでは空気中に漂う自然の乳酸菌を利用するのです
それゆえ手間と時間が必要となります
用意スタート
これは山卸と呼ばれる蒸米と麹と水を粥状になるまですり潰す作業
このように手間暇をかけた生造りは完成までにおよそ1ヵ月もかかるのです
終了〜ハァ…
(大塚)乳酸発酵をさせるその発酵期間自体が長いんで結果として深みのある味わいというか奥行きがすごく深くなるんですね味わいの
大塚さんの情熱と努力が実り完成した生造りのお酒は2009年度の日本酒コンクールで最高金賞を受賞しました
招徳酒造が販売するさまざまなお酒
実はこれらのラベルは大塚さんがみずからデザインしたものなのです
印刷会社のプロの方にデザインをお願いしてたんですけどもいかにも日本酒的なデザインのものが上がってきてたんですね
こちらは大塚さんがデザインしたボトル
大塚さんはこの作品によりガラスびんのデザインコンテストで栄えある賞に輝きました
この賞を受け日本酒をあまり飲まない若い人たちに向けた四季折々の限定ボトルが誕生しました
(大塚)正面から見た時に全く文字がなくって完全にイラストだけにしてしまったんですけども飲んだあとも部屋に飾って頂けるような感じのきれいな瓶ですんで
大塚さんの最新作は今年の干支・申をユーモラスに描いたデザイン
彼女が描いたボトルには女性ファンも多いのだそう
色んな意味で変わろうとしていた造り方もそうやし売り方変わらなければいけないちょうどタイミングであったと思うしちょうどその時に大塚さんが息合わしてくれた
(大塚)どうでしたか?今日は
(長男)歩ける!歩けんの?じゃあお手々つないで歩こうかおっとっと…
杜氏として多忙な日々を送る大塚さんは2人の子どもの母親でもあります
同僚でもある蔵人の夫と4人暮らし
(一同)いただきますその顔おかしい
家では必ず自分たちで造った日本酒で晩酌
ちょうどええわ美味しいな
忙しいこの時季は子どもたちをなかなか構ってあげられないと大塚さんは言います
(大塚)仕事の内容とかも子どもに教えてこういうことをしてて忙しいんだよとかそういうことを話して分かってもらえたらなと思うんですけどお酒造る仕事してるっていうのは分かってるしお酒を造る材料の麹とかもな…お酒って何からできてんの?麹食べるの好きやもんなこれ何からできてんの?偉い正解やすげぇ
大塚さんが目指すお酒は料理に合う食中酒
そんな思いで造られる大塚さんのお酒にほれ込んだお店は数多くあります
この日大塚さんが訪れたお店もその1つ
こちらは地元・京都産の新鮮な食材をオーナーみずからが仕入れ季節感を演出する京都和食をうたうお店
料理に合うお酒を目指す大塚さんは自分の舌で確かめるため取扱店へ出向くことも
大塚さんがみずから造ったお酒と一緒に頂いたのが丹波地鶏の塩焼き
やっぱり料理があってお酒なんでお酒があって料理なんでそこの調和させてくれることは売りやすいというか提供しやすいですよね
大塚さんが目指す料理に合うお酒はさまざまなジャンルの料理とも結び付きます
こちらは60種類以上の日本酒と肴になる一品料理さらに手打ちの十割蕎麦が楽しめるお店
ご主人も大塚さんが造るお酒にほれ込んだ1人
(店主)おそばって風味がすごいきつい食べ物じゃなくてそばつゆにしてもだしの優しい味わいなんです招徳さんの透明感があって滑らかなお酒っていうのは優しい味に寄り添う優しいお酒というかすごい相性がいいですね冷やでも熱燗でももちろんどの温度帯でもいけるお酒多いですね
大塚さんのお酒は海外の人とのつながりも生み出します
こちらはオーストラリア人のアンドレさん
この日から3ヵ月間研修生として蔵で働きます
2人は大塚さんが外務省の要請を受けメルボルンで開いた日本酒をPRするセミナーで出会いました
日本文化をすごく愛しておられる方だなと思って
アンドレさんはオーストラリアで和食レストランや日本酒を扱うバーを営むオーナー
日本酒を世界に広めた功績のある人へ与えられる酒サムライの称号を手にするほど造詣が深い人物
日本酒造りをみずから体験してみたいと願い来日したのです
(スタッフ)美味しいですか?
研修初日のアンドレさんまずは櫂入れという作業を体験
うん上手力もあるんで
続いては麹用のお米を洗い水分を吸わせる作業
洗う時間や水に浸す時間が細かく決められておりタイマーでチェックしながら行います
熱心にメモを取るアンドレさん
日本酒の要・麹造りも体験
アァー!
研修初日ながらも早朝から夕方近くまで働き続けたアンドレさん
すごく頑張ってくれてすごく助かりましたし
アンドレさんが来日して1週間がたったこの日大塚さんは仕事終わりに伏見の町を案内することに
境内に湧き出る御香水は日本名水百選にも選ばれている極上の水
そして招徳酒造でお酒に使う地下水はこの御香水と同じ水脈からくみ上げたものなのです
うんアァ…
続いて案内したのは伏見にあるすべての蔵元の日本酒がそろう酒屋さん・油長
店内にはカウンターがあり利き酒もできます
(英語)Drinkingsakeハジメマシテヨロシクオネガイシマス
カウンターで招徳酒造の商品を頂くことに
大塚さんが復活させた生造りのお酒
これを飲んだアンドレさんの感想は?
GoodjobOtsukasanアハハ…センキュー
さらにその夜はアンドレさんを自宅でおもてなし
(大塚)アンドレさんだよ〜あれ?「こんにちは」は?こんにちはコンニチハハジメマシテ
おでんを作った大塚さんはお酒に純米吟醸甘口を選び熱燗に
(大塚)おでんにはやっぱお燗が合うと思うんで少し甘いぐらいなのでお燗にするともうちょっとやわらかくなって…OtsukasanSogood!エヘン最後までケガをしないように頑張って
日本酒の美味しさを追求する大塚さんはこの冬人気商品のリニューアルを考えていました
それは「しぼりたて」という純米吟醸の新酒を搾ったその日に一切の手を加えず瓶詰するお酒
フレッシュな酸味っていうのをお客さんは求めているのかなっていうのもありまして…
そこで大塚さんは酒母に使う酵母を吟醸らしい香りが華やかなタイプから旨味と酸味のバランスがとれたタイプに味を変更
さらに瓶詰の工程を変えることも考えていました
発酵中の炭酸ガスのシュワシュワ感を瓶に残すような詰め方にしようと
この日早朝から「しぼりたて」の醪を搾る作業が行われました
チャレンジする方法は搾り器のそばに設置したタンクにお酒を入れそのタンクを瓶詰の場所に運ぶというもの
ふだんはパイプを通してお酒を送っているのですがタンクで運ぶほうがお酒への刺激が少なく炭酸ガスが抜けにくいのではと大塚さんは考えたのです
タンクが運び込まれました
果たして狙いどおりの味になったのか?
瓶詰したばかりのお酒を蔵人みんなで試飲します
カンパーイカンパーイ
(大塚)去年よりはガス感はあるんじゃないかなと思いますね
(大塚)うまみと酸味のバランスが取れた酵母を使ってるんで色んなお料理と合わせやすくなってるんじゃないかなと思いますね
「しぼりたて」のリニューアルに成功した大塚さんはさらにある未経験の技に挑戦したいと考えていました
手にしているのはもち米
甘口の純米吟醸があるんですけども今回はそのお酒をもち四段といいましてもち米を使った方法で造ってみようと思ってます
甘口のお酒を造る時多くは四段仕込みと呼ばれる手法を用います
これは三段仕込みを終えた搾る直前の醪に蒸米を糖化したものを加えること
大塚さんが初めて挑戦するもち四段とはその蒸米にいつもの粳米ではなくもち米を使うというもの
三段仕込みまでの作業は無事に終了
ここからおよそ3週間かけて発酵を進ませた後初挑戦となるもち四段造りに挑みます
油断はできないんで毎日見守っていきたいと思います
年が明けたこの日いよいよもち四段の作業を開始
蒸し上がったもち米の状態をチェック
美味しいですもち米おいしいし食べたい人今のうち…
お湯が入ったタンクに蒸したもち米を入れこの中でもち米を糖化させます
もち米がタンクの底で固まってしまいかき混ぜるのも一苦労
大塚さん初挑戦のもち四段は成功するのでしょうか?
もち四段のお酒ができあがる日がやって来ました
前日に仕込んだもち米を糖化させたものを味見します
いよいよ搾る直前の醪が入ったタンクに添加します
果たして大塚さんの理想とする味になるのでしょうか?
醪が搾られもち四段のお酒が出てきました
まずは社長の木村さんが試飲します
果たして気になる反応は?
どうでしょう?お味は
大塚さんも味を確認
そして酒サムライ・アンドレさんの感想は?
酒所・伏見に新たな名酒を生み出した大塚さん
夢のツヅキは?
まだまだ色んな可能性が日本酒には秘められてると思いますので頭を柔軟にしながらですね今までになかったおいしさっていうのをどんどん追求していきたいなと思ってます2016/01/16(土) 11:00〜11:30
ABCテレビ1
LIFE〜夢のカタチ〜[字]/「京都・伏見 唯一の女性杜氏に密着」語り佐々木蔵之介
人生はいろんな夢でできている…夢追う人の輝く瞬間を描きます。今回は「京都・伏見 唯一のママさん女性杜氏に密着▽伝統の技法に挑戦!」です。
詳細情報
◇番組内容
京都・伏見にある招徳酒造。伏見で唯一の女性杜氏・大塚真帆さんが男性の蔵人に混じって日本酒づくりをしています。大塚さんは女性のセンスでラベルデザインも担当。そんな彼女が「もち4段」という、伝統的ではあるが、経験のない技法に挑戦!果たしてどんなお酒が出来上がるのでしょうか?
◇ナレーション
佐々木蔵之介
◇おしらせ
この番組は、朝日放送の『青少年に見てもらいたい番組』に指定されています。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
趣味/教育 – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
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日本語
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