グレーテルのかまど・選「樋口一葉のおしるこ」 2016.01.15


でもちょっと寒がっていませんか?このままにするんじゃないですよね?
一生に一度の甘い誘惑でした。
凍えきった手でそっと包んだおわんの温かさ。
そして体の隅々まで染み渡っていったその甘さ。
男が手ずから出した一杯のおしるこに女の心が揺れます
明治の女流作家樋口一葉
不遇の人生を送る女性たちの姿を情緒豊かに書き上げた人。
しかし彼女の生涯もまた悲哀に満ちたものでした。
評価を受けたのは死の寸前。
一葉は貧困の中で僅か24年の生涯を閉じるのです。
そんな彼女の生涯一度の恋…。
そのクライマックスに登場するのがそう雪の日のおしるこでした
光る石をたどれば行き着く不思議な家にあのお菓子の家のヘンゼルとグレーテルの末裔が暮らしています。
彼らが振る舞うおいしいお菓子の物語をご賞味あれ。
「グレーテルのかまど」へようこそ。
十五代目ヘンゼルこと瀬戸康史です。
うれしい時悲しい時もうひとふんばりしたい時。
一口頬張ると何だか元気が湧いてくるのがスイーツ。
そんな不思議なスイーツの物語を我が家のかまどで最高においしく焼き上げましょう。
今宵ひもとくお菓子は樋口一葉のおしるこ。
樋口一葉…少女時代は古典や短歌に親しんだものの父の死後家は没落。
一家の生活のために小説を書きます。
「たけくらべ」「にごりえ」など社会の底辺に生きる女たちの心の奥底を描き独自の世界を作り上げました。
彼女が16歳から死の数か月前まで書いていた日記。
その日の事もつづられています。
それは一生に一度の甘い誘惑…。
寒い朝でした。
「でも先生はきっと待っていて下さる」。
一葉この時19歳。
借金を残して死んだ父に代わって母と妹の面倒を見る。
そう決心したものの書いたものは全くお金になりませんでした。
どうすれば売れる文章が書けるのか…。
一葉が訪れたのは師と仰ぐ小説家半井桃水の仕事場でした。
彼と初めて会った日の事を一葉はこんな言葉で日記に残しています。
3歳の子どもも懐くような優しげなほほ笑みを浮かべた人…。
そしてあの日訪れた桃水の仕事場。
ところが…。
「ごめんください」。
何度告げても返事がない。
「お留守なのか…」。
あまりの寒さに一葉は玄関に入り部屋の前で待つ事にします。
目の前のふすまに耳を近づけてみると…。

(いびき)「あらいらっしゃる」。
心は躍りましたが起こすのは忍びない。
そして1時間。
いつしか降り出した雪が本降りになった頃。
ふすまが開き慌てた桃水が顔を出します。
次に出す雑誌の事原稿の事など話すうち桃水ふと立ち上がります。
「雪が降らなかったらもっとごちそうするはずでしたが」と隣の家に鍋を借りに行きます。
その鍋を使い手慣れた様子で支度を始めます。
凍えた部屋に立ち昇る湯気…。
それは桃水のふるさと長崎・対馬のおしるこでした。
透き通るような汁の底に小豆が数十粒。
桃水がせめてもと作ってくれた簡素なおしるこ。
「盆もなく失礼ながら箸もこれで」と餅を焼いた箸をそのまま一葉に差し出しました。
しゃれ者の桃水が見せた飾らない姿に彼女の心も和らぎました。
貧困と闘い創作に追われる日々の中でその一杯のおしるこがどれほど温かく甘く感じられた事か…。
う〜んあの2人の恋どうなっちゃうんだろうね〜。
ね〜。
うん。
よし。
今日は俺が姉ちゃんを温めてあげよう。
おっ!?ん?何かいつになく男らしくきたんじゃない?今日。
だってさほら。
ん?「なんかさみしい…身も心も温まりたいグレ」。
ありゃりゃ…こちらもどうしちゃったのかしら?ねっ!何か強い女性の身も心も温めるスイーツっていったらさおしるこしかないでしょ!おしるこいいね。
…って事で目指す味は?と…とろかす!?とかすでしょ!人の心をねうっとりさせるって意味があるのよ。
とろかすには。
ああ〜。
じゃあ今日目指す味は女心をうっとりさせるおしるこって事ね!そういう事。
女心うっとりさせる事。
今日のオキテ言ってみ。
よし!そうそう。
女はね香りにすごく弱いの。
ふ〜ん。
だから今日は小豆の繊細な香りをしっかり引き出していきましょう。
分かった!えっとね冷蔵庫にゆで小豆の作り置きがあったでしょ?あったあった。
ねっ。
ゆでただけの砂糖が入ってない小豆〜。
よいしょ。
よし!ではね〜鍋にゆで小豆と水を入れましょう。
ゆで小豆と水。
そこに水入れるとそのあとに黄ざらめ糖も入れます。
黄ざらめ糖?何黄ざらめ糖って。
普通のざらめにねカラメル吹きかけたものなの。
へえ〜。
これも入れちゃうのね。
そうそうそうそう。
じゃあ入れちゃうね。
桃水さんの作ったおしるこには入ってなかったと思うけどね。
ふ〜ん。
あっちょっとね何かカラメルの匂いがするよ。
本当に?じゃあさ小豆の香りもしてこない?小豆の香り?ああっするする!小豆の香りもする。
黄ざらめ糖ってねほかの砂糖に比べて雑味がすっごい少ないのよ。
ふ〜ん。
だから一緒に合わすものの味をね甘みっていうかすごくうまく引き出してくれるの。
へえ〜。
今夜はここまで!ピッ!えっここまで?はい。
あのね一昼夜置く事で黄ざらめ糖入れたでしょ?あれの糖分が豆にしっかり染み込む訳よ。
ああっそうなんだ。
だから今日はここまで。
分かりました。
今回はねくず粉でとろみをつけようかな〜と。
くず粉で!?うん。
女心っていうのはねこのくず粉の上品なとろみ感に弱い。
へえ〜。
溶きます溶きます。
溶いて…。
くず粉を糸を引くように。
うわ〜難しい。
あんまりねバサッと入れちゃうと粒々が残っちゃうからね。
何か艶がね出てくるはずよもうちょっとしたら。
これまだ〜?どうだろう。
よさそうかな〜?オッケー。
おおっ!止めて止めてお願い。
よし完成だ〜!一葉の心をとろかすような時間は思いがけない桃水の言葉で終わりを告げます。
「雪がますます盛んに降りだしました」。
「もちろん私は自宅に戻る。
あなた一人がこの仕事場に泊まるのですから何の問題もないのです」。
今ここでその言葉に甘える事ができれば…。
しかし私には養わなければならない母がいる。
妹がいる…。
小説でお金を稼ぐと決めたんだ。
一葉は乱れる思いの中で桃水のすすめを振り切り一人帰っていきます。
半井桃水はその後も樋口一葉の文壇デビューを手助けするなど師として何かと面倒を見ます。
一葉はひたすら一家の柱として働きもう二度と誰にも振り向きませんでした。
しかし…。
あの日から数か月後の日記に彼女は思わずこんな言葉を書き残しています。
「あの時の先生の様がそこはかとなく思い出される」。
「涙の乾く間もないほど悲しい」。
僅か24年の生涯でただ一度の甘い思い出…。
それがあの雪の日のおしるこでした。
今度はおしるこに入れるお餅〜。
う〜。
ちょっとちょっとちょっとどう?炭いい感じになってきた?いいんじゃないかな〜。
炭の周り見てよ。
あのね白い皮みたいなのが付いてたら…。
あっ付いてる付いてるよ。
あっ付いてる?それね最高の火加減。
やりました。
やった〜!換気も忘れないで。
それは分かってますよ。
さあお餅を焼くオキテ!言って下さい!はい!ちょっともう訳が分からん!何これ!フフフフッ。
水にくぐらせる事でねお餅の周りあるでしょ?あれが水にぬれてるから蒸すように焼かれていく訳よ。
そうすると軟らかいお餅になるの。
そうなんだ。
いいでしょ?いいキメテでしょ?水にしたたらせ…。
難しいねしたたらせた!じゃあ水に…これさ網は熱くしておかなきゃいけないの?これ。
絶対駄目なの熱くしとかなきゃ。
へえ〜。
なぜかというと熱くしてあるとお餅がくっつかないのね。
ふんふんふんふん…あっそうなんだ。
そのため。
中途半端な熱さだと下にペタペタひっついちゃって。
大失敗みたいな事になるので。
そうなんだね。
すごいすごい!めっちゃ焼けてきてる!あ〜本当かわいいかわいい!これひっくり返していいのかな?ひっくり返してみてよ。
お〜すごい!これいいね。
美しく焼けてるねすてきね。
いいいい。
これいいでしょ。
うわっきれい。
ねっ。
よし。
ちょっと一息TEABREAK!ねえねえおしるこって関東と関西でややこしい事になっている事ご存じですか?関東でおしることいえばこしあんでも粒あんでもどっちでもおしるこ。
おしるこって言ったらおしるこ。
でもこれが関西だとこしあんならおしるこ粒あんならぜんざいって呼ぶんです。
まっどっちでもいいんだけど。
こちらは東京・浅草。
おしるこで有名な老舗。
今も毎朝5時から小豆を炊いてあんを練ります。
おしるこってその昔はお茶屋遊びの帰りにも楽しむものだったそうよ。
こうして150年以上変わらぬ味を守ってるんですね〜。
まろやかな甘さかの永井荷風も愛した大人のおしるこです。
明治の世相を記した本には……とあります。
当時は今の喫茶店のように町にたくさんおしるこ屋があったみたいですよ。
ねえねえところでこちらのお店いつの頃からかお客さんの間でこんな伝説が語られるようになったんですって。
ほんわか甘くて温か〜いおしるこ。
おしるこには本当に男と女の心をとろかせるパワーがあるのかもしれませんね。
さあさあそういう事でもうひと頑張りです!えっまだあんの?えっ「まだ」ってあなた。
女心をとろかすためには見た目が大事。
トッピングしちゃいます。
トッピングか。
道明寺粉って分かる?えっ知らないどれ?お米の粒みたいなの。
黄色っぽい。
これっ!?それそれそれ。
もち米を蒸して乾燥させたものなんだけどそれを煎りましょう。
これ煎るんだ。
まずね鍋温めて下さいね。
鍋を…。
ごま煎ってるみたいな感じっていうの?常に振りながら…あのね感心する度に止まらない…。
ガンッてやらないように。
止まらないように。
止まらないように…。
よっ。
お米みたいなのがどんどん膨らんでくるから…。
ちょっと膨らんできたよさっきより。
(笑い声)止めないでって言ってるのに。
見たくて。
(鍋をぶつける音)うるさい。
うるさい。
ガ〜ンッてなっちゃった。
フフフッ。
よいしょ。
ねえこれさ。
思ったけどさあられだね。
おっほいほい。
はいそのあられを最後に飾ります〜。
なるほど〜。
じゃああとは付け合わせいきましょっか。
付け合わせ。
ゆずシャーベットでいきましょう!おお〜ゆずシャーベット?はい。
えっおしるこに?そう。
熱いもの食べたあとに冷たいもの食べると口直しになるしね。
ああ〜。
一葉さんが食べたのも雪の日だったしシャーベットって雪みたいだしね。
ハハッ何唐突にロマンチックな事言ってんの?ロマンチックだしょ?ちょっと。
「だしょ?」って。
女心分かってるね?もう最初っから分かってるよ。
そんなの。
ス〜ハ〜。
調子に乗んなよ〜!すんません!ゆずの皮をシュルシュルとすりおろして。
これ黄色い部分だけね。
白い所をやるとね苦くなっちゃうから。
そうなんだ!そうそう円円それそれ…。
これだ!汁を…。
おお〜!ん〜!ん〜!ん〜!ハハハハハッ。
よし。
ハハハハハハッ。
ん〜!ハハハハハハッ。
よっし!かまど笑い過ぎでしょ。
頑張ってる。
あのね言っていい?ん?あんまり絞り過ぎると苦くなります。
(笑い声)先に言えばよかった。
完全に絞り過ぎたよこれ。
恋を捨て執筆に専念し数多くの名作を残した樋口一葉は明治29年24歳でその生涯を閉じます。
日記が発表されたのは彼女の死から16年後の事でした。
そこで明らかになった一葉のひそかな恋…。
一葉が心にしまっていた半井桃水への思いはさまざまな臆測を呼びました。
特に我こそは彼女の相談相手と自認していた同人誌の仲間たちはショックを受けます。
そしてその矛先を桃水に向けました。
仲間の一人平田禿木は言います。
一方桃水はそんな評判を受け流し一葉についてこう述べています。
一葉という女性は恋の歌や小説を生み出す人であって実際に行動した人ではない。
桃水は多くを語らずその真実は誰にも分かりませんでした。
そんな男に思いを寄せそんな男が作ってくれたおしるこだったからこそ一葉の心は温かく包まれたのです。
樋口一葉のおしるこ…。
それははかない生涯の中で彼女が見たただ一度の甘い夢。
(チャイム)あっ姉ちゃん帰ってきた!姉ちゃん!今日はとろけるよ〜!一葉の恋をイメージしたおしるこ。
くずのとろみがなめらか。
トッピングのあられそして付け合わせのゆずシャーベットがあの日の雪を思わせます。
姉ちゃん今日は素直な女性って感じになってたな〜。
よしっ。
何か僕が思うに桃水さんは寒い中来てくれた一葉さんのために温かいおしるこを作ってあげた訳で桃水さんも多分一葉さんに気があったんじゃないかなと僕はすごく思っていてまあ一葉さんは一葉さんで桃水さんの事が好きなんだけど好きな気持ちを伝えられずに仕事に専念しなければいけないというすごく切ないんですけどすごく温かい話でしたね。
じゃあちょっと失礼して…。
シャーベットもあるんでシャーベットかけて食べよう。
頂きます!これ何か雪みたいだなこれ。
ん〜!温まるな〜。
とろかせたい女がもう一人いるねこの家にはね。
やっぱ寒い時に食べるおしるこいいね。
ん〜。
かまどをとろかすには1万年早いわ!何年生きてると思ってんの!何年生きてるんだっけ?2016/01/15(金) 21:30〜21:55
NHKEテレ1大阪
グレーテルのかまど・選「樋口一葉のおしるこ」[字][デ]

温かい「おしるこ」が恋しい季節。明治の女流作家・樋口一葉には、おしるこにまつわる切ない逸話がある。雪の降る日、淡い恋心を抱く男性から振る舞われたおしるこの味とは

詳細情報
番組内容
「たけくらべ」「にごりえ」で知られる作家・樋口一葉。東京・下町の貧窮生活の中、一家を支えるため職業作家に。明治24年の冬、執筆の助言を得るため新聞小説家・半井桃水を訪ね「おしるこ」をごちそうになる。その温もりは薄幸だった一葉に淡いい恋心を目ざめさせた。スタジオでは「一葉日記」に記されたおしるこを再現。女心をつかむおしることは?とっておきの付け合わせもご紹介する。
出演者
【出演】瀬戸康史,【語り】キムラ緑子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
バラエティ – 料理バラエティ
情報/ワイドショー – グルメ・料理

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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