阿部
「政府が目指す『観光立国』、その課題についてです。」
和久田
「日本を訪れる外国人観光客は、先月(10月)の時点で、およそ1,500万人と、過去最高だった去年(2014年)1年間の人数を、すでに上回る勢いで、その経済効果に国も大きな期待を寄せています。」
阿部
「しかし、その観光客の大切な足となる観光バスの業界に、今、深刻な問題が持ち上がっています。」
阿部
「政府が目指す『観光立国』、その課題についてです。」
和久田
「日本を訪れる外国人観光客は、先月(10月)の時点で、およそ1,500万人と、過去最高だった去年(2014年)1年間の人数を、すでに上回る勢いで、その経済効果に国も大きな期待を寄せています。」
阿部
「しかし、その観光客の大切な足となる観光バスの業界に、今、深刻な問題が持ち上がっています。」
静岡空港です。
東京と大阪の中間という立地の良さ、さらに世界遺産となった富士山を目当てに、今、中国人観光客が急増しています。
中国人観光客
「行くところ見るところ、全部楽しみ。」
今年(2015年)の国際線の利用者は去年(2014年)の2倍以上のおよそ31万人。
空港や周辺のホテルは連日、大勢の観光客で賑わいをみせています。
しかし、その経済的な恩恵が必ずしも及んでいないのが、観光バス業者です。
「ドライバーどうしで話をしていると、1日1万円くらいで12時間働いて。
コンビニ(のアルバイト)より安い。」
観光客の増加が、なぜバス業者の利益につながらないのか。
静岡県内の業者から話を聞くことができました。
社長の有賀重裕(ありが・しげひろ)さんです。
従業員6人を雇い、中国人観光客を乗せる観光バスを運行しています。
この会社がバスを運行したツアーです。
富士山や東京などを周りますが、1日あたり受け取る料金は7万円。
人件費や燃料代を差し引くと、ほとんど利益はでないといいます。
バス会社 有賀重裕社長
「運賃の設定が非常に低いレベルで設定をしてある。
相当回転させないと利益出せない。」
受け取る料金が安く抑えられている理由。
有賀さんが指摘するのが、「ランドオペレーター」という業者の存在です。
ランドオペレーターは、日本にいながら中国の旅行代理店から仕事を受注します。
日本に事務所を持たない旅行代理店に代わって業務を行う仲介業者の役割を担います。
指定された予算で、宿泊先やバスの手配を行うのです。
バス業者への支払いを安く抑えれば抑えるほど、ランドオペレーターの利益は増える仕組みになっています。
現在、急増している中国からのツアーの多くにこのランドオペレーターが関わっているといいます。
中国から来日し、ランドオペレーターをしている女性が取材に応じました。
年間300件もの仕事をこなすという、この女性。
全国各地から、少しでも安い価格で仕事を受ける業者を探すことが欠かせないといいます。
ランドオペレーター
「(安い業者が多いのは)千葉県・三重県・愛知県、山の奥の県(のバス業者)はある程度、料金に応じてくれる。
バス代を安く抑えなきゃいけない、抑えないと(ランドオペレーターは)全く利益が出ない、赤字になるだけ。」
日本人ツアー客が伸び悩む中、バス業界にとり、中国人観光客は今後も増加が見込める数少ないビジネスチャンスです。
有賀さんの会社も生き残りをかけて、料金を低く抑えられても仕事を受け続けました。
少しでも利益を出すために、営業が認められた範囲を超えてバスを走らせることが増えていったといいます。
その結果、今年8月、この事実が発覚し、バスの運行を100日間止められる行政処分を言い渡されました。
バス会社 有賀重裕社長
「運転手の給料、最低を割ることはやっぱり不可能。
仕事薄いならまだいいが、なかった時があったので、やらざるをえない。」
今、この会社のように利益を出そうとするあまり、法令違反を犯すバス業者は少なくありません。
去年、全国の運輸局が空港などで観光バスを対象に抜き打ちで監査をした結果、およそ4割のバスが何らかの法令違反を犯していたことが明らかになりました。
こうした違反が事故につながるケースも出始めています。
今年4月、中国人観光客15人にけがを負わせたこの事故。
車体の安全検査をする時間を削り、バスを走らせ続けた結果、ブレーキがききにくくなっていました。
理由についてバス会社の社長は「仕事を断ればもう依頼が来なくなると思った」と話しています。
こうした事故は全国各地で相次ぎ、観光客の安全を脅かす事態となっているのです。
危機感を持った国は対策に動きました。
去年4月、新たな制度を立ち上げ、ランドオペレーターからバス業者に支払われる料金が高くなるようにしたのです。
しかし取材を進めると、新たな制度が守られていない事実が明らかになりました。
30台の観光バスを保有するこのバス業者。
ランドオペレーターから毎月40件ほどの依頼がくるといいますが、新しい料金を提示されたことは1件もないと証言しました。
バス業者
「今、“新料金でやってくれ”という(ランドオペレーター)はいない。
(ランドオペレーター)だって出したくない、いくらかでも抑えたい。」
新しい制度では、バス業者の料金は静岡空港から富士山、そして東京を回った場合、これまで1日7万円ほどだったのが13万円ほどに引き上げられるはずでした。
しかし、この業者のもとにランドオペレーターから送られてきた依頼書を見せてもらうと、料金の欄は空欄となっています。
料金の交渉はすべて電話で行われ、そこで示される額は新たな料金の水準を大きく下回るといいます。
それでも業者の立場上、その要求を飲まざるをえないのが実情です。
バス業者
「(ランドオペレーターに)まともに新料金ぶつけたら、この仕事はなくなる。
(安い料金でも)やるところがあるから、そっちにいってしまう。
(仕事がない業者は)それ以下でも欲しいっていうか、自分で自分の首を絞めている、そういうところが多い。」
阿部
「取材にあたった静岡放送局の髙橋記者に聞きます。
今、中国などから多くの観光客がやってきて、各地、経済的な恩恵を受けて潤っているかと思いきや、バス業者は大変なことになっていたんですね。」
髙橋記者
「私が今回、取材のきっかけにしたのは、リポートもあった浜松市のバス事故です。
取材の過程でいろいろなバス業者の方からお話を聞いていますと、事故に至ることはなくても、今も多くのバス業者が安い料金で無理な運行を重ねていることがわかってきました。
そしてそれが全国的な問題に広がっているということで、私も取材していて非常に驚きました。
何より観光バスの安全が脅かされるということは、現在観光立国を目指して外国人観光客が順調に増えている中で、その足元を揺るがしかねない深刻な問題だと感じました。 」
和久田
「バス業者に支払う料金を引き上げるために導入された新しい制度、どうして守られないのでしょうか?」
髙橋記者
「はい、この点について国にただしたところ、違反を見つけだすための『監査』を行う職員の数が足りていないことを認めました。」
国土交通省 バス産業活性化対策室
「監査については、必要な増員を要求して参りたい。
安全を重視した運行が行われるように、各事業者が順守するよう、国として環境整備に努めて参りたい。」
髙橋記者
「さらに、現在の法律では、新しい料金制度が守られなかった場合、バスを運行するバス業者は罰則の対象となりえるんですが、仕事を依頼する方のランドオペレーターはその対象に含まれません。
こういったことも1つの問題になっていると思います。」
阿部
「5年後には東京オリンピックも控えていますし、日本にとってはこれは大きな問題ですよね。」
髙橋記者
「その通りだと思います。
日本といえば『おもてなし』の姿勢に加え、外国人観光客の方から見ると、安心・安全に旅行できる土地としてのイメージがあると思います。
そしてそのイメージが、今日までの外国人観光客の増加を支えてきた側面もあると思います。
そうしたことを考えると、万が一、大切な移動手段である観光バスで大きな事故が起きた場合に、その損失は計り知れません。
早めに、今のうちから対策に乗り出す必要があると感じています。」