大晦日でのケルンでの集団犯罪を受けて難民問題が大きく議論されていますが、この犯罪を受けて議論されている対策には大きな偏りがあり、いくつかの課題を含んでいます。扱いを誤まると、極右への支持が急速に広がる可能性も秘めています。
しかし、その偏りを見るためには、この原因探しの努力を見ない限りその問題性が見えてきません。そのためまずは、ドイツ人はこの集団犯罪の原因をどのように捉えているか見ていきます。
まず、メディアでの報道を元に、ドイツ人がどのようにこの問題の原因を捉えようとしているのか整理してみます。
この問題の原因は大きく分けて、①大晦日の現場で起きたことと②その後の警察の対応に分けられます。そして①大晦日の現場で起きたことでは イ.容疑者の行動と ロ. 警察の対応に分けてみることができます。
この構図に従って、ドイツ・メディアの言説を追ってみます。
①2015年12月31日のケルンでの現場で起きたことの原因探し
イ. 容疑者の行動
ここではまずは容疑者側の動機に今回の事件の原因を見ようとする記事が見られます。
一つ目の原因は、アルコールと花火に難民が慣れていないということです。
この記事では、難民はアルコールと花火を節制をもって楽しむことに慣れておらず、酔っ払って制御を失ったことが今回の事件だとある難民はインタビューで答えています。
二つ目の原因は、イスラム圏での女性の扱いです。
カイロでは20世紀に、急速な人口流入によって都市文化がリベラル性を失い、「農村化」が進んだとしています。そこでは経済的な上昇の可能性を失った農村出身者が、農村から持ち込んだ価値観を都市でも維持し続けたとしています。
そうした価値観の下で、成年男性は必要な結婚資金をためることができず、性的な不満がたまり、性犯罪が多発しているということです。
興味深いのが、その性犯罪の例として電車での性犯罪を挙げて、その対策としてカイロの電車での女性専用車両について書いています。日本も痴漢や女性専用車両があって似ているのですが、これってどのように説明すればよいのでしょうか。
話がずれましたが、女性への性犯罪が「日常」となっているアラブ世界から、難民がその行動様式を一緒に持ってきているのではないかということがこれらの記事の趣旨です。
ロ. 現場での警察の対応
次に、容疑者とは別の当事者であるのが警察です。そのため、警察の側にもこの事件の原因を探る意見が出てくるのは必然でした。
この点では、容疑者の数が多く、警察は人数的にも、装備の面でも取り締まることができなかったという証言がされています。
それは偶然その場に駆けつけた警察官が少なかったのではなく、警察官が恒常的に人手不足に陥っており、規定の定員に達していないということが原因とされています。加えて、ケルンを含むノルトラインヴェストファーレン州の警官が、難民対応のために南部バイエルンの国境に派遣されていたことが人手不足に拍車をかけたという発言も、組合側からなされています。
②その後の、おもに警察の対応
ここではおもに警察による「事実の隠蔽」が問題にされています。
警察は当初、ケルンでの大晦日は平和的であったとし、中央駅で起きたことは発表していませんでした。
この対応も批判されましたが、それよりも警察は内部では報告があったにもかかわらず、容疑者のプロファイルを公表するのをためらっていました。
そのため、容疑者が難民である可能性があることをはっきり話しませんでした。警察は、今回の対応が、容疑者報道で所属宗教や民族について述べないという報道コードに従っただけだという説明をしています。political correctnessが警察の言い分です。
これが、メディアや警察による「事実の隠蔽」とネット上で批判されることになっています。
議論されている対策の偏向性
このように、ドイツでの原因探しの言説を見てくると、ドイツで今議論されている対策には抜け漏れがあります。すなわち、捜し求められる原因は以上の三つにも関わらず、政治で議論されているのは①イ.に関するものに集中しています。
原因と議論されている対策の対応関係(「→」は議論されている対策)
①大晦日の現場で起きたこと
イ.容疑者の行動
→難民向けの、ドイツ社会への順応を進める学習支援を強化
→犯罪を犯した難民への強制送還措置適用の厳格化
ある公営プールが、18歳以上の難民の入場を禁止していることが議論を呼んでいますが、これも、アラブ圏での女性観を問題視することから生じた措置でしょう。
ロ. 警察の対応
→これに対応した対策の議論は現在のところ見当たらない
②その後の警察の対応
→これに対応した対策の議論は現在のところ見当たらない。そのためこの議論は、極右によるメディア・政権批判の温床となっている
ケルンでの集団犯罪を受けての対策に潜む問題性
難民の文化に原因を求める「①大晦日の現場で起きたこと イ.容疑者の行動」とそれへの対策は、「外」に原因を求める性格を帯びているため、ドイツ人にとって今回の集団犯罪の教訓として受け入れやすいでしょう。
他方で、「①大晦日の現場で起きたこと ロ.警察の対応」って重大な問題の気がしますがあまり表立って議論されませんね。警官の不足は直接治安に関わってくるはずです。
加えて「②その後の警察の対応」についても徐々に議論されてはいますが、そのままにほうっておいて極右にプロパガンダの材料として使われてしまいます。なんらかの対応が必要でしょう。
以下の記事では、ドイツの政策のブレが難民政策と移民政策の混同にあることを論じているので併せてご参照ください。
大晦日の花火についての記事も書いております。
難民収容所が近くにできたときの住民説明会に行ったときの記事も併せてご参照ください。
軍事史について本も書いておりますので、併せてご覧下さい。