2016年1月16日に実施された台湾総統(大統領)・立法委員選挙は、事前から予想はされていたものの、総統には蔡英文・民進党主席が対立候補の朱立倫・国民党主席に300万以上の票差をつけて当選、同時に実施された立法委員選挙(定数113議席)でも、民進党は68議席を獲得したのに対して国民党は35議席に止まり、民進党の大躍進、国民党の大幅な退潮が際立つ。華人世界で初の女性総統誕生という点でも大きな話題となった。韓国のパク・クネ大統領など、アジア各地でこれまで誕生した女性大統領はすべて世襲なので、本格的な意味でアジア最初の女性大統領になったと言っても過言ではあるまい。
さて、今回の開票速報を見ながら感じていたことを取り急ぎ箇条書きしておく。基本的には、民進党が積極的な支持を受けたというよりも、国民党・馬英九政権の失敗が続き、それに対して渦巻いていた不満・反感を民進党はうまく拾い上げることができたと言えるのではないか。
・日本のメディアで民進党を紹介するとき「台湾独立志向の」という枕詞がつくことについて。民進党成立の経緯から考えて間違いとは言えないが、ただ今回の選挙に関して、例えば、両岸関係の現状維持を主張、中国とも対話の用意はあると表明するなど(むしろ、国民党側から「自分たちの政策とどこが違うんだ?」と突っ込まれていたほど)、民進党は独立派色を極力薄める努力をしていた。両岸関係の現状維持が台湾輿論の多数を占めており、民進党もそこに合わせる努力をしていた以上、「独立派」というレッテル貼りで説明してしまうのは実情に合わないと思われる。
・台湾・立法委員選挙不分区(比例代表)政党別得票率を見ると、民進党の44%に対して国民党は約27%となっており、国民党の退潮が著しい。3位の親民党6.5%は宋楚瑜が長年培ってきた固定票が中心だろう。4位につけたヒマワリ学生運動にルーツを持つ新党「時代力量」の6.1%という数字は、浮動票頼みであろうに親民党と匹敵する実績を示したのはすごい。ただし、浮動票に依存している以上、次回選挙でもこの勢力を維持できるとは限らない。5位の「新党」(李登輝路線に反発して国民党を離党した統一派の政党)、6位の台湾団結聯盟(李登輝を精神的指導者とあおぐ台湾独立派)、7位の緑党社会民主党聯盟などは比例代表で求められる5%という制限をクリアできず、議席獲得はならなかった。やはり比例代表5%の壁は厳しい。定数113議席のうち34議席と割合も少ない。台湾は文化的多元性を社会的コンセンサスとしているわけだから、選挙制度でも国民党と民進党の対決構図に収斂させてしまうのではなく、少数意見を持つ政党がもっと進出しやすくなればいいのではないか、とよその国のことながら思う。
・今回の台湾総統選挙の投票率は65%で、前回74%、前々回76%と比べて大幅に減少している。今回、蔡英文が獲得した689万票は前回の馬英九の得票数とほぼ同じ数字だが、その時に対立候補として出馬した蔡英文自身の得票も609万票ほどであった。ところが今回の朱立倫の得票は380万票に過ぎない。つまり、蔡英文が上積みした分よりも、朱立倫が馬英九当時の得票から減少させた分の方がはるかに大きいのである。国民党批判の受け皿として民進党の蔡英文が一定程度まで支持されたと考えて基本的に間違いはないだろう。ただし、国民党の伝統的支持層の棄権者が多くて集票マシーンが機能しなかった点も考慮する必要がある。民進党の支持者が増加したことよりも、国民党支持層の国民党離れの方がはるかに深刻な影響を及ぼしたようにも考えられる。
・新党「時代力量」からは、ヒマワリ学生運動のリーダーの一人であった黄國昌(法律学者、中央研究院研究員)、ヘビメタ・バンド「ソニック(ChthoniC、閃靈樂團)」のボーカル林昶佐(フレディ)、弟が兵役中に死んだことについて真相究明の運動を起こした洪慈庸の3人が選挙区で当選、比例代表と合わせて5人の勢力となり、初挑戦ながら親民党を抜いて第三党にまで躍進した。「時代力量」は主に若者、藍緑対立に辟易している浮動票にアピールしたと考えられるが、選挙区当選の3人はそれぞれ国民党のベテラン候補を見事に打ち破った。「時代力量」は第三勢力を標榜しながら、総統選挙では蔡英文を積極的に支持、民進党の別動隊のような印象すらあった。民進党政権が発足後、政権に対してどのようなスタンスを取るのだろうか。
・いわゆる「統一/独立」問題ばかりが台湾社会の争点ではない。藍/緑の二党構造に辟易している有権者も多く、そうした人々の受け皿として第三勢力が求められていた。2014年末の九合一選挙(統一地方選挙)で巻き起こった柯文哲現象はその表れであろう。「時代力量」もそうした期待に見合っていたと言える。同時に、民進党もそうした気運をきちんと踏まえて、無党派を取り込むべく選挙戦略を練ってきたからこそ、今回の勝利につながったのではないか。逆に言えば、緑色路線を強く打ち出してしまったら、支持率は下がる。中道路線で行くしかない。独立色も薄めて現状維持で行くしかない。その上で、経済的・社会的イシューで実績を残さないと民進党は次の選挙で負けるだろう。
・新党「時代力量」からは、ヒマワリ学生運動のリーダーの一人であった黄國昌(法律学者、中央研究院研究員)、ヘビメタ・バンド「ソニック(ChthoniC、閃靈樂團)」のボーカル林昶佐(フレディ)、弟が兵役中に死んだことについて真相究明の運動を起こした洪慈庸の3人が選挙区で当選、比例代表と合わせて5人の勢力となり、初挑戦ながら親民党を抜いて第三党にまで躍進した。「時代力量」は主に若者、藍緑対立に辟易している浮動票にアピールしたと考えられるが、選挙区当選の3人はそれぞれ国民党のベテラン候補を見事に打ち破った。「時代力量」は第三勢力を標榜しながら、総統選挙では蔡英文を積極的に支持、民進党の別動隊のような印象すらあった。民進党政権が発足後、政権に対してどのようなスタンスを取るのだろうか。
・いわゆる「統一/独立」問題ばかりが台湾社会の争点ではない。藍/緑の二党構造に辟易している有権者も多く、そうした人々の受け皿として第三勢力が求められていた。2014年末の九合一選挙(統一地方選挙)で巻き起こった柯文哲現象はその表れであろう。「時代力量」もそうした期待に見合っていたと言える。同時に、民進党もそうした気運をきちんと踏まえて、無党派を取り込むべく選挙戦略を練ってきたからこそ、今回の勝利につながったのではないか。逆に言えば、緑色路線を強く打ち出してしまったら、支持率は下がる。中道路線で行くしかない。独立色も薄めて現状維持で行くしかない。その上で、経済的・社会的イシューで実績を残さないと民進党は次の選挙で負けるだろう。
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