2016-01-17

結婚しようと思う

男が嫌いだった。

恋愛対象は男。でもデリカシーがない男は嫌い。学生時代クラスメイト男子コンプレックスを笑われてから、軽い男性不信になっていた。

20歳になる少し前に恋人ができた。初めて付き合ったひと。彼女は9つ上のひとで、黒目の綺麗な大人の女性だった。この表現が合ってるのかわからないけど、初めて抱かれたのもそのひとだった。同性愛偏見はないし、BL百合も好きだったからさして違和感もなかったのだけど、自分まさか同性と付き合うことになるとは思っていなかった。あくまで私の恋愛対象は男。なのに付き合おうかと言われてそれほど悩まずに頷いた私は馬鹿だったんだろう。

彼女はいろんなことを教えてくれた。お酒の飲み方、タバコの味、キスの仕方、一緒のベッドで寝ること、オーガズムの迎え方。そして彼女は私をぐちゃぐちゃに愛して、ぐちゃぐちゃにしたまま去っていった。気まぐれに愛してくれた、綺麗なひと。あれが恋だったのかさえわからないけど、かけがえのない時間だった。

21歳の夏、初めて彼氏ができた。新しく始めたバイトの、同い年の男の子。いい人だった。優しくて、真面目で。正直顔も性格タイプじゃなかったけど、男の人に告白されたのは初めてだったし、何度も何度も私のことを可愛い、好きだと言ってくれたから付き合うことにした。あの頃は自分に自信をつけるのに必死だった。男に可愛いと褒められるのはなかなか悪くなかった。彼は一生懸命私のことを大事にしてくれた。でも結局好きになれなくて1ヶ月で別れた。

冬に次の彼氏が出来た。また同い年の男の子内定先の大元が同じで、私よりうんと学歴の高い、エリート君だった。なによりイケメンだった。背も高くて、それなりに女遊びもしてきたんだろう、所作スマートだった。でも、ハイスペックからなのか知らないけど、いつも誰かを見下していた。例えば大学の後輩を、例えばバイト先の先輩を、例えば道端で見かけたおじさんを。一緒にいると苦しいな、と思っていたらあっさり振られた。

その後も合コンに行ってみたり、婚活に行ってみたり、はたまた友達の紹介で男の人と飲みに行ったりしてみた。この辺りでふと違和感を覚えた。彼女は、時には母のように、姉のように、親友のように、惜しみなく私を愛してくれた。まさしく母性愛だとかそういうものと同じカテゴリーだったのだろう、惜しみない愛情を注いでくれた。多分私は恋人ではなくペットかなにかと同じ位置付けだったんだろうけど、それでも家族以外にあれだけの愛情を与えられたのは初めてで、あんなにも満たされたのも初めてだった。それと比べて男たちのこの惨状はなんだ。くだらないプライドコーティングされた下心と隠しきれない男臭さ。これはなんだ。好きだと言われたら嬉しかった。可愛いと頭を撫でられたら自然笑顔がこぼれた。手を繋げばときめいた。抱きしめられれば脳幹が痺れるようだった。でも、押し付けられた股間の浅ましさ、強引で気持ちよくもなんともないキス、女はこうあるべきだと言葉の裏に透けて見える価値観押し付け。これは一体なんだ?これが世に持て囃される男女の恋愛なのか?本当に好きになった男としかセックスはしない。そう心に誓った。

うんざりしてきた頃に、12歳上の彼氏が出来た。ひと回りも下の小娘を、彼は宝物でも扱うか如く優しく優しく大事に扱ってくれた。きっと大学卒業したばかりのオンナノコに戸惑っていた部分もあったのだろう。彼は決して自分欲望押し付けてはこなかった。待ってくれた。誠実な人だった。この人ならいいかもしれないと思った。もういい歳だしそろそろ結婚したいんだ、という彼の隣でウェディングドレスを着て笑う自分想像した。両親に初めて付き合ってる人がいることを言った。両親は戸惑った顔で反対していたけど、そんなことどうでもよかった。この人なら好きになれるかもしれない。その予感で胸がいっぱいだった。

でも、そうはうまくいかなかった。私も彼も無理をしていたのだろう。彼は結婚したくて相手を探していたのだから初恋の予感に浮かれるオンナノコではいけなかったのだと思う。私もいつも背伸びをしていた。お互いいつも気を遣っていた。そうして彼は電話に出てくれなくなった。LINEの返事も来なくなった。限界だと思った。

友達と飲んで、別れてからも飲み足りなくてひとりでぶらぶらしていたら、地元の駅でいつものように路上で歌う人がいた。いつもなら素通りするのだけど、何故だか気になって足を止めた。アコースティックギターを抱えたその人は、たくさんの人に囲まれて歌っている二人組に背を向けて、人通りの少ない方の出口で歌っていた。夏の終わりなのにひどく冷える夜だった。半袖では肌寒かったし、12cmのピンヒールで足はくたくただったけど、どうしてか帰ろうとは思わなかった。少し離れたベンチに座って、何をするでもなくぼぅっと彼を見ていた。別段ものすごくうまいわけではなかったけど、不思議と耳に馴染む歌だった。何曲か聴いた後、彼と目があった。彼のすぐ隣で聞いていた顔なじみらしいおじさんが、「姉ちゃん聞くならこっちおいでよ」と声をかけてきた。彼も「よかったら」と笑った。酔っ払っていたのもあって、ふわふわしながら彼の隣に腰を下ろした。

彼の隣はひどく居心地がよくて、曲の合間にぽつぽつと色んな話をした。初対面の相手に話すことじゃないと今なら思うのだけど、今付き合ってるひとともう限界なこと、今までの男性遍歴、男という生き物に対する不信感、そして本当に好きなひととしかセックスしないと決めたけど、このままだと誰のことも好きになれず、誰からも本当の意味で好きにはなってもらえないんじゃないかと思っていること。彼はギターの弦を弾きながら私の話を聞いてくれた。そんな風に言うものじゃない、今はちょっと疲れちゃってるだけですよ、大丈夫ですよ、なんて言いながら。思う存分愚痴を吐いたらだいぶすっきりして、最後まで彼の隣で彼の歌を聞いていた。彼の代わりに楽譜をめくったり、彼の上着を借りたりしていたら何度か酔っ払いのおじさんたちに「彼氏と仲良くな」とからかわれたけど、そのたびに二人して「初対面ですから」とつっこみをいれた。楽しい夜だった。

歌い終わって、深夜のファミレスで二人でご飯を食べた。食べきれなかった私のちゃんぽんは彼がさらえてくれた。私からお皿を受け取った彼は、残っていたえびを見つけると、「えび食べたくてこれにしたんだよね」とスプーンですくって私に差し出した。何かおかしいな?と思いながら、彼の手からえびを食べた。ファミレスを出て、コンビニで雪見大福ホットミルクティーを買ってくれた。雪見大福は半分こして食べた。朝まで彼とふたりで色々な話をした。実は同い年だと知った。家族のこと、仕事のこと、恋愛のこと、結婚のこと。初めて一切見栄を張ることも嘘をつくこともなく自分のことを話した。半年分は話したんじゃないかと思うくらい、本当に色々なことを話した。数時間前に知り合ったはずの彼について随分詳しくなっていた。夜中、人通りのなくなった駅裏で私のためだけに歌われるラブソング映画のワンシーンみたいだ、と柄にもなく思った。

朝日が昇ってきた頃、告白された。

何故かはわからないけど、私はこの人とずっといるんだろうなぁと、予感がした。

それからは、時間の許す限り一緒にいた。彼は見かけによらず固い仕事をしていて、それでいてものすごく仕事に対して真摯で上昇志向目標意識の高い人だった。私は夜勤ありの不定休の仕事だったから、普段は仕事終わりにご飯を食べに行くのが精一杯だったけど、それで十分だった。車の中でギリギリまでたくさん話をした。たくさん喧嘩をした。本気で腹が立ったことも何度もあった。でもその度に彼のことを知ることができたし、好きなところが増えた。そう、彼のことを好きだと思った。初めて本気で好きになった。本気で好きになったから、数えきれないくらい泣いた。そして一度だけ泣かせた。お互い本気だったから譲れなくて、何度も何度も喧嘩した。バックグラウンドも含め、かなり踏み込んだことまで晒しあった。食事の趣味は合いすぎて怖いくらいだった。金銭感覚もズレを感じたことはなかった。彼には家庭に対する憧れと理想があって、それはほとんど私の思い描いていたものと同じだった。彼は私をものすごく大事にしてくれた。しんどいとき、甘やかしてはくれなかったけど欲しい言葉をど真ん中に投げてくれた。出来うる限り私を優先してくれた。私を好きでいてくれた。

初めてセックスした時、正直痛いばかりで気持ちよくはなかった。でも、愛おしいなぁと思った。彼女セックスした時も気持ちよかったけど、あの頃は与えられるだけで十分だった。そうじゃなくて、与えたいと思った。この人に気持ちよくなって欲しいと思った。2回目のセックスからはそれなりに緊張も解けて痛みは一切なかった。回数を重ねるごとに気持ちよさが増した。

彼が長いこと出張に行くことになり、帰ってきたら結婚しようと言われた。紆余曲折あって、最初は反対していた両親も応援してくれるようになった。周りにはまだ若いのにとか、早すぎるんじゃないかとか、いろいろ言われるけどそんなことどうでもいい。これは間違いなく私の初恋だ。この人が初めて好きになった人だ。私は彼と結婚しようと思う。これだけ信頼して自分さらけ出しあった相手とうまくいかなかったら、それはもう仕方のないことだと思う。彼のために生きたいとは思わないけど、一緒にこれからの生を歩んでいきたいと思うし、これから先もずっと彼の隣には私がいて欲しい。

私は彼と結婚しようと思う。彼とふたりでしあわせになろうと思う。

そう意気込んでみてもさみしいものはさみしいから、早く帰ってきてください。待ってるから

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