予想を超える大差がついた。きのう投開票された台湾の総統選は野党・民進党の蔡英文(ツァイインウェン)主席が勝利した。同党にとっては8年ぶりの政権復帰となる。

 蔡氏が掲げたのは中台関係の「現状維持」である。この民意を踏まえることが、中国や他の関係国にも求められる。

 敗北した与党・国民党は、中国に接近しすぎたとみられた。国民党政権は、定期直行便を開設するなど対中関係の改善を進め、一部の企業や人々は潤ったが、社会の不平等が広がったとの不満もたまった。

 民進党は、大陸から来た国民党の独裁に抗する台湾生まれの政党として、30年前に結成された。基本認識は「台湾は中国とは別の独立主権国家」である。

 だが選挙戦で蔡氏はそれを前面に出さず、中台関係の「現状維持」を言い続けた。国民党に待ったをかけたが、全面否定したのではない。民進党政権になれば中台関係が不安定化する、という内外にありがちな印象をぬぐう狙いだろう。

 国民党や中国共産党は、その点を攻めた。両党は共に中国の正統政権を主張するが、台湾を含めて「一つの中国」との認識で一致し、中台交流の基礎としてきた。民進党はそれを受け入れていない、というわけだ。

 国際社会を見渡せば、日本や米国を含む大半の国が「一つの中国」を尊重している。そのうえで北京の政府を中国の唯一の合法政府と認め、台湾とは国交がない。しかし、現実には台湾は中国の統治下にはない。

 複雑な現状を考えれば、「一つの中国」の原則を振り回すよりも、共存共栄を図ることこそが賢明であり、周辺国にとっても好ましい。国共両党の間でも、立場の不一致はあえてあいまいにしてきたのである。

 蔡氏は、ことし5月から4年間の政権を担う。対中関係の政策について、さらに踏み込んで内外に示す必要があろう。

 それにしても台湾の民意の表れ方は絶妙だ。96年の初の総統直接選を起点として、00年、08年、そして今回と着実に政権交代を実現させた。

 00~08年の民進党政権が台湾独立の志向を強めると民意に拒まれた。今回はその逆で、民意が均衡を回復させる重りとなった。一昨年の学生運動の流れをくむ新政党も現れた。台湾政治は進化を続けている。

 中国の習近平(シーチンピン)政権は、この民主政治の現実と向き合わなくてはならない。国民党は中台交流で成果を残したが、国民党だけを台湾であるかのように扱うのは誤りである。