災害対応は、しばしばジャズの演奏に例えられる。

 ひとたび災害が起きると、想定外の事態や刻々と変化するニーズに即応しなければならない。そこが譜面にとらわれず、他の演奏者や観客との呼吸に合わせて即興で音を連ねるジャズに似ているというのだ。

 17日で発生から21年となる阪神・淡路大震災の被災地の自治体はいま、過去の経験にとらわれない、柔軟な防災体制作りに力を入れている。

 次の災害は決して前と同じ姿ではやって来ないからだ。

 神戸市がこのことを痛感したのは、東日本大震災の支援を通じてだった。同市は延べ1800人超の職員を宮城県などに派遣した。即戦力として働けるよう、阪神大震災の経験者を中心に選んだ。だが派遣職員からヒアリングをすると「過去の経験が通用しなかった」との声が少なくなかった。

 阪神より被害規模が大きく、指示や情報が伝わらない。車を動かそうにも給油ができない。住民の集団移転も初体験のことだった。これを教訓に神戸市が考えたのが、応援隊や物資の受け入れ態勢をあらかじめ決めておく「受援計画」だ。

 いわば助けてもらうための準備といえる。大災害が起きれば役所の業務は急激に増える。単独の自治体では乗り切れないとの考えに基づく備えだ。

 市は、支援してもらいたい130の業務を洗い出した。たとえば避難所では食料の配布や避難者名簿の管理を、広報部門では外国人向け情報のネット配信などを応援隊に担当してもらう。市内で震度6弱以上の地震が起きれば適用する。

 国は神戸市の実例なども踏まえ、災害対策基本法で全自治体に受援計画を作るよう促している。だが市町村で策定したのは14年時点で99カ所と、約5・8%に過ぎない。どの自治体もできるだけ早く整えるべきだ。

 新たな知見を踏まえた備えが必要なのは、行政だけにとどまらない。

 内閣府は昨年、南海トラフ地震の際、東京や大阪の高層ビルが長周期地震動で最大2~6メートルも横揺れすると公表した。このほか津波による地下街の浸水、石油タンクから漏れた燃料にがれき同士がぶつかった火花で着火する津波火災の恐れなど、対策が遅れている分野は多い。

 官民挙げて命を守る手立ての構築を急がねばならない。

 地域コミュニティーの活性化や防災教育の充実など、どんな災害にも役立つ力を磨き、被害を最小限に食い止めたい。