株式市場で年初から波乱含みの展開が続いている。日経平均株価は大発会から6営業日連続で下げた。これは戦後初めての事態だ。年初来の下げ幅も合計で一時2000円を超えた。

 中国経済の減速など海外要因が理由とはいえ、政権3年間で株価が2倍以上に上昇したことを「アベノミクスの成果」と誇る安倍政権にとっては痛手だろう。だからと言って政府や日本銀行が目先の株価対策に走るようなことがあってはならない。

 これまでの株高は、超金融緩和によってもたらされた側面が強い。経済成長のほうはゼロに近いわずかな伸びにとどまっており、実体経済とは遊離した株高だったと言える。ならば、経済政策が株価に振り回される必要はない。政府には、この株安を長期的な備えを促す警鐘として受け止めてほしい。

 世界のお金の流れは大きく変わろうとしている。昨年末、米連邦準備制度理事会(FRB)が7年ぶりにゼロ金利を解除し、利上げに踏み切ったことで、先進国から新興国へと流れていたお金の潮流に巻き戻しが始まった。世界中でだぶついていた緩和マネーは今後収縮していく可能性が強い。

 緩和の恩恵を受けてきた株式市場で調整がおきるのは避けられない。最近の日本の株安もそういう構造変化の文脈でとらえたほうがいい。世界中が歴史的な株高に沸いた時期は、昨夏のチャイナ・ショックまでと見るべきだろう。

 ■目先優先のつけ回る

 安倍政権の経済政策は、短期的な成果や評価を重視しすぎるきらいがある。人々の目の前の期待に応えようとする一方で、将来世代への視点を著しく欠いているのではないか。

 来年4月に予定される消費増税で食料品などに導入する軽減税率を巡る政策対応は、その典型と言っていい。

 軽減税率を構えるために必要な財源1兆円のめどがたっていないなかで、首相は国会で「税収上ぶれ分」を検討することに言及した。税収が予想より増えるのをあてにして恒久的な政策を決めるのは、きわめて無責任だ。税収が予想より増えなかった場合、結局は、政府が新たな借金でしのぐしかなくなる。つまりは、これも将来世代への問題の先送りにすぎない。

 アベノミクスを支える日銀の異次元緩和にも「見えない国民負担」が隠されている。いま日銀は高値で国債を大量購入しているが、いずれ景気がよくなれば国債価格は下落(利回りは上昇)する。その局面での金融引き締めは日銀には逆ざやとなって巨額損失が見込まれる。債務超過の恐れもある。穴埋めに使われるのは国民の税金である。

 足元の経済成長や株高という目先の政策を優先してきたつけが将来に回りかねない危うさがここにも潜んでいる。

 ■将来世代と連結で

 それでも政権は「アベノミクスは成功している」としている。ならば、なぜ企業は史上最高益をあげても賃上げに及び腰で、内部留保をため込むのか。国民が消費に尻込みするのはどうしてなのか。

 小林慶一郎慶大教授は「“短期楽観”を強調する政府の姿勢そのものが厳しい現実を見ていないことを露呈し、かえって企業や消費者を“長期悲観”に陥らせている」という。

 国民負担を先送りしても、いずれ、この国の誰かが支払わなければならない。先送りしている間にそれがいっそう膨れあがり、時間の経過とともに増税や歳出削減の規模が大きくなってしまうかもしれない。いつか超インフレに襲われ生活が脅かされる可能性だってある――。

 国民はすでにそう予感し、行動しているのではないか。

 そんな不信を取り除くには、リタイア世代、現役世代、将来世代をあわせた現在と未来の「連結決算」で政策効果を検証し、国民に示す必要がある。

 年初には株式市場や経済界には経済の先行きを楽観する声があふれていた。政権と声を合わせ「うまくいく」と自己暗示をかけることが救われる道なのだと信じているかのように。

 ■財政再建こそが課題

 だが、超金融緩和がもたらしたカネ余りの時代は終わりを迎えようとしている。「名目3%、実質2%成長」という楽観に楽観を重ねた政府の経済見通しと、それに基づく中期財政計画は早晩、行き詰まる。さえない経済の時代が長く続くことも想定した現実的見通しに基づいて財政再建を進めていくことが、最重要課題になるはずだ。

 今国会でも、ばらまき的色彩が濃い低年金高齢者への給付金を盛り込んだ補正予算案が審議されている。安倍政権の関心は夏の参院選対策に向けられているのだろう。

 もっと先も見据え、日本の国家運営の「百年の計」を考えて財政再建に取り組む姿勢がいまの政治にほしい。政権のエネルギーはそこに注ぐべきだ。