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首相と改憲  何を変えたいのか示せ

 安倍晋三首相がNHK番組で今夏の参院選に向け、おおさか維新の会など憲法改正に賛同する勢力と連携し、改憲の国会発議に必要な定数の「3分の2」の議席確保を目指す意向を表明した。年頭の記者会見でも参院選での争点化に言及していたが、議席目標を打ち出し、さらに踏み込んで改憲に意欲を示した形だ。
 だが、憲法をどう変えるかについて首相は「これから議論がさらに深まっていくだろう」と述べるにとどめた。具体的な改憲の中身が不透明なままでは、国民は戸惑うばかりだ。
 首相は番組で「おおさか維新の会など改憲に前向きな党もある。未来に向かって責任感の強い人たちと3分の2を構成していきたい」と持ち上げてみせた。おおさか維新の会の片山虎之助共同代表は「徹底した地方分権国家にするための改憲を考えている」と述べ、日本のこころを大切にする党の中山恭子代表も自主憲法を制定すべきとした。
 自民、公明両党は衆院で定数の3分の2を上回る議席を持つ。参院(定数242)でも3分の2超の162を確保するには、改選議席から27伸ばして86議席を獲得しなければならない。おおさか維新の会(非改選5)や日本のこころを大切にする党(同3)の協力を取りつけ、ハードルを下げるのが狙いだ。
 参院選に向けて民主党と維新の党には合流構想があり、改選1人区での野党共闘の取り組みも進んでいる。ただ、安倍政権下での改憲に反対する民主党に対し、維新の党は統治機構改革のために改憲が必要という立場だ。意見が食い違うテーマを持ち出すことで、野党の連携をけん制する思惑もあるのだろう。
 将来的な9条改正を視野に入れつつも、首相は大規模災害や他国による武力攻撃の際の首相権限強化などを柱とする「緊急事態条項」の創設を念頭に置いているとみられる。自民党が優先的な改憲項目と位置付け、他党の賛同が得やすいとみているためだが、首相自身は方針を明確に示していない。
 そもそも、緊急事態条項では、国民の権利制限という重大な影響が生じる懸念がある。参院選で争点とするのであれば、詳しい内容を速やかに明らかにし、国会での議論を通じて国民に改憲の是非を判断してもらうべきだ。ましてや衆参同日選に踏み切ることも検討するのなら、曖昧なままにしておくことは許されない。

[京都新聞 2016年01月12日掲載]

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