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Check Clip to Evernote 2014.09.30up
小林啓一監督が描く今ドキ群像劇
小林啓一監督、41歳。大変な失礼を承知の上で言うが、若者からすれば「おじさん」に差しかかった歳である。しかし、そんな「おじさん」の小林監督が撮った『ぼんとリンちゃん』は、今の若者(しかもアウトサイド系=おたく)の像を見事にとらえた傑作となっている。スペイン・ヒホン国際映画祭でグランプリを受賞したほか、世界中の映画祭で注目を集めた前作『ももいろそらを』(2012年)から2年。小林監督の最新作についてインタビューした。

取材・文/田辺ユウキ

Profile

小林啓一(こばやし・けいいち)
1972年生まれ、千葉県出身。テレビ東京のオーディション番組『ASAYAN』のディレクターを経て、ミュージックビデオを手掛けるようになる。これまで、DA PUMP、DREAMS COME TRUE、ミニモニ。などをの作品を監督。その後、2012年に『ももいろそらを』で長編映画デビュー。第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門にて作品賞を受賞、第50回ヒホン国際映画祭にて日本映画として初のアストゥリアス賞(グランプリ最優秀作品賞)を受賞。新聞各紙はじめマスコミもこぞって、「青春映画のあらたな名作」と絶賛した。監督第二作となる『ぼんとリンちゃん』が現在絶賛公開中。

「僕らの時代より早く自分の視点が出来上がっている」

 監督はもともとテレビ番組『ASAYAN』のディレクターを務めていたという。そう、あのモーニング娘。を生んだ伝説的オーディション・バラエティーだ。大森靖子、ぱいぱいでか美、うすた京介、劔樹人ら感性豊かな人たちの多くをトリコにする“モー娘。”。筆者は10~20代前半の女の子たちに会う機会が結構あるのだが、「モー娘。が好き」「オーディションを受けたことがある」と言うコが意外と多かったりする。パッと見は2000年代の頃の勢いを感じないように思えるが、実はその影響力は今なお女の子たちに強く行き渡っているのだ。

 まだまだインターネットが発信媒体として今ほどはっきりと具体性を持たなかった時代。『ASAYAN』は、普通っぽい女の子たちがアイドルを目指し、すっぴんも、ぼさぼさの髪も、Tシャツにはり付く汗も、仲間との衝突も生々しく見せてきた。そんな若い(幼い)女の子たちのリアルを「制作側」として身近に見てきた小林監督。その後、モー娘。は超大型アイドルグループとなったが、彼女たちが「普通の女の子」だった頃と、そこから抜け出そうとしていた意思を目の当たりにしたことが、小林監督が「おじさん」と呼ばれる年齢になっても、若者の感性を作品として瑞々しく発することができている一つの要因になっているのではないか、と『ぼんとリンちゃん』を観て想像した。

 小林監督に“若者”について伺ってみると、「時代や環境、持っているデバイスが違うだけで、若者像は昔から変わらないと思う。ただ、僕らの時代と違って、情報を得ようとすればいくらでも入ってくる時代。その情報に対し、善悪や勝負の選択をするために、僕らの時代より早く自分の視点が出来上がっている気がします」と答えが返ってきた。確かに、この映画の筋はシンプル。おたくの女の子・ぼんちゃん、男の子・リンちゃんが、暴力彼氏に監禁されている友人“肉便器ちゃん”を救いにいく。その物語の中身をギュッと埋める若者たちの言葉と社会への目が、小林監督が言うところの「早くから自分の視点が出来上がっている気」がする。普遍的な青春物語でありながら、“今この時”にしか描けないドラマがある。

Movie Data

『ぼんとリンちゃん』
「16歳62カ月」のBL(ボーイズラブ)、アニメ、ゲームが好きな腐女子・ぼんちゃんと、その幼なじみの18歳浪人生・リンちゃん。ふたりは、同人誌をきっかけに仲良くなった女の子・みゆちゃんが、東京で同棲中の彼氏に暴力をふるわれていることを知り、妙な使命感を燃やして、彼女を救いだすために上京。ところが、みゆちゃんの行方をつかめず、その近辺を調査していく中で、思いがけない事実が浮かび上がる。ぼんちゃん役には映画初主演・佐倉絵麻、リンちゃん役には映画『渇き。』の高杉真宙。

2014年9月20日(土)公開
監督・脚本・撮影:小林啓一
出演:佐倉絵麻、高杉真宙、比嘉梨乃、桃月庵白酒、ほか
配給:フルモテルモ
1時間31分
シネ・リーブル梅田ほか
http://bonlin.jp
© ぼんとリンちゃん

 本作の大きな特徴である「名言」の数々は、まさに「若くして出来上がっている」ものばかり。むしろまるでタイムラインのように、いろんな物事をすぐに取捨選択し、そして通り越していくがゆえに、その言葉の感情には空しさ、絶望、そして一周まわっての楽観を持たせる。

「実際に数人の腐女子に会い、ネットを見て、いろいろリサーチしながら、しかしコピペではなく主人公独自の視点から物を言わせるようにしました。台本は60回以上、改稿しました。名言という意識はなく、僕なりに日頃思っていることを台詞に込めたんです。彼ら、彼女らに偏見があったら、多分のその台詞は頭に入ってこないはず」(小林監督)。

 小林監督の長編デビュー映画『ももいろそらを』(2013年公開)も見逃してはならない作品だ。新聞記事の内容を採点するのが趣味という女子高生が、大金が入った財布の持ち主の男子高校生(しかも天下り官僚の息子!)と、恋愛とも友情とも言えない関係を結んでいきながら、“とある出来事”のために良いニュースだけを掲載する新聞作りをしていく物語。『ももいろそらを』も『ぼんとリンちゃん』然り、「近頃の若者は」「これだからゆとり世代は」とついつい思っちゃったり、“自分世界”に閉じこもる少年少女にやたら外に出る楽しみを訴えてみたり、いまだ「ネットやゲームばかりして」とお小言をいっちゃうような、大人たちのいかにもオールドな性質を鋭い言動で突き刺しまくっている。

「僕自身も実は、おたくと呼ばれる人たちへの先入観があったんです。暗い、批判的、社会や現実に対して閉鎖的といったイメージを持っていました。しかし『ぼんとリンちゃん』を作るにあたって、オンラインゲームで知り合った腐女子とゲームオタクの男の子に実際会って交流を深めると、好きなものに真っすぐで情熱的でパワフルであることを知った。好きなものを理解できない、という理由だけで偏見を持ったことに深く反省しました。むしろ社会人になると、意外と自分のテリトリーでしか活動しなくなる。だから、おたくは良くも悪くも若者の象徴に見えた」(小林監督)

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