医療はどう変わる?

ジャーナリスト「TPPの主目的は、実は関税ではなく医療」

2016年01月16日(土) 05時00分
〈週刊女性1月26日号〉
2016年01月16日(土) 05時00分
〈週刊女性1月26日号〉

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 TPPの大筋合意が報じられた昨年11月から、テレビや新聞は歓迎ムード一色。生活への影響は大。何がどう変わって、いったい誰がトクしてソンするのか? そこで識者にTPPによる変化について教えてもらった。

 例えば、指のケガの治療に1週間待たされたあげく、請求される治療費は10万円。近い将来のこのシミュレーションに耐えられる人はいるだろうか。

「このまま黙っていたら、今まで500円だった子どもの診療費が1万円単位になるかもしれません。命の沙汰も金次第。そんな国になるのは絶対に避けたい」

 こんな警告を発するのは、『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉』(集英社新書)などの著書で知られるジャーナリスト・堤未果さんだ。

 健康保険証1枚さえあれば、誰がどの医療機関に行こうとも、窓口で支払う医療費は未就学児なら無料で(助成がつく自治体なら22歳まで)、大人なら1~3割負担だけ。

 逆に言えば、未就学児なら10割を、大人なら7~9割の医療費は国が支払ってくれる。単純明快、かつ、どの収入層にも平等な日本の『国民皆保険』制度は世界的に評価が高い。

 だが、長年アメリカと日本を行き来して取材を続ける堤さんは、このままいくと将来、日本も盲腸手術に800万円の請求書が来て医療破産するような“アメリカ型医療”になっていくと懸念する。

 ちなみに、日本での盲腸手術は保険適用の3割負担なら12万円。さらに低所得者は『高額療養費制度』という助成制度を利用すれば2万4600円の負担ですむ。

 昨年アメリカのアトランタで開催のTPP閣僚会合後、「交渉は大筋合意」とのニュースが一斉に流れた。

 日本では“関税撤廃で米などの国産農産物が打撃を受ける”と報道されているが、堤さんは「TPPの主目的は、実は関税ではなく医療。何十年も日本医療を商売にしたくてしかたないアメリカの財界と金融業界が、日本をねらっているのです」と強調する。

 アメリカの医療制度は日本とは全く異なる。全国民の公的医療保険はなく、国民は自分で民間医療保険を買うしかない。同じ疾病でも、保険によって支払われる金額が違うため、医者もまず保険会社に「いくら払われる」か聞いてからでないと治療できないのだ。

 アメリカで有名なマイケル・ムーア監督の作品に『シッコ』というドキュメンタリー映画がある。アメリカ医療の現実を描いた内容は衝撃的だ。民間医療保険会社に加入しても、疾病や傷害への保険が下りない事例はザラ。

 下りたとしても、例えば、仕事中に指を2本切断した人には、その接合手術に薬指なら1万2000ドル(144万円)、中指なら6万ドル(720万円)かかると告げ、本人が中指をあきらめるなど、医療保険会社に苦しめられる実態を紹介している。

「アメリカでは、医産複合体(保険会社と製薬会社)が政治家に費やすロビー活動費は年間5400億円。大半の政治家に巨額の政治献金をばらまいて、完全に政治を買っている状態です」

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