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otomeguの定点観測所

文芸評論・文化評論・現代思想・社会認識・国語表現・スポーツ観戦・科学鑑賞・与太話

2015極私的回顧その1 ライトノベル

ライトノベル SF ファンタジー アニメ コミック 表象文化

 それでは、今年度も極私的回顧をスタートさせたいと思います。まずは、ライトノベルから参りましょう。

 

このライトノベルがすごい! 2016

このライトノベルがすごい! 2016

 では、マイベスト5から。

1、アリス・イン・カレイドスピア

アリス・イン・カレイドスピア 1 (星海社FICTIONS)

アリス・イン・カレイドスピア 1 (星海社FICTIONS)

 異色作です。そして、いい意味でも悪い意味でも大笑いしながら読むべき作品です。オーソドックスなファンタジー(??)を装って硬質な文章で導入しながら、突如妄想がぶつかり合って世界を改変する怒涛の展開に変化します。異色かつ異能ながらスケールの大きな独特のファンタジーを創造するという、作者のアプローチは見事成功したといえるでしょう。定型をぶち壊した破壊力も見事ながら、古代の神話や伝説からネット文化の言説までをまき散らした参照項の群れも読みごたえ十分です。荒唐無稽な道化ととるか、稀有壮大な思考実験ととるか、まあ、その両方でしょう。想像力と情報量と悪ふざけの濁流にのまれつつ、破顔しながら読みましょう。

2、俺、ツインテールになります

俺、ツインテールになります。 10 (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 10 (ガガガ文庫)

 悪ふざけその2。アニメの作画崩壊すら嬉々としてネタになった作品ですが、当然、原作もアニメに劣らない悪乗りで走る走る。作者も読者も真剣に悪乗りするからこそ、この手のおふざけは成立するわけですが。一応、ラブコメとしてもヒーローものとしても一定の水準で物語の軸はあるんですが、それはどうでもよさそうですね。

3、四人制姉妹百合物帳

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

 悪ふざけその3。いくつもの出版社に出すのを断られて、コミケで出したところを星海社が拾ったという、異色作というか問題作です。百合種(ユリシーズ)という名前からして百合ん百合んしたコミュニティで、性的妄想にはっちゃけた女子高生4人が女性の陰毛を剃ることに命を懸けたお話です。ビバ、つるつるおまんこ。見た目18禁だろ、これ。正常な神経の編集者が出版を断るのも道理かもしれません。悪食な読者に勧めるべき作品か? でも、上品な文体とドラマツルギー(??)のため、端正な青春小説になっているところがあら不思議。作者のコントロールの妙ですな。

4、ひとつ海のパラスアテナ

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (3) (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (3) (電撃文庫)

 古き良きジュブナイルの香りを漂わせる良作です。陸地が消失したアフターと呼ばれる時代における、少女のみずみずしい冒険物語。鮮やかに展開される青い海と広い空、そして少女のひたむきな心性は読者にすがすがしい印象を与えますが、そこは試練を与えるビルドゥングスロマンです。自然の脅威や大人の汚さに翻弄され、試練に立ち向かいながら、そして爽快さと穢さ、すがすがしさを危うさ、純粋さと狡猾さなど人間の二面性を目の当たりにしながら、主人公はひたむきに成長していきます。

5、モーテ

 自ら望まずとも重大で自殺してしまう病・モーテ。そして、病に侵された少年少女たちを収容する施設・ドケオー。この種の重いテーマはライトノベルには珍しいですが、主人公と少年少女との交流、そして葛藤を描いた心情描写が実に鮮やかです。徐々に重苦しい真相が明らかになりますが、そこに向かうサスペンスの高まりと、ほのかな癒しのバランスも見事です。物語性だけを取れば今年読んだライトノベルの中で随一の作品です。

【2015年とりあえず総括】

 ライトノベルというジャンルの停滞が感じられた1年でした。アニメ化は活発に行われていますし、次のテキストで扱いますがボカロ・フリーゲームソーシャルゲーム・アプリゲームといったゲームジャンルとのクロスの動きも活発ですし、なろう系はじめWEB小説の勢力も引き続き堅調ですし、「ライト文芸」「キャラ文芸」と称された大人向けライトノベルは新レーベルも含めて動きが活発でしたし。こうして書くとジャンル全体として活況のようにもとれます。

 しかし、ライトノベルに停滞感が漂っているように思えるのはどうしてでしょうか。勃興期のでたらめなエネルギーが失われたような気がするのはどうしてでしょうか。いわゆるライトノベルの誕生をスニーカー文庫誕生時とするなら、それから25年余り、ライトノベルはインターフェーとしてSF・ファンタジー・ミステリ・歴史など他の文芸ジャンルを柔軟に取り込みながら、独自のジャンル文法を生成・発展させてきました。一定の記号論的な枠内における再生産と模倣と前進こそ、ライトノベルというジャンルの駆動因でした。ところが、定型としての製造ラインが飽和状態にきて、運動体としての新たな動きが打ち出せず、行き詰まっているのが、今のライトノベルの現状でしょう。事実、各レーベルとも新人賞などから新機軸を打ち出そうと腐心していますが、新たなヒット作を生み出せず、既存のシリーズの再生産に頼っている印象が強いです。それでもなお、読者としては読みきれない作品数がわさわさ供給されているので、全く不満はないんですが。

 停滞を打ち砕くのは、革命的な力を有する新たな作品の登場に他なりません。かつて〈妖精作戦〉〈ロードス島〉〈ブギーポップ〉〈涼宮ハルヒ〉といった作品は、ライトノベルというジャンルの流れを大きく変え、ジャンルを牽引する起爆剤となりました。2016年は新たなパワーを有した作品の登場を勝手に期待しつつ、引き続きライトノベルを追い続けたいと思います。

妖精作戦 (創元SF文庫)

妖精作戦 (創元SF文庫)

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)