1人の子宮頸がん死亡を防ぐために、
100人以上の未来の命が流産で失われるかもしれません。
BMJの論文などから試算した驚くべき数字です。
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HPVワクチンと不妊は関係ない、デマと言い切っている産婦人科医がいるようです。
たしかに、みんなが不妊になるわけでもなく、
現場では、意識するほどの増加になっていないのかもしれません。
しかし、そこまで、強弁できるデータはないはずです。
この記事では、「広義の不妊」として、「流産」を含む意味で検討します。
実は、流産については、HPVワクチンで増加するのではという研究データが出ています。
医者向けの日本語のニュース記事では、
何も問題がなかったかのような情報が書かれています。
http://www.cancerit.jp/36500.html
しかし、実際はどうなのでしょうか?
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まず、この試験の元となった試験について調べてみました。
当初、この研究は、GSK(グラクソスミスクライン)がスポンサーとなり、
HPVワクチン(Cervarix)と、A型肝炎ワクチン(Havrix 以下HAV)を比較し、
CIN2(中等度異形成)以上の状態を調べる目的で、
約7500名が参加したランダム化比較試験として行われました。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/results/NCT00128661?sect=X01256#all
対象は、平均年齢21歳
そして、最初の試験報告では、2次的な評価項目として、
流産についての記載が一応ありました。
流産率を表の数字から計算すると、
HPV接種群 15.3% に対し、 HAV接種群 14.3%
絶対リスクで、1.0%増、相対リスクは、1.07倍(相対リスク 7%増)
統計解析はされていませんし、プライマリーアウトカムでないこともあり、
この数字から断定的議論するのは危険ですが、
ランダム化研究における実数として、
妊娠100回に1回(1.07倍)の流産増加の事実があったということです。
そして、この研究と、別の研究をまとめた結果を解析して、
流産リスクに言及した論文が2010年に発表されました。
http://www.bmj.com/content/340/bmj.c712
その内容は、流産率は、HPVワクチン接種群で11.5%、対照群で10.2%
HPVワクチン接種群で流産率が高いという結果。
しかし、(人数が十分でないこともあって)統計的な有意差はない(P=0.16)となっています。
差がないのではなく、統計的な有意差がなかったということで、
十分に大きな人数で検証すれば、統計的に有意差が出る可能性があるということです。
なお、少ない人数で検証すると、
差があっても統計的に有意な差にならないことは統計学の常識です。
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次に、問題の2015年のBMJの論文を見てみましょう。
http://www.bmj.com/content/351/bmj.h4358.full.pdf+html
(英語ですが、無料で全文読めます)
実は、新しい報告は、途中から試験デザインが変更されています。
HAVワクチン接種群も、HPVを後から接種した場合は、HPV接種群とされ、
当初予定していなかった未接種群を後から組み入れ、
ランダム化は崩れ、いわゆる観察研究が組み込まれています。
流産数の結果ですが、Table1
HPV接種群:451/3394=13.3%
非接種群 414/3227=12.8%
先の試験時からのデータと合わせた解析がFig2にまとめられており、
流産率(流産回数/妊娠回数)について、図から手計算で求めると、
合計での流産率(Overall CVT+PATRICIA)
HPV接種群 553/4366=12.7% 非接種群 501/4208=11.9%
絶対リスクで、0.8%増加 相対リスク 1.06倍 (0.95 to 1.19)
増加傾向ではあるものの、統計的な有意差なし。
13-20週での流産については、
HPV接種群 137/4366=3.1% 非接種群 98/4208=2.3%
絶対リスクで、0.8%増加 相対リスク 1.34倍(1.03 to 1.73) 統計的有意差あり
なお、論文の表3では、生きて生まれた人数を計算してますが、
この研究のプライマリーエンドポイントは、20週までの流産ですので、
「研究として重視すべき指標はあくまで流産」です。
さらに、付言すると、
流産の指標は最初のランダム化研究でも検討していますが、
生きて生まれたかどうかの指標は、後から組み込まれた指標であり、
データの信用性、他の交絡因子の影響が懸念され、
今回の試験デザインでは、信頼性に乏しい指標と言わざるを得ません。
例えば、非接種群として栄養・生活レベルの低い貧困層を多く連れてくると、
出産までの環境が悪いでしょうから、死産が増え、
見かけ上は、生きて生まれた人数の差を縮めることができます。
また、論文の結論で、リスク増加が見られなかったと言い切っているのは、
あくまでも、「ワクチン接種後90日以内の妊娠」という限定です。
また、プロトコルの評価項目の情報が登録されていませんでした。
90日については、後出しジャンケン解析の可能性もありそうです。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01086709
以上の検討から、日本語の記事については、
都合の良いように情報がミスリードされる典型例と言えるでしょう。
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HPVワクチン接種によって、「流産」の絶対リスクが0.8%増加
偶然の差と言い切れない部分があると思いますし、
リスクをどう評価するかは、ワクチンの実力(利益)次第です。
なお、日本の流産率は、平均約15%程度です。
もしも、全女性の10%が死ぬような病気を予防できるならば、
0.8%の流産増加は、やむを得ない犠牲と呼べるかもしれません。
しかし、日本において、HPVワクチンによる死亡数減少について、
まともな推計すら存在しないのが実情のようです。
産科婦人科学会理事長が推計した死亡数2000人減/年は
そこで、簡単な試算をしてみます。
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10000人にワクチンを打った場合を考えます。
日本人女性において、子宮頸がんで亡くなる累積リスクは、
40歳まで 0.02%、50歳 0.06%、60歳 0.12%、70歳 0.18、80歳 0.23%、生涯で0.29%です。
(国立がんセンターの統計情報 がん情報より )
ここでは、ワクチンが20年有効、かつ50%の死亡数低下、
つまり40歳までの0.02%の死亡リスクを0.01%へ半減させると仮定します。
非接種の場合、40歳までに、10,000人中2名が子宮頸がんで亡くなりますので、
HPVワクチン接種で1名が死亡を免れるかもしれません。
一方の流産については、
10,000人がワクチンを接種し、出生率1.4を使ってラフに計算すると
14,000回の妊娠・出産があるとして、
HPVワクチン接種による流産増加数は、14000×0.008=112人
1人の子宮頸がん死を防ぐために、100人以上の未来の命が失われる?
あまりにひどいと思いませんか?
自分でも計算結果を見てビックリしました。
リスクの%表示だと気づきませんが、
実際の絶対リスク(頻度)で考えると、とんでもない数字であることに気づきます。
私には、流産リスクだけを見ても、ワクチンに価値があると思えません。
もちろん、試験の対象となった女性(コスタリカ、21歳)と、
日本の中高生では、環境が違うので、
そのままの当てはめはできないかもしれません。
しかし、この論文のデータから、
流産リスクがないと言うのは、完全なミスリードであることは確かでしょう。
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なお、ワクチンの利益については、あくまで仮定です。
20年の感染予防効果も、子宮頸がんの予防も、
子宮頸がん死の予防も全く証明されていないのです。
そして、HPVワクチンの接種が子宮頸がん死亡数を減少させることについて、
統計的に有意差をもって証明することはそもそも不可能です。
数十万人での大規模調査を数十年行わないと、
ワクチンによるがん死の減少については差が出ないと予想されるからです。
製薬会社も厚労省もそのことを十分にわかっています。
ワクチンの利益は統計的に将来も有意差を示せないことを知っているのに、
そのことには一切触れず、
不利益は、少ない人数の試験で、有意差が出なかったとゴマかしているのです。
HPVワクチンは、インチキ以外の何物でもありません。