振り返ってみれば、2015年は日本の音楽業界にとって“定額配信サービス元年”だった。
【グラフ】衝撃!有料聴取層はこんなに減っている
5月にエイベックスグループとサイバーエージェントの合弁「AWA」が先陣を切ると、6月にLINEやエイベックスなどが出資する「LINEミュージック」、7月にはアップルの「アップルミュージック」が始動。9月にグーグル、11月にアマゾンも参入するなど、市場は混戦模様となっている。
■ 各社が定額配信に前のめりなワケ
音楽業界では、国内市場の8割近くを占めるCDが、全盛期(1998年)の約3割にまで激減。モバイル向けの減少が響き、有料配信も落ち込んでいる。
一方、海外で広がりを見せる定額配信は、世界の市場規模が2014年に前年比39%増と急成長(国際レコード産業連盟調べ)。2000万人の有料会員を抱える英スポティファイなどが牽引役となった。日本の音楽業界にとっても、定額配信サービスは期待の成長分野となっている。
2~3カ月は無料で使えることもあり、いずれも出足は快調だ。AWAは開始2カ月でダウンロード(DL)数が300万を突破。2015年12月時点で650万DLに達した。その特徴は洒落たデザインとプレイリスト(再生の順番をリスト化したもの)に特化した点だ。プロだけでなく、一般のユーザーが作ったプレイリストも楽しめる。
LINEミュージックも公開2日で100万DLとロケットスタート。10月には860万DLを超えた。メッセージアプリで友人と曲を共有するのはもちろん、LINEミュージック内の公式ページとリンクさせることで、アーティストがユーザーに情報を発信できるようにした。若年層向けの学割など独自の施策も奏功した。
ただ、サービス開始から半年近くが過ぎ、課題も浮き彫りになっている。マネタイズ(収益化)の難しさだ。最大勢力とされるアップルですら、課金ユーザーは30万~40万程度といわれる。販促費なども重くのしかかり、AWAは初年度に赤字を見込んでいる。
課金ユーザーが伸び悩む一因は、無料動画メディア「YouTube」の存在。YouTubeでは、販促用の動画が無料で配信され、多くの新曲が楽しめる。許諾なしに動画メディアの音源を再生するアプリまで出てきている。
結果として、「音楽はタダ」という認識が若い世代を中心に広まり、有料で音楽を聴く層は年々減少している。LINEは無料のお試し期間終了後に、ネット上で「ケチ」「なぜ有料なんだ」と批判されたほどだ。
配信楽曲の少なさも課金ユーザー拡大のネックとなっている。CD販売への影響などを懸念し、楽曲提供を渋る人気アーティストもいる。聴きたい曲がなければ、ユーザーは「レンタルやYouTubeで十分」となるだろう。
ユニバーサルミュージックの島田和大執行役員は「定額配信の環境が整い、2016年は市場形成に向けた勝負になる。品質や機能でYouTubeと異なる価値を訴求することが重要だ」と語る。
■ "筋肉質"なユーザーを増やせ
どうすれば定額配信サービスを浸透させられるのか。「販促で簡単に増やせるライトユーザーではなく、頻繁に使う“筋肉質”なユーザーを増やすことを重視している」。こう話すのは、AWAの小野哲太郎取締役である。
ヘビーユーザーをつかむべく、アプリの反応やプレイリストの作成など、操作性の向上に注力。エイベックスの松浦勝人社長とサイバーエージェントの藤田晋社長も、戦略会議に毎週参加し、改善の指示を飛ばす。今後はユーザーごとにアルゴリズムを割り当て、リコメンド(好みに合った情報の提供)するなど、サービスを磨く構えだ。
LINEもインターフェースの改善やPC版の提供、データ通信量の節減を進めてきた。最近は洋楽を拡充させ、コアなファン向けに海外のインディーズ楽曲を増やしている。12月開始の動画配信サービス「LINEライブ」では番組で新譜を紹介したり、出演したアーティストがプレイリストを公開するなど、サービス間の連携も急ぐ。
「ヒットが生まれる仕掛けを作らないとダメ。自社サービスとの連携強化など、プラットフォーム事業者としての違いを出す」と、LINEミュージックの舛田淳社長は一段の改善に意欲を見せる。ユーザーの意識を変革し、定額配信を根付かせることができるか。音楽業界は生みの苦しみに直面している。
(「週刊東洋経済」2016年1月16日号<12日発売>「核心リポート03」を転載)
田邉 佳介
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