予定していたスピーチさえもパス
マスコミ各社は一行も報じなかったが、日本銀行の黒田東彦総裁は1月12日(現地時間)、パリで開かれたフランス銀行と国際決済銀行(BIS)共催のクリスチャン・ノワイエ総裁退任記念シンポジウムに出席したものの、予定していたスピーチを行わず急きょ帰国した(因みに、黒田総裁のスピーチ予定稿の邦訳は日銀のホームページに掲載されている)。
13日午前、その事実を筆者に知らせてくれた在京米国人投資家は、想像を遥かに超えて日経平均株価が下落の一途を辿っていることから、月末の28、29日に予定されている日銀政策決定会合を前倒しして、緊急会合が開催されるため帰国したのではないかとの見方を示した。
事実、12日の東京株式市場の日経平均株価終値は前週末比479円安の1万7,218円96銭と、年初から6日続落した。年初からの下落幅は1814円に達した。
ところが、黒田総裁が帰国した13日の日経平均株価は反騰し、496円67銭高の1万7,715円63銭であった。そして翌14日は大幅に反落し、下げ幅は一時724円を超えて1万7,000円を割り込んだが、終値は474円68銭安の1万7,240円95銭で引けた。
黒田総裁の緊急帰国は「国会対応のため」と説明されているが、こうした株価暴落に危機感を抱く首相官邸が、月末の日銀政策決定会合について協議するために引き戻したようだ。官邸幹部は年初、筆者に対し株価の下限を1万6,800円に想定していると語っていたが、まさにボーダーラインが迫ってきているのだ。
中国経済の減速(人民元の急速な減価を含む)、急激な原油安(1バレル30ドル割れ)、シリア情勢の混迷に加えてサウジアラビアとイランの対立激化(アラブとペルシャの歴史的戦い)、「イスラム国(IS)」などイスラム過激派によるテロ攻勢(終にジャカルタまで波及)、米国(オバマ大統領)の国際社会での存在感の低下、EU(欧州連合)内でのドイツ(メルケル首相)の影響力低下と英国(キャメロン首相)のEU残留・離脱判断、インドやブラジルなど新興国と東南アジア諸国の経済不振……。
そして北朝鮮の核実験強行など、一連の外的要因が株価を押し下げている。もちろん、このところの円高・ドル安も大きな要因である。
そうした中での日銀政策決定会合なのだ。もはや「黒田バズーカ第3弾」の発射は不可欠である。だが、追加の金融緩和を実施しても、その効果は株価の下落率を抑制するに留まるという指摘もある。実際、金融緩和の実態経済への影響は執行から3~6ヵ月かかるとされる。