福田昭のセミコン業界最前線
売上高でインテルの後を追うSamsungとHynixの脅威
(2016/1/16 06:00)
半導体業界における冬の恒例行事の1つ、半導体ベンダーの売上高ランキングが今年も出そろった。ランキングの真打ちとも言える、米国のハイテク調査会社Gartner(ガートナー)が2015年の半導体ベンダー売上高トップ10社を2016年1月7日(米国時間)に発表した。
既にGartnerの発表よりも早いタイミングで、同じ米国のハイテク調査会社2社が半導体ベンダーの売上高ランキングを発表済みだ。1社はIC Insights(アイシーインサイツ)で2014年11月10日に、もう1社はIHS(アイエイチエス)で2014年12月8日に、それぞれランキングを公表した。この発表順は例年通りである。
Gartnerのランキングでは、トップと2位が前年と同じ。トップは米国のIntelで、Gartnerのランキングでは24年連続の首位となった。もちろん半導体業界が始まって以来の最長記録で、なおかつ更新中の記録でもある。2位は韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)で、これも最近は「不動の2位」と言えるような状態になっている。筆者が所持している資料によると、少なくとも2002年以降はずっと、GartnerのランキングでSamsung電子が2位に付けてきた。
3位は変動があった。韓国のSK Hynix(エスケー・ハイニックス)が2014年の5位から、2015年は3位に上昇した。半導体ベンダーのトップ3社で韓国企業が2社を占めるのは、半導体産業にとって初めてのことだろう。
2012年〜2014年に3位に付けていた米国のQualcomm(クアルコム)は、2015年は売上高の大幅な減少によって4位に下降した。そして前年は4位だった米国のMicron Technology(マイクロン・テクノロジー)もSK Hynixに抜かれて2015年は5位とランクを1つ落とした。
6位から9位までは、2014年と2015年で変わらない。6位が米国のTexas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)、7位が東芝、8位が米国のBroadcom(ブロードコム)、9位が欧州のSTMicroelectronics(エスティーマイクロエレクトロニクス)である。
10位は半導体ベンダーの移動があった。前年に12位のInfineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)が、2015年は10位に上昇した。同社が2015年1月にパワー半導体ベンダーのInternational Rectifier(2015年の推定予想売り上げはおよそ10億ドル強)を買収したことが、順位の上昇に大きく寄与したとみられる。
大型の企業買収で順位が大きく変動
調査会社IHSと調査会社IC Insightsのランキングは、トップから11位〜12位までを見る限りは、全体としてはGartnerと大きくは変わらない。目立った違いはIHSのランキングが、オランダのNXP(エヌエックスピー)に、同社が米国のFreescale Semiconductor(フリースケール・セミコンダクタ)を買収した後の合計の売り上げ数値を採用したことだ。このため、NXPは前年の15位から、2015年は7位とランクを大幅に上げてきた。
IHSとIC Insightsは上位20社のランキングを公表しているので、Gartnerのランキングに比べると、中堅の半導体ベンダーの動きが分かりやすい。例えば先述のNXPとFreescaleについては、IC Insightsは統合前の数値とランクを載せている。NXPは2014年が14位、2015年が15位である。Freescaleは2014年が18位、2015年が20位で順位を2つ下げた。
IHSとIC Insightsのランキングを見ると、シンガポールのAvago Technologies(アバゴ・テクノロジーズ)の躍進が目立つ。IHSのランキングでは、前年の14位から、2015年は10位と大きくランクアップした。IC Insightsのランキングでも、Avagoは2014年の15位から、2015年には10位と大幅にランクをアップさせている。
Avagoで注目すべきは、売上高を大きく伸ばしたことだ。2014年の約56億ドルから、2015年には約70億ドルと23%も成長した。2015年2月に同社は米国のEmulex(エミュレックス)を買収しているが、Emulexの年間売上高は約5億ドル(2013年)なので、買収の効果は小さい。
しかも、IHSとIC Insightsのランキングで9位、Gartnerのランキングで8位と、いずれもAvagoよりも上位を占めるBroadcomを、Avagoは買収することが決定している。企業名は「Broadcom」となり、年間売上高は単純合計で約150億ドルに達する。実際のランキングに反映されるのは2016年だが、2015年のランキングでは5位〜7位に相当する大手半導体ベンダーが誕生することになる。
2015年の世界半導体市場は2012年以来のマイナス成長に
GartnerとIHSはランキングのほかに、世界の半導体市場規模の推定結果を公表している。両社ともに、2015年の世界半導体市場はマイナス成長だと推定した。世界市場がマイナス成長となるのは、2012年以来である。Gartnerが推定した成長率はマイナス1.9%、IHSが推定した成長率はマイナス1.0%である。これらの数字は2015年当初の予測値である4%成長〜5%成長に比べると、期待をかなり裏切っている。
2015年の世界半導体市場を前年比でもう少し細かく見ていくと、1月〜3月は比較的好調だった。変調をきたしたのは6月以降である。PCの出荷台数は基本的にマイナス成長と予測されていた。それでもスマートフォンと半導体メモリが市場を牽引するはずだった。しかし実際には、DRAM価格の需給緩和と価格低下が市場の伸びにブレーキをかけた。さらに、スマートフォンに代表される携帯電話機の出荷台数が、当初の予想通りには伸びなかった。また外国為替の交換比率が2015年はドル高基調で推移し、ドルベースで決済していない半導体ベンダー(特に日本の半導体ベンダー)の売上高は、実態よりも低く見積もられてしまった。
Gartnerは四半期ごとに成長率の予測値を修正し、公表している。2015年の予測値は2015年1月の公表値が最も高く、5.4%成長だった。一方、業界団体のWSTSは2015年の成長率を2014年12月の時点で3.4%と予測していた。
2015年4月にGartnerは2015年の成長率を4.0%に下方修正した。この時点ではまだ良かった。なぜなら、外国為替交換比率の急速な変化、すなわちドル高を主に反映した修正だったからだ。また2015年6月にWSTSが発表した成長率の予測値は3.4%のままで、堅実な成長が期待されていた。
2015年7月にGartnerは予測値を再び下方修正した。成長率の予測値は2.2%に低下した。PCの出荷台数が当初の予測を下回り、スマートフォンではiPhoneは堅調なもののAndroid機が失速した。ただし、これは第2四半期(4月から6月)の一時的なもので、第3四半期以降は半導体需要は回復すると見ていた。
残念ながら期待通りには回復せず、さらには中国マクロ経済の成長率鈍化が重なった。先行きの不透明感が膨れ、2015年10月にGartnerは2015年をマイナス成長になると大きく修正した。成長率の予測値はマイナス0.8%となった。
同じ2015年10月にIC Insightsは、市場規模の数字は示さなかったものの、世界半導体市場の成長率がマイナス1.0%に低下するとの予測を公表した。それまでの予測値はプラス1.0%だった。
IC Insightsの公表資料によると、半導体市場は1990年以降、1月から6月の前半期に比べ、7月から12月の後半期が高いという年が大半を占めていた。しかし2015年は1月から5月にかけて前年同月よりも売上高が伸びていたものの、6月から8月にかけて前年同月よりも売上高が低い状態が続いた。しかも、1月〜3月の合計よりも6月〜8月の合計が少ないという異例の年となった。ドル高、中国マクロ経済の成長鈍化、DRAM価格の低下が売上高を低下させており、2015年はマイナス成長に転じる危険性があるとアナウンスした。
IntelをSamsungで割った売り上げ比率は過去最低を更新
話題を上位2社、すなわちIntelとSamsungのトップ争いに転じよう。最近の売上高推移を見ると、2011年以降はIntelの売上高がほとんど伸びていない。およそ500億ドルにとどまっている。これに対してSamsungは、2011年から2015年にかけて売り上げを着実に伸ばしてきた。2010年の売上高が約280億ドルで、2015年の売上高が約389億ドルなので、5年間で100億ドル(約1兆2,000億円)も売り上げを伸ばしたことになる。
2011年には、IntelとSamsungの売上高比率はIntel/Samsungで1.85倍の開きがあった。しかし2014年には、その比率は1.51倍に縮んた(速報値ベースでは1.41倍)。そして2015年には、売上高比率は1.33で過去最低を更新した。
売上高比率の縮小傾向は、今後も続くのだろうか。まずはIntelが2016年に売上高を増やせるかどうかを考えてみよう。PC出荷台数の縮小傾向は2016年も続くとみられるので、Intelの主要な製品であるPC向けマイクロプロセッサの増収は考えにくい。
続いて、企業買収による増収を考える。Intelは、半導体ベンダーでFPGA大手のAlteraを買収しており、2015年12月28日に買収作業を完了したと発表した。Alteraの年間売上高は約17億ドル(2013年)なので、Intelの売上高に与える影響は約3%だと推定できる。つまり、Intelの売上高全体に与える影響はそれほど大きくない。従ってAlteraの買収は、売上高比率の縮小傾向を止める大きな要因にはなりにくい。
ただし、2016年にはSamsungが失速する恐れがかなりある。DRAMの価格低下と過剰供給は、2016年も続くとみられている。多分、DRAMは減収となる。SSD(Solid State Drive)向けが順調なNANDフラッシュメモリは、増収になるだろう。ファウンドリ事業の主力であるスマートフォン向けプロセッサは、2015年にスマートフォンの出荷が極めて好調だった反動で、伸びが鈍化する。全体としては、2015年の前年比11.8%増(Gartnerの推定値)という大きな伸びは、2016年には期待しづらい。
結論を粗く言ってしまうと、2016年に売上高比率はあまり縮まらない。わずかに縮まるか、あるいは2015年と同じ程度の比率で推移すると予測する。
2016年1月16日
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