汚れちまった悲しみに…
またこの日がやって来てしまった…
そう、金曜ロードショーで「天空の城ラピュタ(以下ラピュタ)」が放送されたのだ。
最近でこそあまりジブリ作品は見ていないが、自分の中で一番好きなジブリ作品はラピュタだったりする。
宮﨑駿のファンというわけではないし、むしろここ十年くらいのジブリ作品には触れていないのでたいして語る資格はないのだが、それでも「お前の中で好きなジブリ作品を一つ挙げろ」と言われたら、迷わず「ラピュタ」と答える。
ラピュタのいいところは、由緒正しい冒険活劇であることだ。
今更説明する必要もないが、「ラピュタ」は、謎の光る石「飛行石」をもった少女シータと鉱山労働者のパズー、そして飛行石を狙うドーラ一家と謎の軍隊(作中で言及がないから国家名は不明)の将軍。さらにはある意味もう一人の主人公とも言えるムスカ大佐。ありていな言葉で表現するのであれば、そんな個性豊かなキャラクター達が繰り広げる冒険譚だ。
だが、ある時期を境に、自分はラピュタを純粋に楽しめなくなってしまった。
もう十数年以上前だったか、まだYouTubeやニコニコ動画なんて無かった時代、「フラッシュ動画」というものがネットの片隅でブームを巻き起こしていた時代があった。フラッシュというのは、Adobeの(今では悪名高き)Flashの事だ。
自分は高校生の頃演劇部に所属していて、その時代には色々な作品の音声を切り貼りして面白く編集した「MADテープ」というものが一部地域で流行していたが、それの動画版のようなものだ。
※ちなみにMADテープはこういうやつ。今聞くと結構しつこい。
で、この流れを汲んだフラッシュ動画の中に、「ラピュタ」の動画もあった。雰囲気的にラピュタのMADテープに絵をつけたものだったのかもしれないが、自分が出会ったのはISDNとかで常時接続できるようになってからなので、その出自は知らない。
どんな動画だったのかここに貼れよと言う人もいるかもしれないが、残念ながらそれは出来ない。興味がある人は「ラピュタ フラッシュ」とかで検索してみて欲しい。ただし、このエントリを最後まで読んで、自分と同じようになってしまってもいいのであれば、だが…
※ここから先には「天空の城ラピュタ」のネタバレが含まれています。万が一未見の方は、ブラウザバックを推奨します。
もはや笑いの殿堂と化したラピュタ。
とにかく、例のフラッシュ動画を見て(聞いて)しまってから、自分は笑いなしにはラピュタを見られない。開始10分でもう台無しである。「親方ー! 空からおんなのこプシュー!」とか言っただけでもう草ですわ。草生やせと囁くのよ、私のゴーストが。
ポムじいさんが出てくるあたりも、本来ならば神聖な雰囲気で実に良いシーンなのだが、もう笑いを堪えるだけで精一杯である。パズーがラピュタに思いを馳せ「やるぞー!!」とか言った日には大草原である。
物語も中盤に差し掛かると、いよいよムスカが登場する。あいつは卑怯だ。いるだけで笑いをもたらす。個人的に、声優にタレントを使うのはあまり好きではないのだが、ムスカは寺田農以外には考えられない。当初は根津甚八だったらしいが、ムスカは寺田農で良かったのだと思う。ちなみに海外版の声優はマーク・ハミルである。暗黒面に落ちた的な何かを感じる…
ドーラが「40秒で支度しな!」と言って、謎テクノロジーの飛行機が出てくると、物語は最初のクライマックスを迎える。空中戦艦ゴリアテが出現し、ドーラと手を組んだパズーがシータの奪還作戦に向かうのだ。
飛行石が起動し、ロボットが目覚め、要塞が火に包まれると、もう名言の嵐で笑いを抑えられない。正直どうしたらいいかわかない。だが、パズーがシータを救出するシーンは流石にグッと来る。あそこは何度見てもカッコイイ。無駄なシーンが何一つない。
残り30分の主人公は間違いなくムスカ。
パズーとシータがドーラ一家の元で働くことになり、物語に束の間の日常のようなものが訪れる。
そして、その後に来る本当のクライマックスが、ラピュタの白眉であるといえよう。もうここからはムスカの独壇場なのだ(個人の感想であり云々)。
タイガーモス号がゴリアテに見つかるが、パズーとシータの前に現れた竜の巣が、まるで招き寄せるかのように2人を、そしてドーラ達やムスカをもラピュタにいざなう。
高度な技術を持ちながら滅び去った謎の文明。古来から使い古されたモチーフではあるが、久石譲の音楽とともに描かれたラピュタは実に美しい。設定では、その強大な科学力と軍事力で世界を支配していた事になっているが、住むもののいなくなったラピュタはまるで楽園のようだ。
ムスカが将軍に反旗を翻し、飛行石を使ってラピュタの中枢へ足を踏み入れると、そこからはもう笑いしか出てこない。正直、画面を正視するのが辛いほどだ。だが、思わず見てしまう。そこにラピュタがあるからだ。
将軍にラピュタの雷を見せつけて、ラーマヤーナなんかを引用するあざとい歴オタっぷりを披露するムスカ。「見ろ、人がゴミのようだ!」とか、「どこへ行こうというのかね?」とか、「3分間待ってやる!」などの名言を撒き散らしながら、シータをストーキングするムスカ。もうこの辺りはムスカのムスカによるムスカの為の時間帯だ。
ついに追い詰められたパズーとシータは、決して使ってはならないあの言葉を発する。そう、例のアレだ。
古今東西、悪が栄えた試しなし。
ムスカは眩い光に襲われ、急性メガメガ病を患う。釜の底が抜け、ラピュタは天に帰り、パズーとシータは偶然近くにあったタコを使ってドーラ一家の元へと帰ってくる。めでたしめでたし。
本当に、あのフラッシュ動画さえ見ていなければ、何度でも蘇るラピュタを何度でも楽しめたのに、あんなものを見てしまったばっかりに、もうラピュタは壮大なギャグ映画としか認識できない自分が憎い。
それでも、毎回なんだかんだで見てしまう。それがラピュタの凄いところだ。
最後にもう一度言っておくが、くれぐれも「ラピュタ フラッシュ」とか、「ラピュタ MAD」などのワードで検索はしないことだ。
二度とラピュタを正しく楽しめなくなってしまうのでな…
すまんがその検索ワードをしまってくれんか…
ワシには強すぎる…