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【ふくしま便り】

被ばく線量 知る大切さ コープふくしまの取り組み 

福島市中心部で昨年9月に計測された放射線量は、毎時0.28マイクロシーベルトになっていた

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 福島県に住むと放射能の危険にさらされる。そう考えている人が多いのではないか。厳密に言えば、それは間違いではない。ただし、この世に危険のない世界は存在しない。重要なのは、どの程度に危険で、どの程度に危険でないかを、十分な情報に基づいて見極めることだろう。

 興味深いデータがある。

 福島市に本部を置く生活協同組合のコープふくしまが取り組んでいる日常外部被ばく線量調査の結果だ。昨年四月、福島を含む十二都道県に住む百二人の調査員に線量測定機(Dシャトル)を七日間身に着けて、普通に生活をしてもらい、積算線量を調べた。県外の生協の協力を得てデータを集めたために、福島県の放射線量を全国のそれと比べることができる。

 結果は別表のとおり。

 最高値を比べると、福島市や郡山市などで調査した福島県では、七日間で二〇・七マイクロシーベルトの高い値が出た。だが一方で、東京都でも一七・六マイクロシーベルトが検出されている。広島県の一七・四マイクロシーベルトや奈良県の一七・一マイクロシーベルトの値も目に留まる。

 自然界にはもともと放射線が存在し、この値をバックグラウンド値と呼ぶ。西日本には花こう岩などが多く、バックグラウンド値が高い傾向にあることは頭に入れておきたい。

 福島県のバックグラウンド値は、残念ながら今となってはわからない。しかし原発事故の影響が少なかった青森県の測定値を参考にすることはできる。

 青森県の測定値の中央値の八・八マイクロシーベルトを福島県の最高値から引くと、追加被ばく線量は一一・九マイクロシーベルトと推測できる。これを年間に換算すると、〇・六二ミリシーベルトになる。

 サンプル数が少ないという批判を受けそうだが、コープふくしまは、この表の集計後も調査を続けており、新たに宮城、山形、長野、沖縄など各県の生協も加わった。調査員は約五百人に増えており、近いうちに新しい集計結果が出るだろう。

 コープふくしまの野中俊吉専務理事(56)は「原発事故の直後には福島市、郡山市などでも毎時二〇マイクロシーベルトを超えるほどの線量があった。しかし今は、他県と大差がないところまで落ちてきている。全国の人に本当の姿を知ってもらいたかった。自分の物差しで判断してもらうための材料を提供したかった」と調査を始めた動機を話す。

 後押ししたのは組合員からの要望だった。組合員は子育て世代の女性が多く、子どもたちの将来に不安を抱えている。

 福島県で生まれ育ったというだけで、結婚や就職で差別を受けるのではないか。ある日突然、健康被害が顕在化するのではないか。不安に押しつぶされそうになっている人も多い。

 そんな女性の組合員たちが「まず知ることが大切」と調査員を買って出た。福島県以外の生協組合員は支援の一環として参加してくれた。

 コープふくしまでは、日常の食事に含まれる放射性物質の測定もしている。陰膳方式といわれる方法で、例えば四人家族なら五人分の食事を作り、一人分を検体として提供してもらう。検体は、粉砕して混ぜ込み、約十四時間をかけて、放射性セシウムの量などを測る。汚染の実態を知る上で、もっとも有効な調査法といえるだろう。

 二〇一一年度から始めて現在は延べ六百家庭が調査に参加している。初年度は百家庭のうち十家庭で、一キロあたり一ベクレル以上のセシウムが検出されたが、一三年度下期の調査では、四家庭に減った。この食事を一年間食べ続けた場合、内部被ばく量は最大で約〇・〇四ミリシーベルトとなる。

 「最近は山形県などに避難した家庭にも調査をお願いしています。県外避難者は故郷の福島にも複雑な感情を抱かざるを得ず、孤立感に苦しんでいる。そんな人々とつながりをつくるという意味合いもあるのです」と野中専務理事は話す。

 詳細なデータは、コープふくしまのホームページにある。福島県は危険か否か。データを吟味して各自で判断してみてください。

(福島特別支局長・坂本充孝)

 

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