前回とは全く趣向を変えた本を
この本は、著者である三木笙子さんという人にとってのデビュー作にあたるとのこと。2005年の<第2回 ミステリーズ新人賞>で最終選考に残ったことをきっかけとして、(受賞はしていない)彼女は編集部を訪問し(!)作品の欠点を指摘してもらうと同時に次回作を見てもらう約束を取り付け(!!)、その後も作品を書き続けることによって、とうとうデビューにこぎつける(!!!)という、勇気と努力の人なのです。
確かにこの最初の本の最初の作品、つまり最終選考に残ったという「点灯人」は、読んでいると話の展開も少々ぎこちない部分を感じるし、全体としてはいまひとつまではいかないが、いま0.5くらいかな。(いま0.5は私の造語なので、気にしないで下さい)しかし、2話、3話と話が進むにつれ、様々なところが(話の語り口調、脇役のさりげない活躍、時代を遡り世界観を豊かに膨らますなど)全て上手くかみ合っていくという読む側を喜ばせる作品に仕上がっていくのです。
シリーズの2冊目、3冊目ですね。もうこの辺に来たら、若き雑誌記者と美貌の天才絵師の名探偵ホームズと助手ワトソンを模した関係を存分に楽しみながら、(何故か腰の低いホームズと偉そうなワトソンという組み合わせ)明治40年代に起こるミステリーの謎解きを、楽しむだけになります。
この三木さんの作品の特徴として、痛ましいことは起こるのですが残酷すぎたりショッキングな展開で後味が悪くなることがほぼないと言っても良いでしょう。出てくる人々はお互いを思いやりながらも上手くいかなかったり、事情をのみ込んで身を引いたりしますが、基本的には美しい世界に住む住人達です。ですから人によってはそのエグみのなさが、作品として物足りなく感じるかもしれません。
私にはこの本の世界は、まるで万華鏡をのぞいたのようだと感じました。筒を回せば、さきほどとは違うけれどもいくらでも美しい模様を見せてくれる、万華鏡の中にしか存在しない世界。でもそんな本があってもいいんじゃないでしょうか?
シリーズとしては4冊まで出版されているようです。表紙のみですが、イラストも内容にしっくりくる美麗さです。途中からは怪盗アルセーヌ・ルパンを模した人物も登場し、物語に一応の決着がつきます。
三木笙子さんという人が、決して諦めずに作家となり、そして作家としてどんどんと成長していく過程を楽しむシリーズとして読んでみるのもいいかもしれません。